森家ファイト__ver1

2-4 氷の重爆ヤノ

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 まわりの野次馬からの、よくわからない拍手や歓声が響く。

    ヤノとふたり、大の字になって荒い息をつきながら、それを聞いた。


キャラ (1)

「……はあ……はあ……まだ……やるか……?」


キャラ (16)

ふう……ふう……いや……もういいぞお……俺の負けだ……なんか……暴れながらいろいろ吐き出したら、スッキリしたぞお」


「そっか」

「ハヤトよお……おまえ、まさか、そのつもりで、かよお……?」


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「へっ。さてな」


キャラ (1)

「おつかれさま」


 ナミがレッツプルを二本差し出してくれた。

 いつもの仏頂面だけど、どこか柔らかな表情に見えなくもない。

 俺は一本をヤノに放ると、一気に飲んだ。 冷たく甘い液体が、熱い身体に染み込んでいく。

 野次馬たちは散り、動物園は元の静けさを取り戻した。

「ヤノさんはもう大丈夫。ハヤトのハズカチィ友情パワーのおかげでね」

ハズカチイって……おまえがやれって言ったんだろ……」


 ……ったく。俺だって恥ずかしいよ……。

「なに話してんだよお」

    俺と同じサイズのドリンクが、ヤノのでっかい手の中にあると、リトルサイズみたいに見える。

ハヤト「ああ……何から話したらいいか。……とりあえずナミの紹介かな」

ナミ「え!?」

 いきなり話を振られたナミは、キュウリを見た猫のように驚く。


pナミ

「あ。う。え。えと……あの……ボクは……ナミ……って名前で」


 急に自信をなくしたように下を向いてしどろもどろ。相変わらずコミュ力に難があるな。

    バトル中はテンション高いのに、終わるとまた無愛想になっちまうし。

 だが、そんなナミを見て、ヤノは感心した顔で、ブツブツ言ってやがる。


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pヤノ

「(……なんてこった。この子、ハヤトがいつも話している『理想の女』を、そのままカタチにしたようなコじゃないかよお。……気味が悪いくらいだぞ……)」


ハヤト「あ? なんか言ったか?」

ヤノ「い、いや……」

 ジリリリリリリリリリ……!

 のんびりした空気を引き裂くような警報。

    突然の音に俺たちは顔を見合わせた。



『お客様に申し上げます! 緊急事態が発生しました。一部の動物がオリから脱走し、園内を徘徊しております! ただちに係員の案内に従い、安全な場所へと避難してください! 繰り返します……』

ハヤト「だ、脱走!?」

ヤノ「どういうことだよお」

 いきなりの事態に、家族連れやカップルが騒然となった。


メインキャラ (12)

「悪意!? しまった、本命はそっちだった!」


キャラ (1)

「悪意って、ヤノは大丈夫だったんじゃねーのか!?」


ナミ「ヤノさんはブラフだった。本当の悪意は別の場所に居たんだよ!」

ハヤト「なにいいいい!!!」

『お、お客様に申し上げます』

 騒がしくなった園内にまたしても放送が流れる。

『だ、脱走した動物は、猿山のサルやチンパンジー、そしてローランドゴリラとのことです!』

 こういう放送って、普段は間延びした口調で話すだろうに、女の係員の声には、はっきりと焦りがあった。

    そのせいだろう。それまで動こうとしなかった客が、一斉にパニックを起こした。

ハヤト「ご、ゴリラかよっ」


キャラ (4)

「脱走ってどういうことだよお。それに、『あくい』ってなんだ? ハヤト、また何かにクビ突っ込んでのかよお?」


 うるさいヤノを見て、アピロスのときのナミの気持ちがわかったぜ……。

    あのときは俺だったけど、緊急事態で余裕のないとき、事情を知らない相手にアレコレ聞かれたり説明するのは、なかなか面倒くさい。


「ゴリラだよっ。そのローランドゴリラが悪意の大元みたいっ」

 

「なんだとお!」


 マユの次の相手がよりによってローランドゴリラ!?

ハヤト「くそっ。俺とヤノは殴り合い損かよ……!」

ナミ「……それが、そうでもなさそうだよ」

ナミが示したタブレットの画面に表示されていたのは……。



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【ヤノ】 レベル4 EXP70 属性 氷

 HP 113 (S)
 攻撃力 106 (S)
 防御力 10 (D)
 特殊攻撃 12 (C)
 特殊防御 8 (D)
 素早さ 10 (E)
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――

【東西大学法学部三年生。21歳。規格外の体格でよく怖がられるが、実は心優しい。ハヤトの同級生。腐れ縁の相棒。ハヤトより少し成績が良く、大学は違う。

何事にも冷めているが、付き合いがいいことから、ハヤトに色々巻き込まれる。特技は部活でもあるアーチェリー。顔立ちはまるで白人】
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

【レベル1 メガトンパンチ 25/25 威力90 命中率70%】

《剛腕を振るうパワフルパンチ。凄まじい攻撃力で大打撃を与える。特に火属性の敵にはめっぼう強い。が、発生が遅く命中率が低いのが難点》
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キャラ (1)

「こ、こいつは……!?」


キャラ (1)

アリバの戦士、二人目!」


ハヤト「ヤノがか?」

ナミ「ハヤトのアリバだか友情パワーだかに感応して、覚醒したのかもっ」


キャラ (16)

「……な、なにを騒いでるんだよお。おれのことかあ?」


 ヤノは不安そうな顔。ったく、デカいくせに、ほんと気が小さいぜ……。

ハヤト「えっとな、時間ねえから、かいつまんで話すぞ」

 俺はそう言って、これまでのことをまくしたてるように説明した。

 鴻巣山。隕石。ナミとの出会い。アリバの目覚め。敵は悪意。福岡市を守るために戦う戦士……。

 ヤノはトロいし気も小さいが、頭は決して悪くない (俺よりランク高い大学に通ってるし)。

    半信半疑ながらも、事情はすぐ理解したようだった。


「それでさっき殴り合ったとき、ハヤトがいつもと違う感じしたんだなあ」


「まあな。アリバで強くなってなきゃ、おまえと真正面から殴り合いなんてできっかよ……」


「……あれ……? おかしいな」


 タブレットをにらんでいたナミが怪訝そうな声を出した。

ハヤト「どうした?」

ナミ「ヤノさんのステータスがちょっと変なんだ」

ハヤト「俺のときもそんなこと言ってたな。ヤノにも属性がないとかか?」

ナミ「いや、ヤノさんの属性は『』だよ。きっと、クールで落ち着いた、でも優しい性格なんだろうね」

 前に言ってたっけ。属性は性格で決まるって。

 確かにヤノは、火とか風って感じじゃない。氷で納得だぜ。


「おかしいのは、能力値。ヤノさんは見たとおり【パワータイプ】なんだけど、それにしたって攻撃力の数値が尋常じゃない。バグかな……。攻撃力106って、これ、Sランクだよ。普通の人間じゃありえない数値」


「……いや、あり得ないこともないぜ。なにしろ、コイツは握力150キロあるんだからな。攻撃力Sクラスも納得だ」


ナミ「あ、握力150キロ!? ほ、ほんとに人間!? ……ハヤト、そんなのとタイマンで殴り合ったのかー。よく殺されなかったね

ハヤト「やれって言ったの、おまえだろうがああああ!」


 そのとき、女性の悲鳴が上がった!

    見ると、草食動物ゾーンのほうから、たくさんの動物が殺到してくる!

 シマウマやヒツジ、ダチョウにバーバリーシープ、オリックスにキリン。それから、無数のサルにチンパンジー。たくさんの鳥の姿も。

 中でも、特に異様な迫力を漂わせている巨体が、群れの真ん中をのっそり歩いている。


 

  ローランドゴリラ。アイツがボスの悪意か!


キャラ (1)

「ヤノ! 詳しい話はあとだ! 俺たちで防衛線張るぞ!」


キャラ (4)

「ど、どうする気だよお……!」


ハヤト「ここであいつらを食い止めるんだ!」

ヤノ「ま、マジかよお。ここで? 俺たちだけで?」

ハヤト「わかんねーのか? 見ろ!」


「サルやチンパンジーどもが、他の動物のオリのカギを開けてやがるっ。アイツらがこの先の猛獣エリア行ってみろ! ライオンとかトラとか、肉食獣のオリを開けられちまったら、マジでシャレにならねえことになる! 俺たちで食い止めるぞ!」


「お、おう! やるしかないんだなあ」


「ヤノさんは氷属性。動きは遅いけど、体力と攻撃力が並外れている。その力を活かして前線で暴れてっ。特に火属性の敵にはガンガン強気でいいよっ。敵のボスのゴリラも火属性みたいだ!」


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pハヤト

「ヤノ! ザコどもは俺が引き受ける。おまえは、ボスのゴリラに集中しろっ」


pヤノ

「お、俺があいつとヤるのかよお……」


ハヤト「ああ。ゴリラ対ゴリラってわけだ。好カードだろ?」

ヤノ「ぬかせ」

 俺とヤノはふたり並び、動物の群れと相対した。


「行くぜ! 遅れんなよウスノロ!」


「そっちこそカッコつけすぎて、足元すくわれんなよお!」


 互いに軽く目配せすると、俺たちは敵の群れへとダッシュした……。


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