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刀の鑑定書と刀剣店の意見どちらを信じますか?

無銘の刀があったとして、鑑定書は当麻極めだが、お店は行光と思う、と言っていたとします。
あなたはどちらの意見を信じますか?
尚あなたに見極めるだけの力が無いと仮定します。
(因みに行光極めの方が一般的に値段が高くなるので、「鑑定書が行光極めで、お店が当麻と思う」と言う場面はまずまず殆どないと思われます)

さてまず鑑定書ですが、現在売買されている刀剣はどういったランクの鑑定書が付いているかで値段が変わってきます。

保存刀剣<特別保存刀剣<重要刀剣<特別重要刀剣

右に行くほどランクが高くなり、出来や健全性が高いという事になります。
保存刀剣であれば概ね80万円以下で買えるでしょうし、特別重要刀剣になれば1000万円以上は大体してきます。
鑑定書によって値段がある程度範囲が決まるので、保存刀剣クラスを1000万円で買うような事態もそうそう起こらない。
つまり鑑定書があるからどんなお店でもある程度安心して買う事が出来ると言えます。

・刀の鑑定書のブラックボックス

一方で刀の鑑定書にもブラックボックスがあります。
審査する人の名前を審査元は開示していないので、誰が鑑定したのか分からない、という点です。
但し審査員の資格と審査人数とはこちらで公表されています。

・審査員の資格

(画像出典:公益財団法人日本美術刀剣保存協会 審査規程

審査員の基準は書いてあるものの、この奥伝位待遇の人がどの位刀を見れる人なのかというのが分かりません。
名前が分からないので当然です。正確に書けば奥伝位に合格したタイミングで確か刀剣美術に掲載されているので全く分からないわけでは無いのですが、どこかに資格保有者一覧でまとめられているわけではないので、探すのが非常に困難です。
次に「無鑑査認定=鑑識眼が優れている」結論づけているように見えますが、作刀や研磨が上手いことと偽銘かどうかを判断出来る事はまた別軸の話のようにも感じます。普通の人よりは遥かに刀が見える事は間違いないとは思いますが。

他の項目についても「優れている」というのをどう判断するのかが書いておらずなんともふわっとした基準である事が分かります。
優れているならば名前を公表しても良いと思いますが…。
勿論名前を隠す事で、忖度出来ないようにしているとも取れます。
また任期は1年という事で、毎年審査員が変わっているという事になります。昨年は駄目だったけど今年は受かった、という事象が起こるのはこの為だと思われます。

刀剣商に関わる人は審査に関われないという事も明言されています。
まぁこれは立場を利用した商取引が生まれかねないので関わらない方が良いかとは思いますが。

(画像出典:公益財団法人日本美術刀剣保存協会 審査規程


つまり、刀剣商以外で目利きの人が審査員として選出されている事になります。


・審査員数の規定

次に審査員の数は以下のように規定されています。

(画像出典:公益財団法人日本美術刀剣保存協会 審査規程

上記リンク先に詳細が書いていますが、例えば重要刀剣審査などは5~7名がその刀を見て、重要刀剣にふさわしいかを多数決で決めます。
重要審査以上は1次審査、2次審査があり、1次では明らかに合格基準に満たない物を排除するようです。
しかし1次で明らかに合格基準に満たないような物を排除したにも関わらず、外部委嘱審査員(より権威のある人?)から異議のあった物件は2次審査を受ける事が出来るという特別ルールが存在しています。
これが一部でわいろなどの悪い噂を呼ぶ理由にもなっていると思われます。

(画像出典:公益財団法人日本美術刀剣保存協会 審査規程


さてここまで読んで鑑定書についての考え方は変わったでしょうか。
鑑定書の「当麻極め」は、言い換えれば、誰かは分からないけど目利きの人(どのくらい目利きかも分からないけど)が、多数決で決めた(でも権威ある人の一存で1次審査を覆せる)内容と言えます。

一方で刀剣店は当たり前ですが、顔と看板を出して商売しています。
年間数千数万近くの刀を見る中でどの刀を扱うかは生活に直結します。
当然偽銘を掴むことは生活に関わります。
故に鑑識眼を高めないと生活できないという人達が刀剣商であり、信頼を商売にしているのが刀剣商という事でもあります。
しかし裏を返せば、生活が懸かっているのでお金の為に、客をはめ込んだり何でもする可能性があるのもまた捨てきれません。

・改めて

改めて冒頭の質問をします。
無銘の刀があったとして、「鑑定書は当麻極めだが、お店は行光と思う」と言っていたとします。
あなたはどちらの意見を信じますか?(尚あなたに見極めるだけの力が無いと仮定します)

私はお店の意見を重視します。
なので極論を言えば、鑑定書が付いて無くともお店の信頼している人が「これは○○だと思う」と言っていれば「そうなのだ」と思ってその刀を見ます。
こう書くと、おい騙されるぞ、と言われると思いますがこれはごもっともで。
なので信じる人は限っています。
信じるにあたりやはり何度も会って話して、実際にそこで刀を買ってみて、時間を置いてみて…を繰り返して当時の判断が正しかったかの答え合わせをしていかねばなりません。
それが今の所自分の中で当時の判断が間違っていなかったと感じているので信じているのですが、但し妄信するだけでは無くてやはり最後は自分自身で勉強しなくてはいけないのは間違いなく、自分でも同じように思った物にしか手を出さないようにはしています。

しかしプロがその気になれば私のような人間は簡単に丸め込まれます。
なのでその過程で騙されたら仕方ありません。
その人を信じたのは自分ですし、その刀を見て気に入って買ったのもまた自分です。非は自分にあります。
有名な鑑定家の方に鞘書きをしてもらう人もきっと似たよう感覚だと思いますが如何でしょうか。

鑑定書が信頼出来ない、という事を言いたいのではありません。
鑑定書はやはり信頼出来ます。特別重要刀剣に指定されているものはどれも傑出しています。
それを素人にも分かり易い形で提示する事はかけ離れた価格で物を掴まない為の消費者保護にも繋がりますし、非常に大事な事だと思います。
また鑑定書とお店の意見が一致している事もまたとても多いです。
その点誤解なきよう頂けると嬉しく思います。

似たような話で、鑑定は偽銘だったけど、お店の人が正真と判断した場合どちらを信じるか?という事も是非考えてみると面白いかもしれません。


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それでは皆様良き御刀ライフを~!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。



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