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7ー6 さよなら悪意の娘


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キャラ (1)

「くそっ。ナミ! マユやケイのときみたいに、あの子を悪意から目覚めさせること、できねーのかよ!?」


メインキャラ (12)

「…………ダメ……コノミは、最初からこうなるために作られてる……今までが奇跡みたいなものだったんだ……」


pハヤト

「シモカワ……こうなったら、もうおまえしか居ねえ……その子を……コノミを楽にしてやれ……!」


pナミ

「シモカワくん。コノミはとっくに悪意として覚醒していたんだ。シモカワくんが家を出て会いに行く前に。自我どころか、ヒトのカタチを保っているのが不思議なくらいだったんだよ! だけど、コノミはコノミであり続けた。キミのために……キミのことが好きだからッ!」


 ハヤトさんとナミさんの声が。どこか。遠くから聞こえてくる。


キャラ (8)

「コノミ」


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「………………………………」


「行こう。海はあっちだよ」

 つとめて平和な口調で語りかける。

 ふたりで過ごしたあの日常のように。

 昼下がりの学校の教室で過ごした、のんびりとした時間のように。

「ウみ?」

「ああ。二人で見に行こうって。コノミに海を見せてあげるって、約束したろ? それでここまで来たんじゃないか」


キャラ (1)

「…………シモカワ……? おまえなにを……」


メインキャラ (12)

「待って。コノミの悪意の増殖が収まった……シモカワくんの語りかけで……シモカワくんが話しかけることで、コノミの自我が戻ってきている……」


キャラ (8)

「もう海はすぐそこだよ」


e_41_boss_コノミ

「…………せんぱい…………ワタシは…………」


「だいじようぶ。さ。いっしょに行こう」

「ワタシは…………いけません…………ここまでみたいです」

「コノミ?」

「もう身体が自分の言うこトをきかないんです。せんぱいに危害を加えないのがせイいっぱい。ふふふ。海まであと少しナのに」

「……………………」

「せんぱいがひっしにたたかって、ここまでツれてきてくれたのに…………ワタシって、ほんとドんくさいしダメだ」

「コノミはだめなんかじゃないっ」


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「…………おねがいです。せんぱい。ワタシを斬ってください。センパイは、ワタシに殺されてもいいって言ってくれた。本当に嬉しかったんです。涙が出るほど。でも、ワタシの気持ちもかんがえて? せんぱいを傷つけてしまったら、ワタシは今度こそ、生まれてきたことを後悔するんです。せっかくセンパイが、希望をくれたのに」


キャラ (8)

「………………………………」


 僕は無言で腕を払った。

 ボウッと悲しくなるほど弱々しい炎がコノミの身体を裂いた。

 コノミが微笑んだ。


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「……せんぱい。ナにかお話してください。そシたらもうすこしだけがんばれそうですかラ」


「…………もう少しなんて言っちゃだめだ。僕らは、これから、ずっと一緒に居るんだろ? 今日だけじゃない。海だって何度でも連れて行く。志賀島だけじゃない。能古島でもいいし、少し遠いけど、電車で糸島だって連れて行くよ」

 言いながらコノミを斬る。

「ほかにも、花火だって、祭りだって」

「うふふ。いいなあ。せんぱいとはなび、おまつり。ワタシ一度でいいから浴衣きてみたかったんですよう」

 何度も何度も。


キャラ (8)

「ゆ、ゆかたなら、僕の姉ちゃんのがあるよ。お古だけど。きっとコノミに似合う。……にあうに……きまってるっ」


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「でも、とくべツなこと、しなくてモ、いいんですよう。東和にかよっテ、教室でべんキょうして、シンジローせんぱイやかわはラせんぱいと、おしごトして、すごくすごくたのしい……大切な……時間」


「そ、そうだ……夏休みが明けたら、忙しくなるっ。体育祭だってあるし、文化祭も、修学旅行も……」

「ああ…………たのしみだな…………」

「コノミがてつだってくれたら、すごく助かる……だから、これからも、僕の仕事を……てつだって」

 何度も何度もなんどなんども。

 僕は炎でコノミの身体を斬る。

 コノミの姿がにじむ。のどがふるえる。


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「……はい……ワタシ……どんクさいけど……グガガ……い、いっしょうけんめい、てつだいますカラ」


 止まりそうになる自分の腕を、必死で動かし、コノミの身体を炎で裂く。

 それが、コノミの望みだと、

 楽にしてあげられるただひとつの方法なのだと、弱い自分に無理やり言い聞かせて。


キャラ (8)

「………………………………」


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「ワタシはせんぱいのとなりにいてもいいんですか?」


「あたりまえじゃないか」

「デートしてくれますか?」

「あ、ああ……する」

 なんどもなんどもなんどもなんども。僕は。


キャラ (1)

「…………なんだよ、コレ……こんなの……残酷すぎるだろうがよッ……!」


メインキャラ (12)

「……………………………………」


 ハヤトさんが地面を殴った。

 ナミさんは泣いていた。

 何度も斬って。なんども燃やして。ちくしょう。どうして僕はこんなにも無力なんだ。


キャラ (8)

「……………………………………」


e_41_boss_コノミ

「せんぱい……泣かないで」


 コノミの指が僕の顔に触れる。

 冷たい、氷のような細い指。

 でも触れられた場所は熱く。


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「…………ありがとう………………ワタシは人形でも道具でもありません…………だって、こんなにしあわせなんだから」


 ――  生まれてきてよかった ――

 ……それがコノミの最後のことばだった。



プロローグ2 (5)




 遠くに人垣ができているのをぼんやり眺めた。

 赤色灯が回転している。

 なにも考えられない。

 これは現実なんだろうか。

 アリバとか悪意とか。

 なんだか、だれかが考えた、出来の悪い物語みたいだ。

 僕とハヤトさんとナミさんとコノミは、騒ぎから離れ、金印ドッグの屋台がある松林に居た。

 緩やかな朝の潮風が頬を撫でる。空はもう夏の朝の青みを帯びて。


pナミ

「…………はい。逃走したM-002を発見・回収しました。すでに機能は停止、危険はありません…………はい。了解しました。お願いします……」


 離れた松の木の間でナミさんがタブレットに話しかけているのを、僕とハヤトさんは遠目に眺めていた。

 ハヤトさんはひと言も口を開かなかった。


メインキャラ (12)

「…………もうすぐM-002……コノミを回収に処理班が来る」


キャラ (1)

「…………………………」


キャラ (8)

「…………ナミさん……教団って……なんなんですか…………」


 僕はドロリとした瞳をナミさんに向ける。全身がダルくて、感情が痺れている。


pナミ

「…………福岡市を守るために組織された機関」


「それは知ってます! コノミに聞きました! なんで、僕らの敵が、福岡市を守るとか言ってるんですか! だいたい、ナミさんって何者なんです!? 敵なんですか味方なんですか? そもそもアリバとか悪意ってなんなんだよ!? 答えろよ、ちくしょおおおおお!!」

「…………まだ言えない」

「!!」

 思わず僕の右手から怒りの炎が吹き出した。

 スッとその腕をハヤトさんがつかんだ。


メインキャラ (12)

「…………もうわかってると思うけど、ボクは教団と関わりがある。だけど、ボクはハヤトとシモカワくんの味方だよ。そして、教団は敵。いつかそのときが来たら、ボクは全力で戦う。教団と。そしてこのロクでもないゲームを仕組んだ黒幕と」


キャラ (8)

「…………黒幕? 誰なんですかそれは!? ソイツがコノミをこんなふうにしたんですか!?」


 僕は地面に横たわるコノミの身体を見た。コノミはもう、動かない。

「それも言えない」

 ナミさんのキッパリした口調に、怒りが暴発しそうになった。


キャラ (8)

「アンタまだそんなこと言うとかッッ!!」


 ナミさんを激しくにらむ。

 でもナミさんは、澄んだ、まっすぐな瞳でその視線を跳ね返した。


メインキャラ (12)

「なぜなら、それを話した瞬間、ホクたちはその相手と今すぐに戦わなくちゃいけなくなるから。けど、ボクたちはまだ弱い。今のままじゃ絶対に勝てない! だから、その先は言えないんだ」


 ナミさんは、急に勢いを無くしてうつむいた。

 哀惜を帯びた瞳で、コノミを見つめる。


pナミ

「…………もっと強くならなくちゃいけない。ハヤトも。シモカワくんも。みんなも。そしてボクも……。

 ボクは、今日のコノミを絶対に忘れない……忘れるもんか!

 コノミは、女としての強さをボクに見せてくれたよ。誰かを好きという気持ちだけで、コノミはあそこまで戦えた。それはボクに勇気をくれた。ボクには、コノミの気持ちが痛いくらいにわかる……

 ……だって、ボクも同じだから」


pハヤト

「ナミ……? そりゃどういう……」


 ババババババ!

 遠くの空から音が響き、赤い光を点滅させたヘリが近づいてくる。

 ナミさんは、コノミの身体をぐっと抱きかかえた。


pナミ

「……二人はここから去って。今日のところは。……お願い」


pハヤト

「わかったぜ…………シモカワ、行こう」


 ハヤトさんが言って、バイクに向かって歩く。

 最後にもう一度、ナミさんに抱かれる可憐な肢体を目に焼き付けた。


e_41_boss_コノミ

 ……さよなら、コノミ。僕の恋人。


 ハヤトさんが投げたヘルメットをかぶりながら僕は言った。


キャラ (8)

「…………ハヤトさん」


キャラ (1)

「ん?」


「海まで乗せてってくれませんか……? 見たいんです。コノミのぶんも」

「ああ」

 ハヤトさんはそう言うと、キーをまわし、ドルンとエンジンを吹かせた。





砂浜


 夜明けの志賀島は本当に美しかった。

 水色と桃色の混じり合った空。

 虹色に輝く海。

 その境目を登る金色の太陽。

 コノミにとって、世界は、美しかったのだろうか。

 そうであったらいいな、と僕は思う。

 島をまわる朝の海岸道路には誰も居なかった。

 下馬ヶ浜海水浴場でハヤトさんはバイクを止めた。

 僕たちは砂浜まで歩き、しっとりと冷たい砂に腰を下ろし、そして、静かに寄せる波を黙って見続けた。


キャラ (8)

「ねえ、ハヤトさん」


キャラ (1)

「んー?」


 朝の海の風を浴びながら、ハヤトさんは伸びをする。

「……ひとを好きになるって辛いですね……」

「……ああ。ツライよな。けど、お前は、そう思えるだけの相手に出会えたんだ。少なくとも、それは幸運だったと思うぜ?」

 姉ちゃんと同じその言葉に、僕は思わず笑みを漏らす。


pシモカワ

「ナミさんって何者なんでしょうか」


pハヤト

「さあな。俺にもわかんねえ」


「ハヤトさんは、ナミさんを信じるんですか?」

「まあな。信じるしかねーんだよ。俺の場合」

 ハヤトさんは自嘲気味に笑った。


キャラ (1)

「…………実はな、俺にはアリバがねえんだわ。お前らと違ってな。ナミからの借り物なんだ」


キャラ (8)

「…………え?」


 そして、ハヤトさんは僕にすべてを打ち明けてくれた。

 鴻ノ巣山での出会い。隕石。瀕死の重傷。ナミさんが治療のためアリバをすべて使ったこと。それが、ハヤトさんに宿り、擬似的なアリバのチカラとなったこと。

 それがわかってからも、迷いながらリーダーを続けてきたこと。

 話の終わりにハヤトさんは言った。


キャラ (1)

「…………俺こそ聞きてーよ。シモカワ。お前は俺がリーダーなんかやってていいと思うか?」


 もちろん。僕の答えは決まっている。


キャラ (8)

「ハヤトさんにアリバがないというのなら、僕が先陣を切って、ハヤトさんの道を拓きます」


 ハヤトさんは苦笑して肩をすくめる。

「けど、ナミの言う通りだ。強くならないとな、俺も。もっと……」

「……強くなりたいです。僕は。もっともっと。いつかハヤトさんを越えられるくらいに」


pハヤト

「へっ。お前はとっくに俺なんかより強いよ。コノミちゃんだって、きっとそう言うと思うぜ? 『先輩はあなたなんかよりずっとずっと強いですよう』ってな」


pシモカワ


 ハヤトさんのその言葉を聞いた瞬間、きっとずっと我慢し、せきとめ続けていた僕の涙が、一気にあふれてきた。

 僕は泣いた。子供のようにワンワン泣きじゃくった。コノミの名前を何度も呼んで。

 ハヤトさんは、そんな僕の頭に、ポンと手を置いてくれた。

 ……高校を卒業したら、免許をとって、バイクを買おう。

 急にそう思った。

 そして、もう一度、この海を。あの子と。


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