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【下】バルモラル城における色素復元大会とその顛末

コウチャ……かつて世界で愛されたこの飲料も、今では名ばかりが残っていた。

匂いこそ当時のままであれ、色なき色を彩るのは常人にとって不可能であった。

しかしキリンジは勝利を確信していた。彼にはサイバネ改造した左腕があったのだ。これさえあれば正解が発表された瞬間にサイバネチューブから当該色素を投入すれば良いのだ。

「サイバネがある限りお前に勝ちはない…。どうする……?」

対するツェペリは絶望の淵に立たされていた。コウチャは未だに史料の発掘されていないオーパーツ飲料。そもそも解答の用意されていない問題など雲を掴むような話だ。

「そこまで!!」

山高帽の朗々とした声が終わりを告げる。
高笑いするキリンジ。

「俺の負けだ……。」

雨に濡れる芝を見つめるツェペリ。芝の上は雨と血が混ざり合い地獄の様相を呈していた。

「む…?」

その時!ツェペリのニューロンに火花が弾けた!彼は咄嗟に手首を爪で裂いた!溢れる鮮血!紅い雫がグラスを満たす!

「コウチャ……いや、遍く飲料そのものが血の雫ほど大事なものだとあなたは気づかせたかったんだろう。答えがなくとも飲料そのものの在り方を俺みたいな偽物に教えたかったんじゃないのか?」

失血で薄れる意識の中、ツェペリは問う。

「……よくぞ気づいた。」

答えたのは山高帽ではなく、たった今キリンジを縊り殺した鉄仮面だった。雨は仮面をつたい涙を流すようだった。

「勝者……ツェペリ!!」

ツェペリは色素復元者として歩むことはできなかった。しかし、彼は色素復元者達にもなし得ない「飲料の尊厳」をこの日復元したのだった。

顛末をここに記す。
(おわり)

#紅茶パルプ #小説 #紅茶のある風景 #人が死ぬ

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