3-2 電波の怪人ヨシオ
「おーおー。エラいことになってやがるな……」
今日も朝イチでセーブカンパニーに顔を出し、スエと楽しくおしゃべりして、それから高宮駅前でヤノ・コミネと合流した。
そのとき、ナミが突然、ものすごい数の悪意を感知したと言い出したのだ。
案内されるままたどり着いたその場所は……
我が弟の通う『東和高校』!
外から見ても、校内はまるで戦争でも起きたような大騒ぎだ。
「とりあえず、中へ入るぞっ。コイツが悪意の仕業だってんなら、見過ごせねえ。俺たちの出番だ!」
「フッ。シンジローが心配だと顔に書いてあるぞ」
「……ばっ、ばっかっ。ちがうしっ」
コミネみたいなやつに指摘されると、よけいに腹立つぜ……。
「けどよお。おれたち部外者だぞお? 入っていいのかよお」
「バカ学校だし大丈夫だろ?」
相変わらず気の小さいヤツだぜ……。
「まあ、シンジローの入学式にも行ってやったし、参観日とかでもちょくちょく顔を出してるからな。顔見知りも多いし、校内にも詳しいぜ」
「……それは……シンジローも気の毒だぞお……」
「もう。いいからみんな急ぐよっ。今回の悪意は規模がものすごいっ。アピロスや動物園と同じと思わないほうがいいよ! それに、少ないけど、アリバの反応もあるんだっ」
「なに!? ってことは……?」
「コミネさんと同じ。誰かがすでにアリバに目覚めて戦ってる!」
MOVIE【ヨシオ戦闘】
俺たちは慌てて正門に走った。
そこで、孤軍奮闘していたのは……よ、ヨシオ!?
あの、下ぶくれの顔にサインペンでチョンチョンと目鼻を書いたような独特のフォルムは、シンジローと仲がいい友達のヨシオに間違いない。
ヨシオは、両手それぞれの人差し指と中指を交差させる懐かしの『えんがちょ』ポーズをしながら、大勢の悪意相手に、炎と風と氷の攻撃を見舞っている!?
「おお、ハヤトさん。ハバナイスデーイ」
「ハバナイスデーイ、じゃねえよっ。おまえもアリバに目覚めたのか!?」
「ふむう。このチカラはアリバというのですな。どうやら、目覚めたようですな」
「いったいどうやって?」
俺が目覚めたときはナミもけっこう驚いていたのに、なんか最近、お手軽になってきてねえか!?
「どうも昨日夜通し読んだ【ダ〇の大冒険】に心打たれたせいと思われますな」
「マンガでかよ! コミネといい、おまえといい、マンガでかよ!」
「フッ」
「まあ、いいマンガだもんなあ。【ダ〇の大冒険】。心の力に目覚めるきっかけとしては、納得だぞお」
「ハヤト。この子……ヨシオくん?」
ナミが恒例のタブレットを取り出して画面を見ながら言った。
「ああ。ヨシオだよ。どうせそれに表示されてんだろ?」
「うん。でもこの子……」
「また何かあるのかよ……今度はなんだ?」
「この子の属性って……まさか……電波……? うん。間違いない。電波系だよ!」
「電波系って……まんまじゃねえか……」
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【ヨシオ】 レベル5 EXP182 属性 電波
HP 45 (D)
攻撃力 19 (D)
防御力 10 (E)
特殊攻撃 100 (S)
特殊防御 44 (A)
素早さ 34 (C)
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【東和高校二年生。ふわふわユラユラ、独自の世界で生きている電波系の不思議ちゃん。シンジローとウマがあう。コロッケと犬とマンガが大好き。前日に名作マンガを一気読みし、心打たれた結果、独力でアリバに目覚めた。世界に三人しか居ない電波使いのひとりで、疑似的な三属性を使いこなす。口ぐせは「ですな」と「福岡はおれのもの」】
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【火電波 15/15 威力80 命中率85% 追加効果・混乱】
《「ホホホホホ。火炎の嵐で消し炭になるですな?」と言って火炎の嵐を巻き起こす電波系特殊技。追加で混乱までさせる》
【風電波 15/15 威力80 命中率90% 追加効果・麻痺】
《「ホホホホホ。風の刃で細切れになるですな?」と言って風の刃で切り刻む電波系特殊技。追加で麻痺までさせる》
【氷電波 15/15 威力80 命中率80% 追加効果・睡眠】
《「ホホホホホ。冷たい吹雪で氷漬けになるですな?」と言って冷たい吹雪を浴びせかける電波系特殊技。追加で睡眠までさせる》
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「もう。まじめに聞いてよ! 電波ってのは、すごく希少な属性なんだからっ。もしアリバに才能があるなら、ヨシオくんは何千人にひとりの天才だよっ」
「ま、マジかよ!? こんな宇宙人ヅラした不思議ちゃんが天才?」
「ヨシオくんの電波は、三つの属性を疑似的に発生させられる! それぞれの属性力はオリジナルより少し劣るけど、相性のいい属性をうまく選べば、どんな相手とも有利に戦える万能のアリバなんだ! ……ていうか、ハヤトよりよっぽどリーダーっぽい、特別なチカラだよ!」
「……くそっ。リーダーっぽくなくて悪かったな!」
確かに、集中したりただ殴ったりって、我ながら地味だけどよ……。
話している間に、俺とナミ、ヤノ、コミネ、そしてヨシオの五人は、悪意に取りつかれた生徒たちにすっかり囲まれてしまった。
無駄に生徒数が多い学校だぜ……! 確かに敵の数だけでも、これまでとは段違いの規模だ。
「ヨシオ! 話はあとだ! コイツらは悪意! 人間に取りついて悪ささせる敵だ。俺たちはアリバってチカラに目覚めて、コイツらから福岡市を守るために戦ってる!」
「おれの町、福岡をですな!?」
「おまえの町じゃねえけど、そうだ!」
「許せませんな……福岡はおれのものですな!」
謎のセリフと共に、またも例のえんがちょポーズ。
ヨシオがぐっと力んだ瞬間、俺たちを囲むようにわらわら集まってきていた高校生どもの真ん中に、紅蓮の火柱が立った!
かと思えば、その次には緑色の風の刃!
さらに続けて、青白い氷の嵐!
なんだコイツ……マジで人間離れしてやがる……。
「ハヤト! ヨシオくんは攻撃面は圧倒的だけど、体力と防御力が低くて打たれ弱い! うまくカバーしてあげて!」
タブレットをにらみながらナミが叫んだ。
「よし。俺たちも行くぞっ。ヨシオを守って陣形を組め!」
「おう。わかったぞお」
「コミネ神拳……魅せてやろう」
敵の数は多かったが、ただでさえ強力なヨシオの電波に加えて、四人がかりだ。とりあえず正門前に居た悪意はほどなく沈静化できた。
俺たちはヨシオにこれまでのことをかいつまんで話した。そこはさすがに柔軟なティーン。理解も早かった。
「とにかく、全校生徒が一斉に悪意になるってのはただごとじゃねえ。しかも、その主犯格がシモカワだってのか?」
シンジローの親友であるシモカワは俺ももちろん知っている。
よく遊んでやるし、弟分みたいなものだ。あんな正義感のカタマリみたいなシモカワが……信じられねえ。
ほかにも、シンジローの友達の東和高生には顔見知りも多く、俺にとって他人事じゃない。
「まずは愚弟を探さないとな。シンジローはどこへ行った?」
「それが、途中までは一緒だったんですが……」
「逃げちまったんだろ?」
「ですな」
「……ったく……どうせ闇雲に逃げ回って、屋上に行く途中の階段ででも身動きとれなくなってんだろ」
「さっすがブラコン。よくわかったねー。……なんか、校舎の屋上近くの階段に、小さなアリバの火種みたいな反応があるよ。不安定についたり消えたりしてるけど」
「誰がブラコンだだれがっ」
ナミ、ヤノ、ヨシオの指が一斉に俺をさす。
こ、コミネまで……? くそっ。傷つくぜっ……。
「とりあえず、シンジローを回収に行くぞ! どうやら、悪意に憑依されていない生徒もチラホラ居るらしい。そいつらを助けつつ、態勢が整い次第、悪意の大元を探して叩く!」
俺たちは、古代の合戦場のようになった校内を、悪意どもを蹴散らし、正気の生徒を助けながら、突き進んだ!
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