ハヤヤノミネ__4_

2-2 動物園にたたずむ巨体


 セーブカンパニーを出た俺は、慌ててナミのところに走った。

 うおっ。ベンチに座ったナミの後姿から、ドス黒いオーラが立ちのぼってやがる……。やべえ。


キャラ (1)

「今日も暑いですね」


キャラ (1)

「は、はい……」


「あ。どこかの誰かさんは、クーラーの効いた店で、ごゆるりと過ごしてきたんでしたね」

 ナミは、フフッとわざとらしい笑みを浮かべる。

「今日は日中36度まで上がるって。はは。体温くらい高いね」

「わ、悪かった」


「なんか昨日にも増してウレシそうな顔しちゃって」


「セーブの手続きだけだぜ? 嬉しいことなんてねーよ」とぼく嘘をつきました。


「……鼻の下伸びてない?」

「あのなあ、おまえだろ? こまめにセーブしとけって言ったの」

「まあ、そうだけど」

「で、だ。……正義のアリバ戦士として、とりあえず何をすりゃいいんだ?」

    俺は強引に話題を変えた。

「街をまわる。そして……悪意を探す」

「あくい……俺たちの敵か」


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「ボクは、悪意を感知できるんだ。本当は少しでも早く、この町のどこかに居るはずのアリバの戦士を探したいんだけど……ハヤトひとりじゃぜんぜん頼りないし」


「悪かったな……」


 コイツ憎まれ口叩かないと喋れねーのか。

「けど、そっちは絶対数が少ないし、とりとめもない。だから、まずは強い悪意の反応があるところを調べてみよう」

 そういや、マユのときも感知とやらをしていたっけ。

悪意とアリバは引き合う性質があるんだ。だから……」

「悪意を探せば、同時にアリバを探すことにもなるわけか」

 ナミはコクリ。

「とりあえず、ちょっと気になる場所がある。そこへ行ってみようよ」

 こうして、高宮駅をあとにした俺たちは、西鉄電車で『薬院駅《やくいんえき》』に行った。

    さらに『浄水通り』を北の方へ。


pナミ

 感知とやらをするナミは、遠くの匂いを嗅ぐ犬にしか見えなかった。

    口に出せば面倒なことになりそうだから、黙っていた。


「気になるって、ここか……?」


 ナミが示した場所……

 ……それは『福岡市動物園』だった!


 ◆


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 福岡市ってとこは、町のど真ん中に動物園がある。

    特に珍しい動物も居ない。目玉といや、最近来たローランドゴリラくらいか?


キャラ (1)

「こんなとこに悪意の反応かよ?」


キャラ (2)

「間違いないよ」


 夏休みということで、それなりの人が居る園内を歩く。

 すぐ隣が緑地公園のせいか、敷地内は広く、緑が豊富で、ところどころに涼しげな木漏れ日ができている。

 が、夏だけにやっぱり暑いのは暑い。

 ……そうか。今日は7月22日。本格的に夏休みだもんな。

 まあ、休みに関係なく、ここに入り浸っているヤツも居るけど。

 ……アイツのことだ。どうせ、今日もここに居ることだろう。

 草食動物ゾーン、放鳥舎、フードコートなんかをまわり、

    猛獣エリアの手前、ゾウのブースに行く。

 やっぱりそこには思った通り、虚ろな瞳でゾウを見つめる『ヤノ』の巨体があった。


pヤノ


 ……ヤノ。

 180センチを軽く超える巨体。並みの男の三倍くらい太い手足。タレ目の整った顔つき。

 よく白人とのハーフに間違われるが、れっきとした日本人だ。

 デカイ身体と裏腹に、性格は穏やかで大人しく、というか細かくて、神経質で、女々しい、はっきり言って女子力高めの男。


キャラ (1)

「なんかあそこだけ暗雲がたちこめてるんだけど」


キャラ (1)

「ああ。しかもアイツは俺の関係者だ」


 俺はドンヨリとした陰を漂わせたヤノに近づき、声をかけた。

「やっぱり今日もここかよ」


キャラ (16)

「うおっ! ……な、なんだ……ハヤトかよお」


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サユリじゃなくて悪かったな」

「…………言うなよお」


「おまえ、まだ吹っ切れてねーのか? ここに居たって、どうにかなるもんじゃねーだろ?」


「俺は……俺はそんな器用な人間じゃないんだよお」

 

 ヤノとは中学からずっと同じの、いわゆる腐れ縁だ。

 即断・即決・即行動の俺に対し、デカいくせに慎重で思慮深いヤノ。

    正反対ながらもウマが合って、いつもツルんで色々やってきた。

 いわば『相棒』と言っていい。

 そんなヤノに恋人が出来てからは、一緒に遊ぶこともめっきり減っていたのだが……。

 つい最近、望まない別れ方をしたらしい。

 それで、その相手『サユリ』とよくデートをした、この福岡市動物園に来ては、思い出のゾウの前で、日がな一日佇んでいるってわけだ。情けねえ。


画像5


「フラれちまったもんはしょうがねーだろうが」


「うう……ハヤト、おまえみたいな情の薄い人間にはわからないんだぞお」


「ンだよそれ」

「俺はおまえみたいにハイ次、なんてすぐに切り替えられないんだよお」

「チッ。人聞きわりーな」少しイラッときた。


pナミ

「ハヤト……このひとだ」


 背後からナミが耳打ち。

「……あ?」

「感じるんだ。マユのときとおなじだよ」

「マユと? ……って、ことは、こいつが悪意?」


pヤノ



「いや、まだだ。マユのときは間に合わなかったけど、今回は間に合った。このひとはまだ悪意になる寸前みたい。今ならまだハヤトがなんとかできる」


「どうすればいい?」


「マユのときと同じだよ。ハヤトの想いをぶつけるんだ!

「想いをぶつける? やめてくれ。ンなこと出来るか、気持ちわりー」

 俺は顔をしかめて言った。


「……ウジウジ情けねえヤローにぶつけんのは……」


 顔の前でをぐっと固める。

「……コイツだって、昔から相場は決まってんだよ……!」

 それがトモダチだからな!


pハヤト



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