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6-3 この物語の道化たち


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 だだっ広い屋上には、男がひとり佇んでいた。

 こっちに背を向け。

 まるで虚空を眺めているように。

 それがアリバの持ち主なんかじゃないことは、ひと目見てわかった。

 そして、俺がハメられたことも。


キャラ (6)

「ハイ。終点ー」


キャラ (1)

「………おまえ…………カスガじゃないな」


カスガ「あははー。カスガだよー。アリバの戦士のー」

ハヤト「……おまえは誰だって聞いてんだよ」

 怒りが湧いた。

 身体の奥の奥底で、得体のしれないスイッチが入ったような感覚。

カスガ「ハヤトの親友カスガだってー。だからおまえだって、まんまとダマされて、ここまでひとりで来たんだろー?」


chara7 - コピー (3)

「俺の友達の顔で、フザけたこと言ってんじゃねえ!」


 黒ずくめの男がゆっくり振り返った。


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pナミ

 ビクッ!


 ナミが身体をすくめた。猛獣にでも対面したように。

 なんだ、コイツ……。

 筋肉質な長身。長い銀髪。黒ずくめの衣装。とどめに黒いロングコート。

 真夏だってのに、冗談みたいなカッコウしてやがる。

 なのに、その醸しだす殺気に、寒気すら感じる……。

 何より目を引くのが、その男の右腕……金属の義手だ。

 恐ろしく、不気味で、そして目が離せないほど美しい、鋼鉄の腕。


pホクト

「おまえが……ハヤトだな」


 男が口を開いた。悔しいが、聞き惚れるほどの美声だった。

 俺より背が高く、俺よりスタイルがよく、俺より筋肉質で、俺より顔も声もいい。

 認めたくはないが、自分の完全上位互換に出くわしたみたいな敗北感。

 くそっ……こんな気持ちになるなんて、初めてだ……。


pハヤト

「……そーいうおまえは誰なんだよ」


キャラ20

「ホクト……この物語の道化だ」


キャラ (1)

「へっ……道化を自称とは、スカした野郎だなっ。この『カスガモドキ』とツルんで、いったい何を企んでやがる!?」


pカスガ


 カスガモドキ、と俺が呼んだ『ソイツ』は、とつぜん魂が抜かれたように棒立ちになっていた。まるで人形みたいに。


pハヤト

「おいナミ! さっきからどうした? なんでしゃべらねえ? コイツの正体は? ステータスは!?」


 ナミは首を振りながら後ずさっている。泣き出しそうなほど怯えた顔で。


pナミ

「…………あ、あ、あ、あ、あ…………」


ハヤト「な、ナミ? どうした! タブレット出せよ! コイツも悪意なんだろ!?」


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 ナミは答えない。ヘビの前のカエルのように、完全にのまれ、すくんでしまっている。


キャラ20

「震えているな。怖いのか?」


キャラ (1)

「……へっ。どうもそうらしい。ナミも女の子ってことだなっ……」


ホクト「ちがう。お前が、だ」

ハヤト「……なにぃ!?」

 その通りだった。俺の全身は、小刻みに震えていた……。

 歯を食いしばってそれを止めようとしたが出来なかった。


pホクト

「……心配するな。今日は殺さない。お前に少し刺激を与えに来ただけだ。屈辱という、な」


 ホクトが音もなく前に出てくる。

 たったそれだけなのに、全身があわ立った。

ホクト「まあ、種に水をやりにきたようなものだな」

 そう言って、無邪気に微笑む。

 それは場違いなくらい魅力的な笑顔だった。


pホクト


 気がついたらホクトはすぐ目の前に居た。

 体格ならヤノのほうがデカい。物腰は落ち着いていて、暴力とは無縁。紳士的と言ってもいいくらいの風格だ。

 なのに、恐ろしいほどの威圧感、圧迫感。

 こいつ……イケメンの皮をかぶった、人食いヒグマかなんかかよ……!?


キャラ20

「どうした? 俺は悪意。お前の敵だぞ。かかってこい」


キャラ (1)

「ナミ! コイツの属性は!? 必殺技は? どうしたってんだよ!」


 すがるようにナミを見た。

 ナミは相変わらず言葉を失ったかのように首を振るだけだった。


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pホクト

「…………じきに、おまえの仲間がここに来る。おまえに刺激を与えるなら、何も『屈辱』じゃなくてもいい。目の前で仲間をやられる『悔しさ』でもな。たとえば、おまえの弟を叩きのめすなんて、面白いかもしれん」


 弟。叩きのめす。

 その言葉で、瞬間的に、恐怖より怒りが勝った。

 ホクトは【種】という言葉を使ったが、まさしく、俺の中にある怒りの種から、何かがいきなり芽吹いたようだった。


chara7 - コピー (3)

「てめええええええ!!!」



 必殺パンチ!

 きいんっ。

 だが俺のパンチはたやすく止められていた。鋼鉄の義手によって。


キャラ20

「……【レベル1 必殺パンチ】か」


 ホクトが含み笑いしながら言った。

ホクト「間抜けた名前だが、性能は悪くない。ハヤトの特性『先読み勘』により、相手の動作の『起こり』にカウンター気味に当てている。だから、単純な見た目に反し、大きなダメージを与える」


キャラ (1)

「なんだと?」


 ナミがいつもやるような解説をするホクト。それも、俺自身が知らなかった分析までまじえて。

ハヤト「くそっ!」

 もう一度必殺パンチ!

 義手によって簡単に受け止められた!


pホクト

「だが、まだまだ未熟だ。角度と体重の乗せ方が甘い」


 瞬間、俺の顔にドゴンッと固いものがブチ当たる!

 今までの誰よりも強大な力でふっ飛ばされ、俺はゴロゴロ転がった。

ホクト「これが手本だ……ミネルヴァパンチ


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 チュイインと機械的な音を出し、義手の指を閉じたり広げたりする。

ホクト「……筋電感知デバイス作動……アクチュエーター動力接続……」

 起き上がろうとするが、身体が動かねえ!

 一発食らっただけでわかった。

 コイツは今までの敵とまったくレベルが違う……! 違いすぎる!


pホクト

「ちなみにミネルヴァというのはこの義手の名でな」


 コンクリの床でブザマに転がる俺の目の前で、ホクトは言った。

ホクト「どうした? 待っててやるから、ドリンクでも飲んで回復しろ」

 こんな…………こんな屈辱は生まれて初めてだ。

 それでも、俺はなんとかレッツプルを取り出し、飲み干した。すぐに身体を起こす。


キャラ20

「続きだ」


pハヤト

「………………………………」集中!!


キャラ20

【……【レベル2 集中】……」


キャラ (1)

「……!!?」


ホクト「意識を研ぎ澄まし、己の肉体に眠る潜在能力を開放させる……お前の切り札だな」

 すべてが見透かされる。なにもかもがコイツには通用しない。

 そんな絶望から目を背けるように、俺は走りながら最後の集中!

 パパンッ! コンセントレイトモード!


pハヤト

「食らいやがれええええっっっ!!!」


 続けざまにパンチを放る!

 しかし、ホクトはそよ風にでも吹かれるように、それをすべてかわした!


pホクト

「まったくの欠陥ワザだな。そもそも、本来のチカラを完全に発揮させるのに、3ターンもかけるなど、非効率の極み」


ハヤト「くそっ! くそっ!!」

ホクト「意識を研ぎ澄まし、潜在能力を開放するなら、脳内麻薬をコントロールして、肉体の限界を越えるくらいはしてみせろ」


pハヤト

「だまれっ! おまえの喋り方はイチイチ頭に来るんだよッ!!」


 左右のワンツー! さらにヤツの左足目がけてローキック!

 意識を下に振ったところで、身体を一気に右回転。胴回しゲリを見舞う!

 ガッ!

 ホクトは視線を動かしもせず、頭上の死角から襲った俺の右足のカカトを、義手で受け止めていた。


pホクト

【レベル3 ハヤトスペシャル】。名を言うのも恥ずかしいワザだが、意外に高性能だ。ワンツーからローというコンビネーションで相手にスキを作るのだが、おまえの『先読み勘』によって、トドメのケリを、敵の意識の外側から当てている。まわりから見れば、なぜ簡単に、後ろまわし蹴りが当たるか、不思議だろうな」


 ち、ちくしょう! なのにおまえには、まったく通用しねえじゃねーか!

ホクト「だが、惜しいな。コレも精度がいまひとつ……手本はこうだ!」

 ホクトが、稲妻のように鋭いワンツー!

 さらにハイキックをかましてくるコンビネーション!

 とっさに上半身をガード!

 防いだと思ったら、大蛇のように地を這う回転ゲリが俺の両足をズバンッと刈り取った! そしてトドメのパンチが俺を撃ち抜く!


pハヤト

「があっ!」


pホクト

「……グランドスラム」


 ダメだ……これまで戦った誰よりも強い……あのフユキ先生よりもだ。

 そして……コイツがまだまだぜんぜん本気じゃないということもわかる。

 絶望。絶対に越えられない壁……まさにコレを言うのだろう。

 コイツにはあらゆることでかなわない。細胞レベルでそれを実感しているが、ナミの前でそんな情けない自分を認めるわけにはいかねえ……。

 ……ナミ。こんな俺を見て、ナミはどう思っている?

 薄れゆく意識の中で、俺はそう考えて……


pホクト

「……まあ、ナミからの借り物のアリバでは、その程度が限界か」


 そのひと言が、暗転寸前だった俺の意識を繋ぎ止めた。

 だが、身体のほうはまったく言うことを聞かない。

ホクト「…………落ちたか。モロいものだな」

 指一本動かせず、意識だけがかろうじて残っている状態。

 いきなりナミが口を開いた。


メインキャラ (12)

「…………ホクト……なにしにきたの?」


キャラ20

「…………なに。お前だけに任せておいてはラチがあかんと思ってな」


ナミ「…………あの方は、知ってるの?」


pホクト

「俺は道化。舞台を盛り上げ踊るのに、誰の指図も受けない」


pナミ

「……勝手なことを! ハヤトに関しては、すべて私が一任されているはず!」


ホクト「フッ。駒がずいぶん偉そうではないか」

 グッ。俺の身体が義手で持ち上げられた。

 ゴミのように片手でぶら下げられている。相変わらず、耳以外は何も利かない。だが俺は、ナミとホクトの会話を、頭に刻むように聞いていた。


pナミ

「……ハヤトにさわるな!」


pホクト

「ほう。情でも移ったか?」


ナミ「………………………………」

ホクト「勘違いするなよ……おまえはエサだ。それ以上でもそれ以下でもない」

ナミ「………………………………」


キャラ20

「なんだその眼は。俺とやり合う気か? ハヤトの治療でアリバを失っているお前に何ができる?」


メインキャラ (12)

「ホクトオオオォォォ!!」


 ナミがホクトに突っ込んでいく。

 情けないことに、俺はそれをただ、聞くことしか出来なかった……。


ナミ立ち絵1




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