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首笛部の思い出

2009年
3年F組 飽澤 栞

 春はもう目の前であっという間に卒業を迎えてしまいます。三年間は楽しくてクラスのみんなとも仲良くできました。本当にありがとう。
 色々なことがありましたが、学校生活で特に印象に残っているのは部活動です。私は首笛部に所属していました。
 首笛部を知ったのは中学のときに見た虚像祭の演奏会です。そこで首笛は喉元に穴を開けてリコーダーのように演奏すると知りました。
 先輩達はGReeeeNの『歩み』を吹いていました。最初、首を押さえながら演奏する姿に私は驚きましたが、聴いているうちにガラスのような繊細な音を自分でも出してみたいと思うようになりました。そのため、架空ヶ崎高校に受かったときにはもう入部を決めていました。
 初めて穿孔するときは少しだけ緊張しました。同じクラスで入った夏位さんは怖いようでぽろぽろ涙を流していました。
 先輩が手に持つ針はやけに鋭く感じました。
「ちょっとチクっとするよ」
 先輩がそう言うと針が刺さっていました。針は先端が熱されており、皮膚の上にきれいな円を描けるようになっていました。首笛用の穴が出来あがると、私は自分が新しいものに生まれ変わったような気がしてしばらくトイレの鏡で眺めていました。夏位さんは涙が止まっていてずっと真顔で私を見ていました。
 三年の秋、虚像祭で最後の演奏をしました。毎回の朝練は眠くてきつかったけれど、努力の大事さを知りました。本番では仲間と音程を合わせて先輩たちのようなメロディを奏でられた時は跳び上がるほど嬉しかったです。
 本当に、本当に嬉しかったです。なのに、心の隙間に冷たい風が吹くように感じたのはなぜでしょうか。夏位さんは二年の時に転校してしまいました。彼女の首に開いた穴から最後の虚像祭で音色を聴くことは叶いませんでした。
 初めて会った彼女はあんなに泣いていたのに、練習で私より上手く吹いた彼女はもういません。
 この文章も読むことはない。そう思うだけでこんなに悲しいのはなぜでしょう。

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