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10-7 決着


キャラ (16)


 ……ずっと、強いって、なにかわからなかった。

 そして憧れていた。

 俺から見て強いと感じる人間に惹かれたのも、それが理由かもしれない。

 ハヤト。

 ササハラ。

 そして……サユリ。

 初めてサユリと出会ったときのことは鮮烈に覚えている。

 二つ年下のサユリは、高校生の頃からアーチェリーでならし、東西大学に進学が決まったあとも、期待のホープとして部に迎えられた。


e_47_boss_サユリ

「悪いけど、自分、馴れ合うつもりないんで。ていうか、今のままじゃ、ワタシも、みなさんも、東西大も、二流のままだと思います」


 歓迎会でのそのひと言で、場は凍りつき、顧問とコーチは慌て、上級生は険悪な顔になり、新入生たちはあ然とした。

 サユリはいきなり部で孤立した。

 だけど、俺は……そんな物怖じせずハッキリ我を通そうとするサユリに、強く強く惹かれたのだ。


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「ヤノ先輩。ワタシと付き合いたかったら、せめてアーチェリーもっと上手になってください」


キャラ (16)

「あ、いや! ……付き合いたいとか、そういうのじゃないぞお……! お、俺はただ……サユリを応援したいだけで……」


 そう。サユリを近くでずっと見ていたかった。

 俺にとって、サユリは、眩しいくらいにかっこよく、強い女の象徴で……希望の光だったから……。

 憧れていた。

 ずっと見ていたかった。

 高く高く羽ばたいて欲しかった。

 だが………

 憧れているだけじゃダメだった。

 ただ、見ているだけじゃダメだったのだ……。



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「くうううっっ。ヤノくんまで私の邪魔をするの!?」


 サユリが次のアローをつがえ、切っ先を俺に向ける。

 ヒュン!

 俺に向かって放たれた矢を、俺もまた、アリバの氷の矢で撃ち落とす。


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「矢で矢を落とす!? そんなバカなことが……!!」


 ヒュン! ヒュン!

 サユリは次から次に矢を放つ。

 俺たちは、武闘場を挟んで相対し、互いに矢を放ちあった。

 俺はひたすらサユリから放たれるアローを、氷のアリバで落とした。

 そして……やがて、サユリのアローは尽きた。

 俺はサユリの元にゆっくり歩く。


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「なんでみんな邪魔するの!? ワタシの足を引っ張るの!?」


 ヒステリックに叫んだサユリが、とっさに駆ける。撃ち落とされ、折れたアローが武闘場に落ちていた。


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「敵! 敵! 敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵テキテキテキテてきてきてきぃぃっ!」


 折れたアローを振り上げ、俺に向かって襲いかかってくる。

 ドシュッ。

 悪意のチカラのせいだろう。サユリの一撃は鋭く重かった。折れた矢は、俺の身体にグサリと突き刺さった。


キャラ (4)

「……………………………………」


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「みんながワタシをいじめる! みんながワタシを傷つける! なんで? なんで? ワタシはただがんばってるだけなのに! ワタシはただがんばってるだけなのに!」


 ズシュッ。ドシュッ。ドシュッ。


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 サユリは俺の身体に何度も何度も矢を突き立てる。


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キャラ (1)

「や、ヤノ!」


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メインキャラ (12)

「ヤノさん!」


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キャラ (5)

「お、おい!」


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キャラ (3)

「ヤノくん!」


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キャラ (6)

「ヤノー!」


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pヤノ

「だいじょうぶだっ! みんな、俺のことは気にするな! これは俺にしかできないことなんだ! 俺に足りなかったものがようやくわかった……それは、身体を張ってすべてを受け止める『覚悟』だったんだっっっ!」


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「がああああああっっっっっ!!!」


 凄まじい形相で、サユリは俺に矢を突き立てる。

 俺の身体に激痛が走る。鮮血がボタボタ地に落ちる。

 それでも俺は、サユリからの矢を受け続けた……。


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キャラ (4)

「……サユリよお……敵ばかりなんて、言うなよお……そんなの悲しすぎるだろ……世界中のみんながお前の敵になったって、俺は……俺だけは、お前の味方なんだからよお……」


 狂ったように矢を突き立ててくるサユリに俺は語りかけた。

 そして……サユリの哀しみや辛さ、孤独を受け止め続けた。

 何度も、何度も、何度も、何度も……。


pヤノ

「…………気が済んだかよお……」


e_47_boss_サユリ


 サユリが涙に濡れた顔で俺を見上げる。

「……ずっと……ずっと……サユリに言ってあげたかったことばがあった……付き合っているときは言えなかった……だから、今、言うぞお」

 サユリの動きが止まる。


キャラ (4)

「もう……無理は……するな」


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「……………………………………」


「すまん……俺はもっとはやく、サユリを止めてやるべきだった……」

 俺はサユリの細い身体を抱きしめた。

 こんなにもか細く、小さな身体で、サユリはずっと頑張っていたと思うと、俺の涙も止まらなかった。

「……………………………………」

「そして、俺は、お前にもうひとつ言わなくちゃならん……」

 サユリの身体をゆっくり離す。


pヤノ

「俺たち弓競技者にとって、ひとに矢を向ける行為は、絶対にやっちゃいけないことだろうがよおおおお!!!」


 パチンッ。

 俺はサユリの頬を叩いた。

 サユリはしばらく放心していたが、毒気を抜かれたように、手にした弓を地に落とした。

 カラン……。


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「わ、わた、ワタシ……いま……なにを……?」


キャラ (4)

「………………………………」


「ワタシ、ひとに向けて、矢を撃ったの……?」

 コクリ。俺はうなずいた。

「…………なんてこと…………ワタシに…………弓を持つ資格は……二度とない」

 サユリはゆっくりとその場に崩れ堕ちた。


メインキャラ (12)

「悪意が…………消えた」


 ナミの声が遠くから聞こえてくる。

 そして、この動物園の騒動は、終わりを迎えた。

 俺の恋も。



「………………ん………………」

 福岡市動物園の東屋で、サユリは目を覚ました。


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「…………ここは……動物園? なんで、ワタシ、こんなところに居るの……?」


キャラ (16)

「…………サユリ…………おまえ、なにも覚えてないのかよお……」


 サユリは、悪意になる前の記憶を失っていた。

 聞けば、アーチェリーを失い、俺と別れてからのサユリは、こころを病み、精神安定セミナーを受講したらしい。

 ナミによると、それは教団の手のものだった……。

 サユリはそこで、腕が治るということばに乗せられ、悪意として覚醒させられた。それは……【取次】と呼ばれる儀式だったという。


e_47_boss_サユリ

「…………なにがあったの? ワタシはなにをしたの……?」


 俺はサユリにすべてを包み隠さず話した。アリバ。悪意。福岡ファイター。ハヤトを呼び出し、毒を盛ったこと。そして、ゲーム……。


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「…………最悪だね、ワタシ。死んだほうがいいかも」


キャラ (4)

「………………………………」


「アーチェリーはできない。みんなからは嫌われてる。そして……ヤノくんはもう居ない……ワタシには何もない……こんなワタシ、生きてたって……」


キャラ (4)

「…………簡単に死ぬとか言うな!」


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「…………え」


「サユリに何もないなんて俺は思わないぞお……サユリを必要としているひとも、サユリにできることも、きっとある! 明日へ進む道は必ずあるはずだ!」

「や、ヤノくん…………」

「俺みたいに、女々しくて、弱い人間とって、サユリは、かっこよくて、強くて、眩しい、希望の星なんだ。その期待が無責任で、それに答えるのがどれだけ大変か、今ならよくわかる……けど、だからこそ、負けないで欲しい。頑張ってほしい。それは、サユリにしかできないことなんだ」

「なによそれ……」


pヤノ

「けど、無理はするな。たまには、弱音を吐いたって、立ち止まったって、逃げたって泣いたっていいんだから」


e_47_boss_サユリ

「どうして……いまさら……そんなこと言ってくれるの? 優しくするの?」


「どうしてって……」

 お前が好きだからに決まってるだろお……。


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「…………ワタシね、アーチェリーができなくなったとき、世界を恨んだわ。敵だらけの世の中で、アーチェリーだけがワタシを救ってくれたのに、もうワタシには何もないんだって……でも、違ってた。なにもないはずがなかった……ワタシには、アナタが居たのに……」


キャラ (4)

「……………………サユリ」


「アナタの優しさに甘えて、一緒に居てくれるのが当たり前になってて、本当に大切なものが見えてなかった……」

「…………いや、それもやっぱり俺のせいだぞお。俺がもっとしっかりしてたら……安心してサユリは俺に甘えられたんだ」


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「……ふたりともまだまだ練習が必要だね……」


キャラ (16)

「そうだなあ……俺たちは、どうしようもなく……不器用だぞお」


 俺とサユリはお互いに笑いあった。

「だったら、ワタシたち、もう一度はじめから……」

「……サユリ。その先は言うな」

「どうして! やっとワタシ、素直になれそうなのに……!」


pヤノ

「俺にはよお、今はやらなくちゃいけないことがあるんだ。ハヤトや仲間たちと一緒に。俺は不器用だから、サユリを支えながら、福岡市を護ることなんて、きっと無理だ。だから今は……一緒に居られない……」


e_47_boss_サユリ

「ヤノくん……」


 俺は立ち上がった。

 東屋から離れた場所には、福岡ファイターのみんなが並んで待ってくれていた。

 夏の光の中に。……あそこが、今の俺の居場所だ。


e_47_boss_サユリ

「待って! ヤノくん!」


キャラ (4)

「サユリ……うまくこれが終わったら……いつか、また」


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「ヤノくん! ヤノくーーーーーーーーーんんん!!




キャラ (1)

「いいのか?」


キャラ (16)

「おう」


「…………とりあえず、涙ふけ」

 ハヤトが苦笑する。サユリに背を向けた俺の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。俺はツンとする鼻を空に向け、歯を食いしばった。


pヤノ

「…………俺はよお……ずっと、お前やササハラみたいになりたかったよお」


 木漏れ日の下を並んで歩きながら、ハヤトに言う。


pハヤト

「はあ? なんでお前が、俺やササハラみたいになりてーんだよ? お前はお前だろうが」


「………………」

「……お前、自分が嫌いなのか?」

「好きなわけ、ないぞお……」


キャラ (1)

「けど、俺はお前、嫌いじゃないぜ? ササハラだってたぶんな。お前みたいに、デカくて強いくせに、女々しくて細かくて弱気なヤツが、縁の下で支えてくれるからこそ、俺たちは安心して好き勝手やれるんだ」


キャラ (4)

「女々しくて細かくて悪かったぞお…」


「ま、今日は特別に、優しいって言い換えてやってもいいぜ? とにかく、お前はお前。他の誰でもねえ。他の誰にもなれねえ。そして、そんなお前のことを好きだってヤツだって居るんだ。そいつらのためにも、あまり自分を嫌うな」


pヤノ

「……おう。今回のことで思い知ったよ……俺は、お前やササハラみたいにはなれない。けど、俺は俺のままで……『身体はデカいくせに、気が小さいヤノ』のままで、この戦いを最後まで見届けるぞお……


pハヤト

「………………………………」


「そんなヤツが、福岡ファイターにひとりくらい居てもいいだろお……?」


キャラ (1)

「…………へっ。なに言ってんだよ、相棒。お前が居てこその、俺たちだろうが」


 ニヤリと笑ったハヤトが拳を示してくる。

 俺はそれに拳をゴツンとぶつけた。

 痛ぇ、と言ってハヤトが顔をしかめる。

 俺の中に、破れた恋の痛みとともに、決して消えない感覚が残っていた。

 ササハラが俺の身体を完璧に扱ったあの感覚。

 自分をはるかに超える異質な力とぶつかりあった経験。

 そして、サユリのアローを撃ち落とした、あのアリバの矢……。

 今やっと、強さの意味が、少しわかった……。

 それは、自分を否定せず、自分自身であり続けること……。

 弱さや欠点、ダメな部分もすべて受け入れて、それでも、おのれの持ち味を活かすこと……。


メインキャラ (12)

「またひとり目覚めた……おかえり、ヤノさん」


 いつのまにか俺の隣に来たナミが、ムスッとした顔で、きゃしゃな拳を差し出してきた。


キャラ (4)

「お、おう……あらためてよろしく頼むぞお!」


 俺は、その小さな拳に、そっと、慎重に、自分の拳をチョンとぶつけた。



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