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成木鐔㉑ 四分一地の牡丹獅子図大小鐔

鉄鐔作りで有名な成木一成氏による四分一地の牡丹獅子図の大小鐔。
この鐔を手にしたのは2022年の大刀剣市であるが、まさかこのような四分一の成木鐔が存在しているとは思わず、目にした瞬間に衝撃が走ったのは記憶に新しい。
成木一成氏の作ではその殆どが鉄鐔である事は図録を見ても分かり非常に珍しい作に思う。
他に色金だと真鍮の安親写しなどが存在しているようである。
(本鐔については以前こちらのブログで触れた事がありますが、鑑賞記録として再編集したものになります。)


①大と小は全く同じ構図。なぜ?

大鐔と小鐔で何かしらデザインを変えている物は多いが、この鐔に限って言えば表裏含め全く同じである。
表には追いかけっこをしているような二匹の獅子と牡丹が描かれており、
裏には一匹の獅子が牡丹の横で寝そべっている。

口を開けている獅子はおらず、皆口を閉じてどこかを見つめている。その視線が合う事はなくバラバラである。
大小鐔で全く同じ構図を描く物は意外にあまり見ない気もするが、何か意図があるのだろうか。
そんな視点で見ていると、ふと思った。
「片方をひっくり返すとどうなるのか」

という事でやって見たところ3匹の獅子が一つの空間で共存しているように見える。
獅子の視線をもう一度追ってみる。
見ている方向を赤矢印で示して見た。

やはり皆視線がバラバラである。
ここで大小を腰に指す時どのような配置になるかを考えそこに鐔を移動してみた。

すると獅子の視線の先が合う。
もしこの構図にするのであれば、普通に考えれば小鐔の銘を反対面に書く必要があると思うのでこれはかなりこじつけに近い気もするが、片方を裏返す事で3匹獅子の図になり、この鐔の表現の空間が広がるような気がして面白い。
全く同じデザインを大小鐔に入れた成木氏は一体何を狙っていたのだろうか。


②成木氏の片切彫

成木氏の片切彫の作を目にするのは本作が初めてである。
まずは獅子の顔部から。

次に体部分。

次に牡丹や葉の部分。


参考までに以下は手持ちの江戸時代の金工、大月光興の片切彫である。

大月光興の片切彫

あくまで個人的な感想ではあるが、成木氏の鐔には鏨の強弱(彫の深さ)を利用した柔らかさの表現というものがあまり感じられない。
例えば光興で言えば、彫の深さを変える事で岩の硬さや波の柔らかさ、躍動感を表現している。

大月光興の片切彫


一成氏の鐔の獅子の渦部分を見ても力強さというよりも線がぶれている所から丁寧に彫ろうとしている様子が、慎重な鏨運びの様子が伝わってくる。
やはりこの辺りを見るに片切彫に慣れていないのかもしれない。

成木一成氏の片切彫

光興の曲線表現には迷いがないように力強く彫られている印象を受ける。

大月光興の片切彫


③四分一の色味について

この鐔を初めて見た時は真鍮かと思ったのだが、鐔箱に四分一と書かれているので四分一なのだろう。四分一というともっとグレーなイメージがある。
また光の当てる角度を変えるとどこか赤みが感じられる。


因みにルーペで白い光を当てると以下のような表面の色味で見える。


④終わりに

改めて成木氏の多様な技術力の高さに驚かされるし、優しさ漂う獅子も成木氏ならではの味が出ている。
躍動感を感じさせる鐔も好きであるが、このように穏やかな時間が流れている鐔も好きである。
因みにこの昭和52年の鐔は自身が持っている成木鐔の中でも最も古いものであり、ちょうど銀座松屋で第1回の個展「美濃の四季を追う」を開催していた時期に作られた鐔である。
個展は鉄鐔のみであるが、初期ほどこうした色金などに挑戦していたのかもしれない。
以下は安親写しであるが、本歌は真鍮地なので真鍮地と推測している。
但し製作年代は不明。

図録「成木一成の世界」より


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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