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盗まれた自転車で走り出せない


拝啓


自転車を取り返しました。(警察が)

それだけなんですけど、今回の経緯だけしたためますので、後学のために読んでおいてください。

【復習】自転車が盗まれました

前回、自転車が盗まれた話をエッセイにしたが、途中からふざけすぎて意味がわからないので、簡単におさらいしよう。

<お昼に駅前のコインパーキングに停めて、夕方には盗まれていました。
小二時間探しましたが見つかりませんでした。
悲しかったです。>

と、いうことだ。
もう二度と逢うことはないだろうという気持ちが込められている。
しかし逢えた。
変わり果てた姿でね…!!!(後述。許すまじ)

さて、今回自転車と再開できたのには、圧倒的なきっかけがある。
「被害届」だ。(ドンッ!!!)

おいオマエ!!ナメるなよ!!!
「被害届」を馬鹿にしてんじゃねぇ!!!

そう、私は小二時間探した後、真っ先に交番へ向かった。
意外にも親戚に警察官が多く、『ハコズメ〜交番女子の逆襲〜』が大好きということもあり、冷静な判断だった。

(交番に入るところを行きつけの整骨院の人に見られており、後日施術中におそるおそる「あの〜、昨日駅前で見かけましたよ…。交番あたりで…」と小声で伝えられた。笑顔で弁明したが、その瞬間まで私は罪人だと思わていたであろう事実は腰痛を加速させた)

交番で事情聴取を受ける。
自転車購入時の書類や防犯登録の番号など、私のあまりの準備の良さに、
「ん…?お前もしかして盗んだ側…?」という視線を向けられた気がしなくもないが、順調に進んだ。

別の部屋からWBCの実況が大音量で聞こえてくる。
ラーメンを食べている音もする。
人が自転車を盗まれたっていうのになんて呑気な警察だと思った。
(しかし、その後交番に激ギレのおじさんが入ってきた時、瞬きの瞬間に飛び出してきたので、惚れた)

高校生が交番に入ってきた。
「自転車盗られたんスけど」とのたまっていた。
その瞬間でさえ、
(ププ…なんてマヌケなやつだ!)
と思った自分に呆れたが、事態は急変する。

高校生「駐輪場に停めてたんスけど」
警察「どこの??」
高校生「駅前の…向こう側スね」
警察「どの辺かわかる??(グーグルマップを見せる)」
高校生「あー…、なんか新しいところでマップには載ってないスね」
警察「そっか…。何時ごろかわかる??」
高校生「昼前遊びに行く時に停めて、今帰ってきたらなかったス」
私「………」

同じだー!!!

プロの仕業だ!!!!

計画的犯行だ!!!!

鍵をかけてない自転車を根こそぎトラックに詰めて、分解して海外で組み立てて売るんだ!!!!!


全く同じ状況のヤツが、同じ交番に入ってきて、10分前の私と同じことをのたまっている。
きっと今、私と同じ感情なんだろうなと思うと、
もうほんとに爆笑しそうだった。

事務的な手続きを終え、帰路につく。
念入りに「ジープの自転車です。自転車に”Jeep”ってかいてます」と伝えたが、警察がパトロール中、自転車にかかれた”Jeep”を確認するとも思えず、半ば諦めていた。


【復讐】復讐〜復讐を添えて〜


警察署から電話がかかってきた。
自転車が見つかった、というより、犯人を捕まえた、という連絡だった。
一時間後に行くと伝え、友達に連絡し、車で向かった。
自分のバイクで行かないのかって…?
行かないさ。だって、帰りは自分の自転車に乗って帰るんだからね♪

到着し、事情を伝えると、
「”被害者”の方ですね」と言われた。
人生初めての経験である。
私は、被害者だったのだ。

事件が起きて、犯人がいて、私は被害者だった。
私はこの世界の住人なのだと認識させられた。

犯人は、少年だった。
詳細は伏せるが、
(ああ、きっと損だけして泣き寝入りなんだろうな)
と思った。
だが、もはやそんなこたぁどうだっていい。
はやく逢わせてくれ!!!
おれの”愛車”に!!!

どこからともなく現れた私のジープは、以前とは似ても似つかぬ姿だった。
悲しいというか、恥ずかしかった。

2分早い腕時計や、2個のライト。
備え付けのベル、安全運転祈願のお守り。
防犯登録ステッカーと、家の駐輪場のステッカーと、高校の駐輪場のステッカー。

とにかく、何から何までなくなっていた。
ああ、そうか、と理解した。

一応、状況だけ伝えた。
相手の親には伝えておくとのことだったが、
「犯人が少年」という事実は超えられない壁の如く聳え立っていた。
要は、泣き寝入りだ。

犯人を捕まえた警察官に直接感謝を伝えられたのは、不幸中の幸いだった。
いまにもタックルしてきそうなナイスガイだった。
滅多にできない体験だと思う。

普通に近年稀に見る最悪の気分だったが、
いつまでもクヨクヨしてはいられない。
その足で、その自転車で、
前に進まなければいけない。
進み続けなければいけない。
忘れる必要はない。
ただ、この気持ちを胸に、
進み続けなければいけない。

送ってくれた友達に別れを告げ、
自転車にまたがった。


(ん…?なんか…なんだ…?)


違和感


(久しぶりに乗ったからなあ。
でも…なんか…なんだろう)


一度降りる


(なんか壊れてる…?いや、別に…)



「うわ!!!!!」



思わず声が出た。


サドルが少し上がっていた。



「泥棒の野郎…盗んだ自転車を快適に乗ろうとしてやがる…!!!」





たった1cmにも満たない程度だが、確実にサドルが上がっていた。
何度も元の位置に戻そうと調節した。
でも、しっくりこなかった。
腕時計やステッカーに比べたら些細なことだが、
私が復讐を決めた瞬間だった。
許すまじ。(まじ許さん)


警察に、自分の電話番号を相手の親に教えて連絡するように伝えてもらった。

後日、警察から相手の親の電話番号を伝えられた。
すぐにかけた。

ここからはリアルすぎて詳細は伏せる。
とにかく、私は損害賠償請求をした。
示談成立により本事件は終わった。

止まない雨はない。
明けない夜はない。

だからって、許したわけじゃない。
過去には戻れないし、
サドルは戻らない。

私は何より荷物を嫌うので、今まで自転車に鍵をかけて、その鍵を持ち歩くくらいなら盗られた方がましだと思っていた。
タバコを吸い、イヤホンで電話しながら自転車に乗ってるオラオラしたやつが、自転車を停めて鍵を抜くのを見ると、
(おまえ…そのなりで自転車盗られたくないんだ…ププ!)
と思っていた。

しかし、私は鍵を抜く。
鍵を持ち歩き、帰りにまたさして、自転車を漕ぐ。
鍵を抜くだけで、走り出せる。
私は鍵を抜かなかった。
だから、走り出せなかった。
もうこんな気持ちにはならない。

この物語は、これでおしまい。



いや、最後に一つ、言い残したことがある。


もし、最愛の人を闇の組織によって還らぬ人にされ復讐する覚悟を決めるも、命の恩人であり師でもあり、過去を語る人ではないがきっと悲しい過去を持ち、今も時折その片鱗を見せるような人に、
「復讐は何も生まぬ。生まれるのは、争いだけじゃ。前を向け!前を向いて生きるのじゃ!!(ドンッ!!!)」
と言われ、心が不安定になっている闇堕ち寸前の主人公がいたら、こう言いたい。




「徹底的にやれ。もう二度と失わないように」



そう、これは戦う君に向けた、私からの手紙だ。
泣くな。前に進め。その自転車で。


敬礼

敬具




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