5-1 シンデレラパークと招待状
その日の朝、カタギリ家に一通の招待状が届いた。
ピンポンが鳴って、俺が外に出ると配達人は消えていた。
よほど足の速いヤツだったらしい。
タイミングのいいことに、メンバーを招集したところで、カムラとカワハラ以外のみんながその場に居た。
「差出人は……【アイスクイーン】? なんだこりゃ……?」
「……微量の悪意反応がある」
「悪意だと? マジかよ……」
悪意のほうから直接俺にコンタクトしてきたってのか……?
さすがに緊張しながら封を切ると、古風で仰々しい書状が入っていた。
なんだこりゃ。大昔の舞踏会の招待状みてーだな……。
―― ハヤト殿。貴君の【大切な女性】を預かっている。無事に返して欲しければ、貴君ひとりで、シンデレラパレスの【仮装舞踏会】へ来られたし ―― ~アイスクイーン~
「こ、これって誘拐の脅迫文じゃないかよお……!?」
「しかも兄貴を名指しだっ」
「……けど、大切な女性って、ナミはちゃんとここに居るじゃねえか」
つい無意識にそう言った。ふと見ると、ナミが口を開けて固まっていた。
「……………………」
「あ、いや」
「……なにそれ」
「そういう意味じゃなくて」
「……意味不明」
「……だから……そう。アリバの戦士にとって、大切で重要な人物って意味だよ、うん」
「……………………」
ンッ! ……ンンンッ!
まわりから、取ってつけたような咳払い。
「……ったくよお」
「あははー」
「ムホホ」
「……ですな」
「……ハァ。兄貴は女のひとの扱いをもっと学ぶべきだよ」
「でも、ハヤトさんって、自分に好意を寄せる女のひとの気持ちにはけっこう鈍感だからな……」
「と、とにかく、【大切な女性】ってのが、ナミじゃないとしたら誰だ?」
「……ハヤト。心当たりはないのか? おまえのただれた女性関係で」
「こいつ昔からけっこう女にだらしないからねー」
「おまえらうるせーっ! ……しかし、他に思いつくとしたら、マユかスエくらいしか……」
「ピクッ。……スエ? それだれ?」
「あ、いや……」
そういやナミはセーブカンパニーに入ったことなかったんだっけ。
「ところで、シンデレラパレスとはなんなのだ?」
コミネがうまい具合に口を挟んだ。空気を読まねえ風の大将、ナイスっ。
「ムホホ。西区にある遊園地『シンデレラパーク』のシンボルですよ、コミネさん」
「シンデレラパークって、西日本最高速ってジェットコースター『INABIKARI』があるとこやん!」
「おれの町・福岡が一望できる巨大観覧車もありますな」
「ハヤト。囚われた相手が誰かはともかく、行くしかないぞ。全員でシンデレラパークへ乗り込むことを提案する」
「全員? けど、招待状には俺ひとりで来いって……」
「いや。よく読め。シンデレラパレスの仮装舞踏会にひとりで来いと書いてあるが、シンデレラパークとは書いていない。全員でパークに乗り込み、ハヤトひとりでパレスの指定の場所へ行けば、相手の要求は呑んだことになる」
「なるほどな」
さすが頭のいいやつは揚げ足取りが上手いぜ。
「で、おれたちはいつでもサポートに行けるよう、近くで待機しとくわけだなあ」
「ヒャッホオオオォォイ! おれたちもシンデレラパーク行けるのか!」
「シンジロー! INABIKARI乗っちゃろうぜ!」
「ムホホ。『無重力体験MOR』とやらも天才的には気になりますねえ」
「いや……あの……おれは個人的には……遊園地とかどうでもよくて……家に帰りたいっていうか (って、だれも聞いてないにゃあああ……)」
「あ、でもシンデレラパークって入場料金バカ高いですよ! 僕も女の子と行こうと思ったけど諦めましたからね」
「む、ムウ! このコミネ、自慢ではないが、今日を生き抜く生活費しか持たぬ!」
「……いや、それなら心配いらねえ。今日は『仮装舞踏会』って書いてあるだろ? これがある日は、なんでもいいから仮装すりゃ入場料がタダになるんだ」
「兄貴、詳しいなー」
「……まあな」
実は以前、俺は、仮装してシンデレラパークに行ったことがある。
……そして。そこで……ケイと出会った。
……ケイ……?
「ハヤト」
「……………………」
「ハヤト」
「……あ、ああ。なんだ?」
「私は今回欠席させてもらおう。限定された空間だけに、悪意に囲まれ乱戦になる可能性が高い。アリバのない私は足手まといになる」
「そうか。わかったぜ」
「……ナミ」
「……なに?」
珍しくササハラがナミの名を呼んだ。
が、ナミのほうは相変わらずの無愛想。
「私はまだメンバーに加入して日が浅いが、どうにもキナ臭い話に見える。なにが起こるかまったく予想できない。アイスクイーンとやらの正体も未知数だ。こちらでも色々調べてはみるが、現地でしっかりハヤトをサポートしてくれ」
「……フン。悪意がらみだからね。言われるまでもないよ」
こうして俺たちアリバの一行は、シンデレラパークに行くことになったのだった……。
◆
福岡市西区に位置する『シンデレラパーク』……
西日本随一の観覧車を擁する巨大テーマパークで、『日本最大級』とか『西日本一』とか『日本最高速』とか、景気のいい言葉を冠したアトラクションが盛りだくさんだ。
「ここがシンデレラパーク?」
入場ゲートの前で、ナミがはずんだ声を出した。
戦闘時以外は無口・無愛想のナミも、遊園地の楽しげな雰囲気を前に、テンション上がっているらしい。
「なんか賑やかなところだね」
物珍しそうにキョロキョロ。初めて大きな遊園地に来るらしいから仕方ないが、悪意と関係してるってのに、いつもより緊張感がない。
結局顔を出さなかったカムラ・カワハラと、離脱したササハラをのぞいた総勢10人で、ぞろぞろとゲートへ向かう。
ここで仮装の手続きをするのだ。ちなみに衣装は無料レンタル。
衣装には、マンガ・アニメ・ゲームのいわゆる『コスプレ』から、童謡・おとぎ話・レトロ映画といった正統派の『仮装』まで色々揃っている。
と言っても、ほとんどの入場者がアニメ・ゲームのコスプレを選ぶから、ちょっとしたオタクイベントになっているのが『仮装舞踏会』の現状だ。
ナミだけが女性用入口。残りは男性用入口へ。
俺たちは思い思いの扮装をして、真夏の遊園地へと足を踏み入れた……。
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