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成木鐔⑥「一成」二字銘についての考察

成木一成氏は無鑑査認定された現代鐔工であるが、現代鐔工であるがゆえに鑑定書が付いていない。もう亡くなっているのでもしかすると今出せば鑑定書が付くのかもしれない。
以前購入した岐阜県博物館で行われた「成木一成の挑戦」という成木氏の特別展の図録を見た所、そこに掲載されている約80点余りの鐔には全て「一成造」と銘があり、「一成」二字銘のものについては掲載が無かった。

この3~4ヵ月程度、刀剣店のHPで扱われている物や刀剣店で実際に拝見させて頂いた物を合わせて成木鐔を約10程拝見したが、同様に全て「一成造」となっており、二字銘は見られなかった。
現在その内7枚は購入し手元に置いて鑑賞している。

しかしヤフオクでは期間中3度ほど「一成」二字銘が出てきた。
これは本物なのだろうか。
写真を見るにどうもどれも本人作に思える。
例えば以下の出品中の鐔は鉄色の感じなど、まんま成木氏の作風に感じられてならない。
このような光沢があり白味のある鉄は成木氏の鐔に良く見られる気がする。



①同じ作者の同じ画題を比較してみる

そして以下の鐔も個人的には写真で見る限り作風が本物に思えてならない。
成木氏は鐔の中で製作に使用した材料を茎孔の右側に書くものがある。
図録にも沢山載っておりそれを見ると全国16か所の砂鉄を使い製作した事が述べられている。そして「以○○」と頭には「以」が必ず入る。
因みに写真の鐔にある北信砂鉄については図録には記載が無かった。
また図録に掲載されている材料名が刻まれている鐔はいずれも銘が「一成造」となっている。
故に一成銘について少し疑問が残る。

(画像出展: ヤフオク! -鉄鐔(武具)の中古品・新品・未使用品一覧

以下の鐔にも「以北信砂鉄」と書かれており、「一成」二字銘となっている。写真的に鉄の色味が分かりづらいものの、銘と箱書きは個人的には本人のそれに見える。ただ箱は中身だけ変える事は出来るので別物として考えた方が良いのかもしれない。
因みにこちらは昭和56年の作とのこと。
先の物は箱書きが無かったが、同じ材料を使ており銘も似ている事から同時期の作なのかもしれない。

そして上記の柳生鐔の水車図の画題については、つるぎの屋さんでも過去扱われていたようだ。
こちらは4年後の昭和60年の作であるが、「以伊豆白浜砂鉄」、「一成造」と銘が切られている。成木氏の特徴でもある鍛え割れも確認できる。
何よりこちらは第十四回刀連全国大会で1位に贈られた作で一成氏の正真作に間違いなく比較対象には良さそうである。

成木氏は同じ画題を3~5作っている事も多々あり、同じ絵だから先に挙げたヤフオクのものが偽物という事はないと考えられる。
ただ単純に画題が同じ分作風は比較しやすいかもしれないと思い、挙げてみた。
両者を比較すると何か見えてくるかもしれないがオクの方は写真も少なく、色味もよく分からないので実物が無いとなかなか比較は難しいのではないだろうか。


②銘を比較してみる

次に一成銘と一成造銘を比較してみる。
これは以下に挙げるようにとても似ている気がする。
左2つの「一成」銘はヤフオクのもの、右は図録掲載品や刀剣店で扱われている「一成造」銘のもの。
特に赤丸で示した銘と、「一成」二字銘はとても良く似ているように感じる。また左2つの銘はとても勢いよく自信をもって切られているように感じ、作風面(鉄の雰囲気)からもどうも本人の作に思えてならない。


③「一成造」銘の製作年代を調べる

次に成木氏が「一成造」と銘を切っていた時期であるが、一応私が確認しているものだけ抽出すると、昭和51、56、57、60、平成4~6、11~23年。
尚、平成7年と9年の作に「胞山」と銘をきったものがある。
(因みに号の由来として、胞山県立自然公園近くに居住したからという説があります)

平成9年の「胞山」銘↓

先に挙げた「一成」銘の作は昭和56年の作であり、この年は「一成造」銘も存在している。そして同様に先に挙げたこちらの鐔は昭和60年の作であり、この年も「一成造」銘が存在。

一成銘が正真とすると、同時期に二つの銘が存在した事になる。
その場合はなぜ分けたのか?
本人に聞ければ一番ですが、それは既に叶いません。

成木氏が鐔の製作と研究を始めたのは昭和35年頃。
昭和56年には中津川市の無形文化財保持者に認定され、平成21年に無鑑査認定を受ける。

現在私が拝見した事の有る鐔だと、昭和51年の作からなので、鐔の試作を始めてから16年後の作となる。
以降は確認出来ている作が飛び飛びなものの、昭和51年~平成23年までは「一成造」と銘を切ってあり、「造」を銘に入れる事に強いこだわりを持っているようにも感じる。
しかし平成7、9年頃に胞山と切っている例外もあるのでそれを踏まえれば「一成」銘もあった事は十分に考えられる気もする。

という事で、現時点で答えは出ないですが現状のメモとして。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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