4-1 福海大学いきなりのボス戦闘
タブレットをにらみながらナミが叫ぶ!
「来るよ! ボス戦だっ」
「い、いきなりかよ!」
――最後の火属性。
そいつを探して俺たちは『福海(ふくみ)大学』を訪れた。
属性の『傾向』をざっくり言うと、こんな分類らしい。
情に厚く前向きだが、ちょっとうるさい『火』
優しく穏やかだが、ネガティブな『氷』
こだわりや自意識が強く、我が道を行く変人『風』
高校からの友人『カスガ』は、友情を大事にする熱い男だ。
……少なくとも表面上は。
なんだかんだと、アリバは俺のまわりの人間関係ばかりだし、カスガが火属性のアリバであっても不思議じゃない。
大学はいま夏休み中だったが、卓球部に所属するカスガは、今日行われる全国卓球大会の予選に出場するため、ここに居るはずだった。
大学に到着するなり、俺たちは挙動不審の男に出くわした。
男は手に鉄の発煙筒のようなものを持っていた。
そいつを見てナミが叫んだのが冒頭のセリフだったってわけだ。
「相手は火属性っ。氷属性のメンバーをぶつけて!」
「氷というとヤノだな。いっちょ頼むぜ!」
「……ったく。ひと使いが荒いぞお」
ぶつぶつ文句を言いながらも、ヤノは敵に向かっていく。
相手は宗教の法衣のような恰好をした、どうにも不気味な男だった。大学という場所にまったく似つかわしくないぜ……。
「ぬっ。なんだキサマたち! 我が革命を邪魔するつもりか!」
革命って、そのネタはもう前回やったろ……。
「腐りきった学府を再建する我が革命の邪魔をする者は、木っ端微塵に爆破してくれるっ!」
言ってることはご大層だが、ヒョロイし、顔色も悪いしで、見た感じ弱そうだぜ。
……数々の激戦を繰り広げてきた俺たちの相手としちゃ、役不足の感は否めねえ。
「なあ、ところで、氷属性って他に誰が居たっけ?」
「もうっ。今そんなとき? ヤノさんのサポートしないと!」
「ヤノに任せてれば大丈夫だろ」
ナミはタブレットを見る。
「えと、鼻眼鏡のカムラくん……と、カワハラくん……居たっけ? そんなひと」
「……っひでっ。居るし」
「そーいや、コイツらのステータスはろくに確認してなかったな」
カムラ・カワハラ・ヤギハラの三人については、最初から期待してないもんだから、ステータス画面もまともにチェックしていない。
なにしろ、あのとき東和で仲間にしてすぐ、ナミのタブレットをチラッとのぞいたところ……
『カムラ レベル1【缶コーヒー】……自分だけ体力を微回復』
『カワハラ レベル2【脱兎】……自分だけ必ず逃走(ボス戦以外)』
『ヤギハラ レベル1【すり足】……回避率大幅アップ。攻撃力大幅ダウン』
……ナメてんのか、というガッカリ技ばかり。
「……あ、あれ? 前は気づかなかったけど、なんだろこの数値……おかしいよ……」
「……それ、もはや恒例になってないか? ……で?」
「カムラくんって、すべての能力値が最低ランクなんだけど、なんか、防御力だけが突出して高いっ。物理防御も特殊防御もSランク。しぶとさで言えば、メンバーでもぶっちぎりの一位だよっ」
「……まあ確かに保身にかけては天才的な男だけどよ……」
ていうか、アリバってなんかいろいろ雑じゃねえか? なんでそんなに極端なステータスばっかなんだ……。
「それからカワハラくんってひと。シモカワくん同様【スピードタイプ】なんだけど、そのスピードがちょっと尋常じゃない。Sランク中のSランク。シモカワくんにしたって相当速いのに、そこからさらに一段上だっ。
おまけにアリバも超強力で、氷属性三人の中でも、属性力だけで言えば、頭ふたつ分くらい抜けてる! コレものすごい強キャラだよ!」
「……こいつが強キャラ? 信じられねえ」
俺はカムラの隣で虚ろな目をしたカワハラを見やった。
「爆発は芸術だあああああああ!!」
ゴバアアアンンン!
男の叫びと爆発音がして、巨大な物体が黒い煙を引きながら転がってきた。
見ると、それは真っ黒にすすけたヤノだった……!
「ぐぐぐ……これ以上は……無理だな……ったくよお」
ガクッとヤノは気絶。
「お、おい! なにやられてんだよお前!」
「ほら! もう。よそ見してたからっ。ボス戦だって言ったのに油断しすぎ! 相手が使う爆弾は火属性特殊! これ相当ヤバイやつだよ! 属性補正があっても、大ダメージ食らう!」
「かと言って、属性補正のないヤツ出すわけにはいかねえだろ?」
「ほかの属性だと瞬殺されるよ!」
「こうなったら仕方ねえ! 行け! 氷属性のカムラ、カワハラ!」
「行けって、俺らポ〇モンじゃないっつーの! あんなヤバそうな犯罪者、関わりたくもねえっつーの! だいたい、ヤノさんがぶっ飛ばされた相手に、俺らが勝てるわけないでしょ!?」
「え? え? 行くってどこへ? 池?」
「うるせえ! 言うこときかねーと、俺がお前らぶっ飛ばすぞ!」
「げえええええ。こっちにも犯罪者がっ。……つーか、前々から言おうと思ってたけど、ハヤトさん、どっちかと言えば悪意寄りだっつー話で……」
俺はカムラにためらいなく必殺パンチ! バキッ!
「ぐええっ! そういうところが悪意だっつーの!」
カムラはあからさまなイヤイヤ顔で爆弾男に近づいていく。
そして、もみ手しながら、おもむろにポケットから取り出したのは……
白い布切れ?
「ヌヘヘ……降参です。お、俺はあんたの手下になりますぜー……!」
あ、あいつ白旗かかげて、秒速で裏切りやがった!?
「む。信念なき者には死を!」
悪意の男は、そんなカムラの態度に腹を立てたように爆弾を投げる!
ちゅどーーーーん!
「ぎゃああああああああ! 痛ッ。熱ッ。こ、殺す気かっつーの!」
「ホラ。言うほどダメージは食らってないよ」
確かに大騒ぎしてるわりにピンピンしてやがる。
カムラは不満そうな顔で、どこからか取り出した缶コーヒーをグビリと飲んだ。しかも、自前で回復しやがって……。
とはいえ、まともな攻撃手段もないみたいだし、オトリにしか使えねえか。
「カワハラ! カムラが敵を引き付けているうちに、お前も攻撃しろ!」
強キャラだなんていまだに信じられないが、あとはコイツに賭けるしかねえ。
「ええー。おれっすか。だりぃー」
必殺パ、まで出かかったがグッとこらえた。
打たれ強いカムラと違って、ヒョロいカワハラは俺がKOしてしまいかねん。そしたら、氷系は全滅だぜ。
「か、カワハラクン……な、ナミが、チミはとても優秀な氷のチカラを秘めているとホメていたよ。ここはイッパツ頑張ってはくれまいか」
「え。そーなんすか。ヨンキュウー」
ピシッ。全身に悪寒が走った。
これ、もしかしてサンキュー(39)とヨンキュー(49)をかけてんのか?
うわっ。寒ッ。
カッキーーーーーーン!
見ると、奇妙な服を着た爆弾魔は氷漬けになっている。
「カワムラくんのレベル1必殺技、【寒い言葉】だよ! な、なんてすさまじい威力……こんなのレベル1のダメージじゃない……!」
「それはいいが、ナミ……カワハラだ……」
あっけなくヤノを倒した強力なボス敵が、カワハラのお寒い「ヨンキュー」で一撃かよ……。
パリーーーン!
氷の柱が砕け、悪意のボスは地面に倒れた。
「……う、うう……」
「お。気づいたみたいだぜ」
なんか今回の悪意騒動は拍子抜けするくらい簡単だったな。
「ここは……ぼくは……いったい?」
「なにも覚えてないんですか……? 革命とか言ってたけど」
俺は自分より年上に見える男に手を貸しながらたずねた。
「……かくめい? なんのことだろう? なにもわからない……」
毒気が抜けたように男が言った。人畜無害そうな兄ちゃんだな。こうなると、着ている妙な法衣もすごい違和感があるぜ。
「……シモカワくんのときと同じだよ。悪意に染まっていた間のことは、全部忘れてしまうんだ」
事情を聞いてみると、男は福海大学理工学部の助教授で、ここ数日の記憶がまったくないらしい。
ただ、教授との間に確執があり、大学に対して恨みがあったのだという。
「……事情はよくわからねーけど、大学に対する恨みから悪意に取りつかれたんだろうな。爆弾なんか持ってたけど、何かしでかす前に正気に戻したから、問題はねーよな」
「……そうだね……たぶん」
「ん……? なんだこれは……」
元爆弾魔は、法衣のポケットから何かを取り出した。
その顔が一瞬で凍りつく。
震える手で持つその紙片を、俺は引ったくった。
【愚民どもよ! 貴様らの目を覚ますため、この大学に爆弾を仕掛けた! 私にしか見つけられない、私にしか解除できない爆弾だ! 現実から目を背け、目の前の快楽に耽るだけの、年老いた胎児どもよ! 革命のときだ! 天に怒号轟くとき、貴様らの眠たい目も覚めるだろう! 現実を見ろ! 自分で自分を守ってみせろ! 貴様ら以外の誰も、貴様ら自身を助けてはくれんのだ!】
それは……大学に爆弾を仕掛けたという犯行声明文だった!
「なんだよコレ! 爆弾!? 本当に仕掛けたのか!? どこにある!?」
ガリガリの身体を激しく揺する。
だが相手はオロオロしながら首を振るだけだった。
「……ま、まったく覚えていない……しかし、おそらく……爆弾を仕掛けたのは……本当だ……!」
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