幕間2 シンジローの見たもの
南区で西鉄電車が暴走し、福岡市動物園で脱走騒ぎがあった夜。
兄貴とナミさんはすげえ疲れた顔をして帰ってきた。そしてなぜか、ヤノくんとコミネくんも一緒だった。
四人の間には、なんか妙な一体感があって、何やら今後の方針的なことで盛り上がっていた。
おれは、ヤノくんコミネくんとも友達付き合いをしているのに、兄貴の部屋にすら入れてもらえなかった。
「な、なんでだよ! おれだけノケモノかよ!」
「コイツはな、大人の問題なんだ。高校生が出る幕はねえ」
白熱する会議はいつのまにか賑やかな飲み会になったらしく、みんなの楽しそうな騒ぎ声が聞こえてきた。
「ゆ、ユリアーーーーー」
「ホキョエアアアアアアアア」
「おまえら、俺の部屋で暴れんじゃねえええ! ところでナミはどこ行ったっ?」
ヤノくんもコミネくんもすっかり出来上がってる。
酒を飲まない兄貴はクールだったけど、「飲み物が切れた。マウンテンデュー買ってこいや」と理不尽に命じられた。
「お、おれは混ぜてくれないくせに、パシリかよお……」
「だまれ」バキッ!「いいからはやく買ってこい。ぬるくなってたら、必殺パンチの刑だぜ?」
くそ! なにが必殺パンチだよ。
ただのパワハラにダサい名前付けやがって!
マウンテンデューは、家から北に少し離れた『上水公園』の近くの自販でしか売ってない。
そこまでは夜道を少し歩く。
パシリに使われるだけってのもシャクだったから、炭酸の缶を思いきり振ってやることにした。
ひと目につかないよう、上水公園の中に入る……。
夜の木の匂いがする階段を上っていると、暗い公園の中から女のひとの声が聞こえてきた。
「………………………………」
あれは……ナミさん……?
家から離れたこんな場所でなにを?
思わず茂みに隠れた。
「……ハイ。素体『H』との接触に成功しました。多少のイレギュラーがありましたが、計画はおおむね順調です。それから、『H』の友人である『Y』と『K』がアリバに目覚めました。絶望の因子は集まってきています」
それは、俺がそれまでに聞いたナミさんとは、全然別人の口調だった。
「……え? イレギュラーの内容ですか? 隕石が着地したとき、『H』が巻き込まれ、心肺停止の状態に陥りました。
仕方なく、私が蘇生の処置を施しましたが、肉体の修復期間中は、私のアリバがまったく使えない状態になっています。
ただ、副産物として『H』が無属性のアリバに目覚めました。ハイ。非常に珍しい属性です。……あ、いいえ、チカラそのものは、それほどでもありません。むしろ、弟のほうに強力なアリバの可能性を感じます」
隕石? 心肺停止? 蘇生?
ちんぷんかんぷんだけど、『弟』という単語には、思わずピクッと反応した。
「……【狂気】の種子はいまだ発芽の気配がありません。このままもう少しストーリーを進めるべきかと。被検体『M』については……」
ナミさんの声はそこでかすかに戸惑いを見せた。
「……結局、『M』は最強の悪意の幼生体ではなかったようです。悪意として覚醒もしませんでした。『H』と軽い接触はありましたが、二、三言葉をかわしただけで、【狂気】の種子に対する影響はほぼゼロでした。以降は、監視の必要もありません」
ナミさんの声は続く。
「多少の誤差はあるものの、問題はないと判断します。計画の続行をお願いします」
その後もよくわからないナミさんの会話は続いた。
誰と話してるんだろう? なぜか人間の気配はひとり分しか感じない。
心臓がバクバク痛いくらい鳴って、息もできなくて……
すっかり身体も委縮して、ナミさんが話している相手が誰なのか、確かめることもできなかった。
「……わかりました。次は東和高校ですね。弟のアリバは非常に不安定ですが、きっと……」
東和高校、とおれが通う高校の名前をナミさんが出した瞬間、もうそれ以上は聞いてられず無意識にその場から逃げ出した。
たまらなく怖かった。
背後で鳥の羽ばたくような音がしたけれど、おれは振り返れなかった。
なんなんだよ、これ……。
ナミさんの正体って、いったい何者なんだ!
この福岡市で、いったいなにが起こってるんだよおおおお!!!
第2話 【縁は異なもの同級生】 終わり
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第二話終了時のステータス
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【ハヤト】 大学生 レベル5 EXP134 無属性 身長174センチ 体重65キロ
HP 76 (B)
攻撃力 73 (A)
防御力 17 (C)
特殊攻撃 32 (C)
特殊防御 10 (D)
素早さ 43 (B)
《福海大学法学部三年生。21歳。厳冬流格闘術白帯。なんでも器用にこなすバランスのよさを持つ反面、これといった決定打に欠ける器用貧乏。一見ぶっきらぼうだが、実はお人よしで面倒見がいい。小説家志望の夢見がちなロマンチスト。
腐れ縁であるヤノ・コミネとともに、アリバの戦士として福岡市を護るために立ち上がる……が、相変わらず詳しい事情はなにもわかっていない。ステータスは中の上程度。ナミいわく、世界で唯一の無属性にして、この物語の鍵を握る【イレギュラー】》
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~氷の重爆~【ヤノ】 大学生 レベル5 EXP134 氷属性 身長185センチ 体重100キロ
HP 150 (S)
攻撃力 126 (S)
防御力 15 (D)
特殊攻撃 20 (C)
特殊防御 25 (D)
素早さ 12 (E)
【西難大学三年生。21歳。規格外の体格のせいで怖がられがちだが実は心優しい。ハヤトの同級生。腐れ縁の相棒。実はハヤトより少し成績が良く、大学は違う。基本的に何事にも冷めているが、付き合いがいいことから、色々と巻き込まれている。特技は部活でもあるアーチェリー。顔立ちはまるで白人。
迷いなく自分の考えを最優先するハヤトと違い、相手の気持ちを慮ってしまうため、貧乏くじを引くことが多い】
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~風の狂騒~【コミネ】 大学生 レベル5 EXP134 風属性 身長180センチ 体重85キロ
HP 98 (A)
攻撃力 71 (A)
防御力 32 (B)
特殊攻撃 56 (A)
特殊防御 32 (B)
素早さ 30 (C)
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【福海大学三年生。21歳。天上天下唯我独尊を地で行く孤高の男。ハヤト、ヤノとは中学から一緒。正義に並々ならぬ思い入れがある。オリジナルの『コミネ神拳』を編み出すほどの北〇の拳マニア。
平常時ではただの変人だったが、心の力を具現化するアリバによって、その思い込みは強大な戦闘力として見事昇華した。
彫りの深すぎる顔立ちだが、れっきとした純国産品。ナミいわくバトルマシーン。ハヤトが想いをぶつけるまでもなく、勝手にアリバに目覚めた】
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【レベル1 秘孔 30/30 威力65 命中率85% 追加効果・麻痺】
《どこかの世紀末救世主漫画でもおなじみのアレ。人体に存在するツボを突き、敵を内部から破壊する……ワザを模したコミネ神拳の基本技。敵は爆砕できないが、威力は申し分なく、かなりの高確率で麻痺させる》
【レベル2 激怒 6/6 能力変化 攻撃力30%アップ】
《どこかの世紀末救世主漫画の主人公のようなシリアス顔で「お前らに今日を生きる資格はない!」と激怒して攻撃力を格段に上げる。しかも重ねがけ可能。演出上全身の筋肉が隆起し服がビリビリに破れるが、いつのまにか元に戻っている》
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第3話 【東和高校夏の陣】 に続く
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