森家ファイト__ver1

2-1 フラグが立った!


風景 (22)


 アピロス事件の翌日。

 俺は、高宮通りにあるセーブカンパニーへと向かった。

 空は快晴。真っ白な入道雲が浮かんでいる。

 今日も暑くなりそうだぜ……。

 例によってナミは外で待ち、俺だけ店内へ。

 自動ドアを抜けると、すぐに例のグラマラスお姉さまが、


「広井さーーん。カタギリさん、来たよーーーー」


 店の奥から「のっっ……!!」という小さな叫び。

 美人さんに、奥へと通された。昨日と違い個室だった。

 中に入ると、白いデスクの前に座った広井さんが、顔を真っ赤にしていた。


キャラ (1)

「えと……カタギリ、参上」


キャラ (14)

「い、いらっしゃい……ませ」


 デスクを挟んで、固い顔の広井さんと向かい合う。

 うーん。なに、この反応? 

 あ。もしかして、広井さん、俺のことがちょっと気になるとか……?

 ははは。まさかな。俺がそんなモテキャラだったら、ケイにフラれたりするかっての。気のせい気のせい。


pハヤト (2)

「こんちは」


eスエ (2)

「こ、こんにちは」



ハヤト「今日も暑いね」

広井「え? あ、いや、私たちはこの店から一歩も出ませんから、あまり夏気分ないというか……ずっとクーラー効いた室内に居て、むしろ冷え性になっちゃって……」

ハヤト「ずっとこの店舗に? まさか住み込みで?」

広井「は、はい。奥に仮眠室があります」

ハヤト「そういや、俺の担当は広井さんひとりって言ってたもんな。バイトなのに、すげえんだな」

 広井さんはどこか上の空。パソコン画面をじっと見つめ、なんだか俺と目を合わさないようにしてるって感じだ。


キャラ (1)

「このバイトって、給料いいの?」


キャラ (14)

「え? えと……時給七百円……?」


ハヤト「安ッ!? なんだそりゃ。福岡市の最低賃金じゃねえか……」

 セーブカンパニー、ケチくせーだろ。ひとの人生管理してるくせに。業務内容と待遇がマッチしてねえにもほどがあるぜ。


ハヤト「とりあえずセーブ頼むわ」

広井「は、はい……! ただいま……」

 広井さんは、カタカタカタカタとキーボードを連打。

 カタカタ……カタカタ……。

 おかしいな。昨日のセーブ手続きは拍子抜けするくらいアッサリだったのに、今日はやけに時間がかかってるぞ。

 ていうか、なんか、同じキーばっか繰り返し叩いてないか……?

 と思ったら、広井さんが唐突につぶやいた。ボソリと。


キャラ (14)

「……『約束通り。助けにきたぜ、マユ』……」


キャラ (1)

「オウ!?」


 思わずオットセイみたいな声を出してしまう俺。

ハヤト「な、な、なんでそれを……?」

広井「ごめんなさい! 私、カタギリさんのことがどうしても気になったゃって……セーブデータをノゾキ見しちゃったんです。プロテクトかかってたけど、こう……チョチョイと外して。……アピロスの『テロリスト襲撃・集団幻覚・ガス爆発・局地的サイクロン事件』を解決したのって、カタギリさんだったんですね……」


pハヤト

「……そうだよ」

 俺の人生をデータ管理してる相手に、隠し事は出来ねえよな。


eスエ

「やっぱり……! カタギリさんって、もしかして、正義のヒーローなんですか!?」


ハヤト「え? まあ、それっぽいというかなんというか……」

 じつは俺にもまだよくわからん……。


キャラ (14)

「すごいっ。かっこいいっ!」


 手を振りまわし、大げさにホメてくれる広井さん。

 俺は照れ隠しに言った。


キャラ (1)

「で、でもさ。その、プロテクトを破ってのぞき見って、ヤバいんじゃないのか?」


広井「……はい。就業規則に抵触しまくりんぐです。もしバレたら、人生終わるくらいの損害賠償と違約金を支払わされるかも……」

ハヤト「お、おい! 時給700円が無理すんなよっ」


キャラ (14)

「……じつは……わたし……小説家に、なりたいんです……」


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キャラ (1)

「小説家? それって……」


広井「はい。……カタギリさんの夢と同じ、ですね」

 あ、そっか。俺の記録を管理してるんだもんな……。筒抜けってわけか。

広井「でも、最近、創作に煮詰まってて……」

 広井さんの表情がくもる。童顔だからか、進路に悩む女子高生みたいな初々しい雰囲気だぜ……。

広井「カタギリさんに出会ったとき、ビビッときたんです。このひとを主人公にした話を書いてみたいって」

ハヤト「そりゃ光栄だな。あ、それで俺の記録を……?」

 広井さんはコクリとうなずいた。そこまで俺に興味を持ってくれるなんて、なんか嬉しいよな……。


pハヤト

「……わかった。こうしようぜ。俺が体験した出来事について、俺自身が、話して聞かせる。そうすりゃ、データのぞき見なんて危ない橋渡らなくていいだろ? それを小説のネタに使ってくれていいぜ」


eスエ

「……いいんですか?」


ハヤト「でも、ひとつだけ条件がある」

広井「え。条件!? でも私、童顔だし、コドモ体型だし……おっぱいだって小さいし……」

ハヤト「おっぱい? いやいやそんなんじゃなくて、かたっ苦しい言葉遣いをやめてくれ、ってことだよ」

 広井さんは目をぱちぱち。

ハヤト「もっとフランクに話してくれないか? 友達と話すみたいにさ。ていうか、いっそ友達になってくれ」

広井「それが条件なんですか?」

ハヤト「ああ。広井さんみたいなキュートな友達できたら俺も嬉しい。それから、俺の事はハヤトでいいぜ。まわりのやつは、みんなそう呼ぶ」

広井「ハヤト……」

ハヤト「おう」

広井「だったらアタシのことも『スエ』って呼んで欲しいの」

 広井さんは、大きく「んーーーー」と伸びをした。


キャラ (14)

「よろしくね! ハヤト」


キャラ (1)

「よろしくな! スエ」


eスエ (2)

アタシね、ちょっと話し方が変なの! クセなの! だから、この会社に入ったとき、話しかた変えたの! 強制的矯正なの! もうね、それがキツくてキツくて! ほとんどゴーモンだったの! これからは素で話せると思うと、スッキリなの! んふふー!」


 たしかに妙ちくりんな口調で広井さん……いや、スエは話した。

 でも、これはこれでカワイイよな?


pハヤト

「無理することはないさ。仕事とはいえ、楽しくやらねえと。こっちだって、誰にも話せない不思議な俺の体験を聞いてくれる友達ができてうれしいぜ」


eスエ

「んふふー……『一見ぶっきらぼうだが、実はお人よしで面倒見がいい』……まさしくその通りなの!」


ハヤト「はは……ステータス画面のアレか……」

 ふとナミのことを思い出した。反射的に左手のGショックを見る。

 ゲゲッ!? もう30分以上経っちまってる!

ハヤト「……スエっ。また今度ゆっくり話そうぜ。そろそろ行かないと。外で待たせてるヤツが居るんだ」


キャラ (14)

「……ナミ? ハヤトのパートナーの……。でも、ちょっとおかしいの! ナミに関する記録だけが、ぜんぜん見られないというか……私でも解けない特殊なプロテクトがかけられていて、これじゃまるで……国家最高機密」


 スエが何やら難しそうな話を切り出したが、ナミの怒りっぷりを想像すると恐ろしくて、それどころじゃなかった。


キャラ (1)

「スエ。その話はまた次回な!」


 俺は席を立ちあがる。

 スエは「う、うん」と戸惑った顔で返事したが、すぐに元気に笑った。


eスエ

「ハヤト! 正義のヒーロー、頑張ってね! またのお越しを、あらためてお待ちしていまーす!」


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