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鈴木智彦『ヤクザと原発』(文藝春秋 2011)

暴力団関係の取材を主に行っているジャーナリストによるルポルタージュ。

https://www.amazon.co.jp/ヤクザと原発-福島第一潜入記-鈴木-智彦/dp/4163747702/ref=nodl_


福島原発での事故後に,取材のため作業員として潜入した顛末を記録したもの。

タイトルは「ヤクザと原発 福島第一潜入記」であるが,実際は原発での作業に従事した記録が中心で,ヤクザと原発との関係について触れられている箇所は思いのほか少ない。

とはいえ,事故後の原発での作業員の記録として,建前だけではない,生々しい現場の様子を描写しておりその点については読みごたえがある。
また,作業員として働きながら執筆作業も行っていたようで,筆者自身の感情の昂ぶりが文書の端々から伝わり面白い。しかし、それが「ルポルタージュ」としては蛇足であり,マイナス面であるように思う。

筆者の分析によると、都心部のヤクザと違い,地縁・血縁をベースにした地方都市では,ヤクザは必要悪として地域に根差していることが多く,それゆえに,「暴力団排除」の実効性が乏しくなるのだという。また,暴力団排除のための警察による取り締まりは「西高東低」であり,「東日本の暴力団は西と比較し,反権力ではなく,親権力」であることをその理由に挙げている。

一例として挙げられている,ヤクザと警察官と原発関連メーカーの社員が顔見知りの「同級生」という話など,確かに地方都市ではありそうなことだ。
行政やゼネコンが大きな施設を作る際など「地元説明」が行われるが,地方都市のヤクザは「地元(のまとめ役)」の機能を担っている(担っていた)のだろう。

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