その顔を返せ
走る走る。私は駅の階段を駆け足で登った。人にぶつかるのも気にせず信号を渡る。20mも進むと牛丼屋と薬局に挟まれた道に出る。
曲がる曲がる。今日は千鶴の6歳の誕生日。やっとまともに祝える。もう仕事を言い訳にするのはナシだ。ケーキは買った。プレゼントもカバンの中だ。しまった。ケーキはもう買っているだろうか。ホールケーキが2つ食卓に並んでいる光景を想像し苦笑した。買う前に聞いておくべきだった。そう思いながらマンションのエレベーターに乗り込む。
上がる上がる。箱は軋むような音を立てながら5階で扉を開けた。腕時計に目をやると針はちょうど夜の9時半を指していた。クソッ、もう予定より30分も遅れている。扉を手荒に開ける。
「パパかえってきた!!」
「千鶴ったら食べずに待ってたのよ。」
「悪い、ケーキもしかして買って…た?」
2人の私の顔が居間を囲んでいる。そこに千鶴と妻の顔は無かった。電話が鳴った。
まわるまわる。
(続く)
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