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ある風の強い日🍃面を諸人に合わせ申すまじきこと。

意気込んで出かけたのはいいものの、強風に煽られただ寒いだけで帰ってくるなんて日もあったりする。


編み笠は雨や日よけにはいいかも知れないが、風に全く向いていない。広重の「東海道五拾三次之内」の浮世絵にもあるように、風で吹っ飛んでしまうのだ。


歌川広重画
「東海道五拾三次之内」「四日市」
東京都立図書館所蔵



虚無僧の天蓋(深編み笠)が、団子笠からあのような形になったのは、浪人が虚無僧に身をやつし、顔を隠す為だと言われているが、外で尺八を吹いている経験からすると、風よけの為にあのように深編笠に変化していったのではないかと思っている。


まず、普通の編み笠は風に下から煽られると、どうしようもない。
そして尺八を吹いていると、両手が塞がっているので笠を押さえるわけにはいかないのだ。


演奏を止めて押さえていれば良いという話では無い。目の前に聞いている人がいるのに吹いている途中で風のせいだといって演奏を止めては、人の心は掴めない。風の無い日に虚無僧やればいいという悠長なことも言っていられない。


それに、歌口から強く風が入ると、全く音は出ない。ちょうど、天蓋だと歌口の部分も隠れているのは風をよけるのに好都合だ。これも、コロナ真っただ中でクリアファイルでつくったガードで経験した。これをしていると、風よけになってとても楽だった。



そんな、超、強風の日にわざわざ虚無僧に行った日のこと。



昼間は穏やかで、気温も10度あった。最近昼間でも10度切っていたので躊躇していたが、昨日よりずっと暖かい。よし、今日こそ!


強烈寒波が夕方から来るとも知らず、一番虚無僧に不向きな日に出掛けていったのだ。



風が強くなったのは昼過ぎからだった。しかも駅前は工事をしていて、うーん、今日はついてない。が、せっかく来たから吹いていこう。



ほどなくすると、一人の男性が目の前で立ち止まっている。



写真を撮りだした。
しかも、わざわざ編み笠の中の顔が写るように下から撮っている。
時々こうやって写真撮る人いるが、これをやられるのは気持ちは良くない。


1800年代に書かれた虚無僧の掟、『慶長之掟書』には、

天蓋を取諸人ニ面を合申間敷事

とある。
面を合わせてしまった場合、どうなっていたんだろう。



その男性は斜め後ろに回って来た。
近い...。
なにゆえ後ろに?


一曲吹き終わり、一礼したら、その男性が話しかけて来た。

若い。



それ何ですか的なことを話しかけて来たので、尺八です。と答えるがあまり興味はなさそう。



そして、一緒に自撮りしていいですか?と言われ、彼はVサインをしながらコムジョと一緒に自撮りをした。
ここまでは、時々あったりする出来事。
Vサインする人はあまりいない気もする。




すると通りすがりの高齢婦人が、

「あら?尺八?寒くないの?」

と話しかけてくれ、手渡しで小銭をくれ「あら!バスがくるわ!」と急いで行ってしまった。
ありがたや🙏


だんだん風が強くなってきた。




そしてまだ隣にいる彼が何やら話しかけてくる。
普段、虚無僧姿の私には皆さん遠慮がちに少し離れて話しかけてくるが、この人は、


近い。


「どこから来たんですか?」から始まり「ボク27歳です」などど始まってきたので、



この寒風の中、虚無僧にナンパか?笑 と思いつつ、



「私は全然若くないです」(孫がいてもおかしくない年齢です)と心の中で呟きつつ、それとなくというかダイレクトに尺八やらないか勧誘してみたが、即効やらないと断られる。




次は「で、何やってるんですか?」という質問に「乞食やってます」と答える。ノーコメント。



「髪は結んでないんですか?ボク、結んだ髪の女性は全員好きです」などと話し始めたので、



(ただの変態か!!!)


という結論になり、


「すみません、乞食続けさせてもらっていいですか?」という私に、「ええ!まだ吹くんですか?」との彼。



多分最初から私が何をしているのか理解できてない人なんだと思いつつ尺八を吹き始めた。



ゆっくり彼は立ち去っていった。



色んな人がいるが、尺八に興味を示さないのに話しかけてくる人には要注意である。
やっぱり、顔が隠せるくらいの編み笠があるといいなぁ。




そしてその後、さらに強い寒風にさらされ、
偈箱は風に煽られクルクル回り、絡子(袈裟)も舞い上がり、編み笠は飛ばされそうになり、やむなく虚無僧を諦め、強風で遅延した電車を辛抱強くホームで待っていたのでした。


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