3-3 炎の暴発シンジロー
三年生と特進クラスが学ぶ新校舎。
その屋上へと続く薄暗い階段で、シンジローは小さくなって背を丸め、ガタガタ震えていた。
我が弟ながら情けないぜ……。
「悪い。ちょっとふたりだけで話させてくれるか?」
「おう。シンジローの相手はアニキのおまえが一番だぞお」
「正義が必要になったらすぐに呼べ」
「シンジローの扱いはハヤトさんに限りますな」
「ハヤト」
「ん?」
「弟は……アリバだ」
「だろうな」
あんな愚弟でも、今じゃ俺にもハッキリ感じるぜ。シンジローの体内にくすぶっている、熱い何かを。
ゆっくり階段を上った。
「……ったく。こんなところで何やってんだよ、副生徒会長サマがよぉ」
「ひッ! あ、アニチッ!! た、助けにきてくれたの!?」
「はあ? お前を助けに? 違ぇーよ。俺は悪意を討伐しにきたんだ。そしたら、小動物みてーにガタガタ震えているヤツが居るから、誰かと思えば、俺の弟だったってだけだ」
「あ、アニチいぃぃぃぃ!」
シンジローは両手を広げてすがりついてくる。
俺はパッと飛びのいてそれをかわした。
「み、みんな、おかしくなって! し、シモカワが変になって! おれを狙って生徒たちに襲わせて! それで! それでええええ!」
「……それで、ビビッてこんなところでひとり震えていたってのかよ……? 情けねーな」
「お、お、おれ……こわっ怖くてっ」
「俺はな、お前もとっくにアリバに目覚めて、この東和高校の平和を守るために奮戦してんじゃねーかって、これでも少しは期待してたんだぜ?」
「あ、ありば……? それって……」
「……もう、隠したって仕方ねーよな」
俺はシンジローにすべてを伝えた。
鴻巣山の隕石。ナミとの出会い。アピロスの騒ぎ。アリバの目覚め。マユとの戦い。そして、同じように覚醒したヤノやコミネと協力して、動物園や西鉄電車の事件を解決したこと。
肉親だけに、短時間で、これまでの誰よりもハッキリとすべてを伝えられた実感があった。
「そ、そうか……やっぱり兄貴だったのか……お、俺と違って兄貴はやっぱりすげえや……」
こんなときだってのに、まだ卑屈になるシンジロー。
だが、それも俺に責任がある。俺の存在感が、こいつをこんな情けない男にしたのだ。俺が甘やかすから、こんな兄貴依存になっちまったのだ。
「あ、兄貴がアリバなら、早く東和高校をなんとかしてくれよお。シモカワや、悪意に取りつかれたみんなを助けてくれよおおおおお」
「それで、おまえはどうするんだ?」
「え?」
「また俺に助けられて、それでいいのかって聞いてんだよ」
「け、けど俺にはアリバなんて」
「ある」と俺はキッバリ告げた。「ナミの話じゃ、お前にもアリバはある。ま、俺にもあるんだから、弟のお前にあっても全然不思議じゃねえ」
「おれにも?」
「だけど、せっかくのアリバもくすぶっちまって、ついたり消えたり、不良品みたいに不安定の不完全燃焼だ」
「お、おれは存在自体が、不良品で、不安定で、不完全だからさ……」
また自分を否定し、内にこもろうとするシンジロー。
もう時間もない。やっぱり荒療治しかねえか……。
「そう思い込んでるだけだ。仕方ねえ。そんなお前のくすぶったアリバに俺が火をつけてやろう」
「え? ど、どうやって……」
問答無用の必殺パンチ! ドギャッ!
「オブフアアアァァァァァッッッ!!!」
ドゴンッと景気のいい音を立てて、シンジローはぶっ飛ぶ。相変わらず殴り心地のいいヤツだぜ。
「……馬鹿野郎が。いいか、お前には人にはないすげえところが一個だけあるんだ。それが何かわかるか?」
腫れた顔を押さえながらシンジローがキョトンとする。
「お、おれにある、他のひとにはない、すごいところ……? な、なに?」
「この俺だあー!」
俺は自分を親指でビシッとさしながら言った。
「おまえのたったひとつのすげえところは、この俺という偉大な兄貴が居るところよ! わかるか? おまえはひとりじゃねーんだ。俺がついてる。だから何も心配するな」
「お、おれには兄貴がついてる……? ひとりじゃない……?」
「ああ。もしものときは、いつだって俺が駆け付けてなんとかしてやる! だから、心配しないで、お前のハートに遠慮なく火をつけて燃やせ!」
「ハートに火を?」
「ナミに聞かなくたってわかるぜ。お前の属性は『火』だ! 熱く燃える紅蓮の炎だよっ」
「う、う、う」
シンジローの身体からうっすらとオレンジ色の輝きが立ち上る。
やがてそれはゆらりとした炎の穂を生じさせた。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
シンジローの叫びとともに、火炎は階段の低い天井に達するほどまで膨れ上がった。
「うおおおおおおおおおお!!!! おれ、ひとりじゃダメかもしれないけど、ひとりじゃない! 兄貴がついていてくれる! 俺には兄貴が居る! だから、やれる! なんかチカラが湧いてきたぜえええええ」
「アリバキターーーーーーー!!」
階下でナミが叫ぶ声。
「ああ。そのようだな。ったく、手間かけさせやがる」
……本当はもっと自立した方向に燃え上がらせるべきだったが、今は時間がねえ。それはおいおいだ。
階下から待ちかねたように仲間たちが上ってきた。
「シンジロー! おまえもアリバに目覚めたようですなっ」
「ヨシオ! おれ、やるっすよおおおおお!!」
「シンジロー。俺にもわかるぞお。すごい炎だなあ」
「ヤノくん! おれも仲間に入れてもらうよ!」
「フフ。正義の使徒がまたひとりか」
「コミネくん! おれ、頑張るよ!」
「弟」
「な、ナミさん……」
そこでシンジローは何やら複雑な顔でナミを見た。
勢いをそがれたように言葉を飲み込む。
「すごいアリバだよ。ボクの見込んだ通りだった。そのチカラがあれば、きっとハヤトを助けられる。……いつか必ずそのときが来るっ。だから……頑張って!」
「……は、ハイ!」
「よし。時間もあまりねえ。人数も増えたし、ここからは二手に分かれるぞ。ナミ、状況はどうなってる?」
「東和高校内のほぼ全域が悪意に汚染されてるけど、まだ何とか粘ってる正気の生徒たちも散在してる! それから、肝心の悪意だけど、強い大物の反応がふたつ。そのうちひとつが体育館で、もうひとつは放送室……」
そのとき、校内のスピーカーがガガッとノイズを発した。
『……ガッ……全校生徒に告ぐ! 副生徒会長のシンジローを探せ! そして、まだ悪意に染まっていない生徒は見つけ次第、指導するのだ! なにも考えず、甘美な悪意に身を任せろ! ……ガガッ……』
「お、おい。この声ってシモカワか!?」
「兄貴! おれ、シモカワのところへ行くよ!」
「うん。そのシモカワってひとがもうひとつの大きな悪意だ。でも、たぶんボスじゃない。体育館に居る本命に操られているんだ! 弟!」
「は、はい!?」
「弟の想いをぶつけて! そして正気に戻して! ひょっとしたら、そのシモカワってひとも……アリバかもしれない!」
「よし。方針は決まったな」と俺は仲間たちを見まわす。
「俺、ナミ、ヤノ、コミネは、体育館へ悪意のボスを叩きに行く! シンジローとヨシオは、校内に残った正気の生徒をできるだけ助けて、放送室のシモカワを正気に戻せ!」
「……ったく。面倒なことになってきたぞお」
「コミネ神拳、いつでも準備は万端だ!」
「おれはシンジローと一緒に行動ですなっ」
「ああ。ヨシオの戦闘力ならふたりでも問題ねーだろう。シンジロー。おまえは死ぬ気でヨシオの壁になれ!」
「う、うん! おれバカだけど、それくらいなら頭使わなくていいからできるよ!」
「よし。野郎ども、出陣だ! 東和の乱……俺たちで終わらせるぞっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【シンジロー】 レベル5 EXP182 属性 炎
HP 78 (B)
攻撃力 61 (B)
防御力 35 (B)
特殊攻撃 69 (A)
特殊防御 22 (C)
素早さ 36 (C)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【東和高校二年生。気合が原動力の熱血少年。極度のブラコン。兄ハヤトに対する強い憧れと劣等感が、強みでもあり弱みでもある。基本的に小心者だが、一度火がつくと調子に乗ってどこまでも突っ走る。
強大なアリバを内に秘めるも、不安定で今だコントロール不能。ドライなハヤトと違い、友情を大切にするため友達が多い。趣味はパソコンとイラスト】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【熱血パンチ 20/20 威力10~70 命中率80% 火属性・通常】
《ハヤトの必殺パンチを真似た技。火をまとった荒々しい右ストレートを放つ。本家同様、出が早く使い勝手は悪くないが、威力は不安定で、強弱の落差が激しい》
【熱血 5/5 攻撃力アップ 防御力ダウン 三回まで重ねがけ可】
《ハヤトの集中の真似。情熱をたぎらせ攻撃力を上げるが、スキが出来て防御は下がる。三回まで重ねがけ可能だが、なんとかモードとかは特にない》
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?