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透かしの多い鐔は強度面で問題が無いのか

鐔は日本刀の柄の上部に取り付け、重心位置を買える事で刀を振り易くしたり、突いた際に刃側に手が滑り怪我するのを抑える役割があるという。

鐔は茎に通してそれを柄で抑えている。

構造を把握する上で以下の方の図がとても分かり易い。

断面図を描くと以下のような感じだろうか。

断面図(刀身は短く描いています)


さてここで疑問になるのが、鐔の形状。
鐔に興味を持つ前までは私個人のイメージとして、戦の多かった古い鐔ほど透かしも少なく簡素な造りをしており、平和な時代になってくると意匠を凝らした物が登場する、そんなイメージが漠然とあった。

戦の多かった時代の鐔の形状のイメージ↓

画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より
画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より

平和な時代の鐔のイメージ↓

画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より

後者(透かしの多い鐔)はぱっと見ても如何にも強度が弱そうであり、茎孔に強い荷重が掛かる事で破損しそうにも見えた為、平和な時代の形状なのだ、という先入観があったからかもしれない。
しかし実際は戦の多かった室町時代に以下のような鐔も存在している。

画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より
画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より
画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より

また、南北朝時代にも黒漆太刀拵に以下のような構造の太刀鐔も付けられている事が分かった。

画像出典:「武士の意匠-透かし鐔- 」より

これらを見てみると、例えば以下のような赤丸部分は打ち合った際に強度的に問題がなかったのか非常に疑問がある。


・刀で打ち合う際にどこに負荷がかかるのか

ここで刀で打ち合った時の力のかかる部分というのを改めて考えてみる。
例えば青の矢印のような力が掛かった場合は、目釘を軸に黄色矢印のように回転して柄の内側に茎が当たるような青矢印の力が発生する。
(目釘を多く交換する理由があったのはこれが理由ではないだろうか。尚、柄と茎の隙間がかなり空いているように見えるが、分かり易くする為であって実際は殆ど密着していると考えて頂きたい。なので目釘だけに負荷が掛かるわけではないはず)

その際に同時に鎺(ハバキ)が切羽を押す赤矢印の力も発生し、これにより鐔に上部からの負荷が掛かると想定される。

このように考えると刀で打ち合った際に生じる鐔への荷重(赤矢印)は切羽台の赤四角の部分になり、この面は結局のところ反対面で柄の縁と接触しているので、切羽などの僅かなガタツキ分程度は歪むかもしれないが、殆ど強度的に問題がなさそうと考えられる。

故に思ったほど透かしというのは強度に影響しないのではないかと私の中での結論に至った。
但しこれはあくまで私個人の見解であり、実際の荷重はもっと複雑(個体差もある)に色々な部分に掛かると思われる。
切り方によっても変わるだろう。
なので、あくまで1つの見解として見て頂きたいです。
また別の見解がある方は是非教えて頂けると嬉しいです。

それにしても鐔の意匠も実に奥が深く面白いです。
鐔の材質についても南北朝~室町頃の古い時代の物には山銅の物も多く、むしろ鉄の方が少ない気もします。
この辺りも気になる事が多く、調べているとあっという間に時間が経っている毎日です。

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それでは皆様良き御刀ライフを~!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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