![ハヤトナミ顔](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13117074/rectangle_large_type_2_d7abd6f1280d44c095131bf2f56011c2.jpeg?width=1200)
1-3 持たぬ者たちの戦い
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13963632/picture_pc_49160670f845202f7ecb45ba8f30742e.jpg?width=1200)
![e_20_オジサン](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035181/picture_pc_be00b85ea20be8c111db80b241f5fe2d.jpg)
闇の中から現れたのは、犬を連れた散歩のオッサンだった。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035095/picture_pc_f36b6d66a1a571bfb101c5c93540c2d3.png)
「……オッサンかよ!」
驚かせやがって。心臓がバクバク言ってるぞ。
頭は波平、白のランニングはヨレヨレ、ステテコ履いて、足元はツッカケと、夏の伝統的スタイルのオッサンは、
![](https://assets.st-note.com/img/1664545262991-TUrIlDKBzP.jpg)
「フシュルルルルゥ」
……と気味の悪い唸り声を上げた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545291607-M18opkIZ3V.jpg)
「……酔っぱらってんのか? このオヤジ」
![pナミ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035251/picture_pc_beb16e8dd29ce93df587299080cda6ff.jpg)
「ただの一般人はすっこんでて!」
ナミは鋭く言って、俺とおじさんの間に割って入った。
油断なく身構え、怖い目で相手をにらむ。
「お、おい。こんなオッサン相手に、なに殺気立って……」
![](https://assets.st-note.com/img/1664545322206-6zMDbH3Uio.jpg)
「フシュルルルルゥ!」
突然おじさんがナミに襲いかかった!
拳を振り上げ……殴りかかる!
ナミは、素早くその攻撃をかわすと、後ろにジャンプして間合いを取った。
そして右手の平を頭上に掲げ……
透明なボールでも投げるみたいにオッサン目がけて振り下ろした!
![](https://assets.st-note.com/img/1664545367580-Phm3XMidKU.jpg)
「アリバの剣よ! 敵を討て!」
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13161853/picture_pc_dac2bfdd39d6eefaedaf05d385d69bd7.jpg?width=1200)
とびっきり可愛い、しかも不愛想なくらいクールな女の子が、突然叫んだ恥ずかしいセリフ。
シーン。でも何も起こらない。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545403389-WCpnAhxtez.jpg)
「あ、あれ!?」
ナミが初めて人間的な、戸惑った声を出した。
もう一度同じように右腕をオッサン目がけて振るう。
「アリバの剣よ! ちゃんと敵を討てえーーー」
シーン。
またも同じ効果音。
俺はもちろん、オッサンもなんだか固まってしまっている。
ナミは、キッと怖い顔で宙をにらむと、
![](https://assets.st-note.com/img/1664546283168-fFJQJf4mdo.jpg)
「アリバの剣よ! いいかげん、さっさと、言われたとおりに敵を討てえええ!!」
ヤケクソのように叫んだ。
……でも結果は同じ。
「う、うそ……そんな……チカラが……出ない」
![](https://assets.st-note.com/img/1664545447409-oqW6kTaiI2.jpg)
「なんかキサンッその態度はッ! 年長者うやまわんか!」
コテコテの博多弁で叫んだオッサンは、呆然とするナミに突き進み……
猛然とゲンコツを繰り出した!
![](https://assets.st-note.com/img/1664546319920-NDjXrt3BII.jpg)
「!?」
ナミはとっさに両手を交差させてガード!
だが、受けきれず、そのまま冗談みたいにぶっ飛んだ!
細い身体がゴロゴロ地面を転がる。
きゃあ、とナミは悲鳴をあげた。
……女の子の悲鳴を。
![chara7 - コピー (3)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035302/picture_pc_3f157c3f0b16064e42f2e03f737a3f12.jpg)
ドクン!
その瞬間。胸に痛みが走った。
頭の真ん中に血が溜まっていくような感覚。
一瞬、何か忌まわしい光景が脳裏をフラッシュバックした気がした。
だが、それがなんなのか理解出来ないまま、俺の中で『炎のような怒り』が爆発した。
![pハヤト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035323/picture_pc_ac4810aac66057ad9b1af5bcba33d37e.jpg)
「てめえ! ナミに何しやがる!」
仁王立ちするオッサン目がけて飛びかかる。
頭は真っ白、全身は燃えるように熱い。
何もかもをぶち壊したくなる……そんな暴力的な衝動に身を任せ、
全体重を乗せた拳をオッサンに打ち込んだ!
![](https://assets.st-note.com/img/1664545584710-KKBpTqEByH.jpg)
ボグンッ。
ゴムを巻いた電柱でも殴ったような手応えで、オッサンのヒョロイ身体はそのまま数メートルぶっ飛んでいく。
しまった! やり過ぎたっ。フルパワーでぶん殴っちまった……!
やべえ。オッサン、死んでねえだろうな……?
だがオッサンはすくっと立ち上がると、真っ赤な目で俺をにらんでくる。
死ぬどころか、ピンピンしてやがる。
おまけに、なんだ、あの赤く光る目……本当に人間か?
まごつく俺に、オッサンは思いのほか早いスピードで間合いを詰めてきた。
あ然とする俺の頭を、オッサンのゲンコツが襲う!
![](https://assets.st-note.com/img/1664545623041-G1eaA5Nguj.jpg)
「こン鉄拳ば、食らわんかキサンッ!」
がごンッ!
頭上に鉄骨でも落ちてきたような衝撃! 目の前で星が散る!
一瞬意識が飛びそうになったが、かろうじて踏み止まった。
な、な、な、なんだこのオヤジの力はッ! プロレスラーにでも殴られたみたいだ!
くそっ。俺もすぐに態勢を立て直し、今度は本気でオッサンと相対する
呼吸を整え…… ひじを軽くしめ……
膝は柔らかく……相手の目を見つめ……
俺の通う拳法道場『厳冬流』の基本の構え。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13117084/picture_pc_b2c475fd50e414232e2c7c94df3c53d8.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1664545701446-wALq0HCYk9.jpg)
「無敗の白帯、ナメんなよ!」
スッと前にステップ。
左、右のワンツーから右のローキック!
厳冬流はパンチキック投げ技ありの総合格闘術で、無敗の白帯ってのは……今は説明する暇はねえっ。
ガッ! ゴッ! ボグッ。
オッサンの動きは鈍く、全弾まともにヒット。
だが、やはり固いゴムのカタマリ殴ってるみたいな妙な手応えだ。
ぶうんっ。
オッサンの強烈なゲンコツが、俺の顔スレスレを通り過ぎる!
力をセーブしたとはいえ、俺のコンビネーションまともに食らって、応えてねえのかよ!?
さらにオッサンが追撃。
俺の本能が、瞬時にその攻撃の気配を察知した。
集中した俺にはスローモーションのように見えた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545777003-bhlfZtMOhp.jpg)
カウンター!
ガゴッ!
俺の渾身のストレートは、まともにオッサンの顔にめり込んでいた。
ヒョロいオッサンに本気でブチ込んだら、ただじゃ済まない……はず。
なのにオッサンは、
![](https://assets.st-note.com/img/1664545748727-TbPBLHqJ16.jpg)
「……んあ? ありゃ、ここはどこか?」
……毒気を抜かれたような顔で、ぽかんとしている。
怪我らしい怪我もない。むしろ、殴った俺の拳の方が痛ぇ。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035383/picture_pc_fb2d5c3f39f53dbda0ad7042e6f82507.png)
「はあ……はあ……なんだ、このオッサン……?」
若さと勢いでなんとか勝ったが、おじさんのパワーは、見た目からは想像もつかないほど強烈だった。
おじさんは、「ワシなんばしよっと?」と首を傾げながら、ギャンギャン騒ぐ犬と闇の中に消えていった。
どうも、自分がいきなり暴れだした事も覚えてないみたいだ。
「そ、そうだ……ナミ……」
ナミは、夜の冷たい土の上にペタンと座り込み、ひどく真剣な顔で俺を見つめていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545818767-JhXX3xEUX8.jpg)
「だ、大丈夫か!?」
駆け寄るが、ナミは何も答えない。
「今のオッサンなんなんだ……」
俺の問いに、ナミは焦点の合わない瞳で低くつぶやいた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545834498-dBEmcVRhPY.jpg)
「……悪意」
「あ?」
「人の心に…………棲《す》まう闇…………」
そうつぶやくと、ナミは気を失って倒れてしまった。
「お、おい!」
あくい? ひとのこころのやみ? 意味がわかんねえ……。
でも、とにかくナミをなんとかしないと。
ナミを背負って鴻ノ巣山の暗い遊歩道を走った。
ナミの正体。
いま、何が起こっているか。
さっきのオッサンはなんなのか。
何ひとつわからないが、ナミをこのまま放っておくわけにゃいかねえ。
無傷とはいえ隕石の落下でどうやら気絶したらしい俺を、膝枕して介抱してくれてたようだしな。
愛想悪いし、口調も冷たいし、なんかコエー子だけど……
中身はけっこう優しいのかもしれない。
…………黙ってれば可愛いし。
それに。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546498631-K8vJtfleGI.jpg)
突然現れたおかしなオッサン相手に、こんな細身で愛らしい女の子が、迷わず『戦おうとした』ことが気になる……
「アリバの剣よ敵を討て」とか言ってたな。まるで正義のヒーローだ。
あいにく何も起きなかったが、ナミはそれにひどく驚いていた。
本当なら……
その言葉通り、力が発揮されて敵を討つことができたかのように。
……ははは。それじゃ、本当にヒーロー、いや、ヒロインじゃないか。
そんなの現実にあるわけ……
![](https://assets.st-note.com/img/1664545856510-uBS8SfwZaR.jpg)
「………………」
でも俺は、その先を決めつけることができなかった。
現実にあるわけがない、と。
鴻巣山に隕石が落ち……
謎の美少女が現れ……
『敵』が登場した。
これって、どう考えても、何かとてつもないことが起きているとしか思えない。
俺の住む、この町……福岡市で。
そして、この俺の目の前で。
いま……何かが始まろうとしている。
![](https://assets.st-note.com/img/1664545878302-OwbQWAXx2h.jpg)
![](https://assets.st-note.com/img/1664545886890-PQlEhwQbZs.jpg)
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