3-4 愉快で重要なポンコツたち
シンジローたちと別れ、俺たちは新校舎から旧校舎へと走った。
悪意のボスが居るという体育館はこの先だ!
そういや、愚弟たち二年生はこの旧校舎にクラスがあるんだっけな、と考えたとき……
野太い悲鳴が聞こえてきた。当のシンジローのクラスかららしい。
「ひいいいぃぃぃぃぃっっっ。俺は敵じゃないっつーの! 敵はあっち!」
「お、おれ、生徒会役員っちゃけんなーーーっ。なんかしたら、先生にチクッちゃーけんなーーーっ」
「にぎゃーーーーい! なんでこんな目にあわなくちゃいけないんだーー。意味不明じゃよーーー。お母さーーーーーん」
……この三人の声には聞き覚えがあるぜ……。
開いたドアからは、教室の中で悪意の生徒たちに囲まれ絶体絶命の男たちの姿がチラッと見えた。
「か、金なら! 金なら少しだけありますぜっ! なんなら、コイツらふたりを差し出しますから、俺だけでもお助けをーーー」
「おまえら、絶対チクッちゃーけんなっ。も、もう、退学やけんなーーーっ」
「もうダメじゃよーーーーあれえーーーーーー」
「ハヤト。まだ無事な生徒たちが居るみたいだよ?」
「……………………」
「おおおっっっ。そこに居るのはハヤトさんではないですか! あなたのカムラです! 助けてくださいーーー」
「えーー? なんでハヤトさんがおるとー? 部外者やん」
「は、ハヤトさーーーん。助けてくだされーーーー」
……素通りしようと思ったが、目ざとく気づかれてしまった。
コイツらはみんなシンジローの友達で、俺とも面識がある。
「よう。おまえら。なにやってんだ?」
「な、なにって、見りゃわかんでしょうがっ」
三人のリーダー格『カムラ』がわめく。処世術と二枚舌が武器の、自己保身の権化みたいな男だ。変装のつもりか、高校生とは思えないオヤジ顔に、パーティグッズの鼻眼鏡を装着してやがる。
「ハヤトさんがなんでおると? ね、ね、カムラ?」
博多弁丸出しのモブ顔が『カワハラ』。存在感皆無で、そのくせお寒いセリフを連発する、カムラの腰ぎんちゃく。
「なんでもいいからお助け―」
情けない声で助けを連呼している最後のモブが『ヤギハラ』。コイツはコイツで、クソ暑い真夏だってのに、剣道着と防具を装着してやがる。身を守るためか? ビビりすぎだろ……。
「いま忙しいんだ。じゃあな」
「げえええっ!? こ、この状況で俺らを見捨てる気ですか鬼ですかアンタはっ! 野間四つ角のタイヤキ、いつも貢いでるじゃないですかその代金ぶんでちゃんと助けてくださいよーーーっ!」
「……待って、ハヤト。……ボクも正直信じられないんだけど……この子たちにもあるみたい……その……アリバが……」
「コイツらに? まさか。東和がこんな風になったとき、真っ先に悪意になってるだろって思ったのがコイツらだぜ?」
「うーん。でも、ここまで悪意に汚染された学校内で、いまだに正気を保ってるのが、その証拠だよ」
「チッ。そーいうことなら仕方ねえっ。助けてやるか!」
俺は勢いよく教室内に飛び込んだ。
パンッ!
集中しつつ、三人組を取り囲む悪意の東和高生に必殺パンチをぶち込む!
「そらよっ。食らいやがれ!」
ドゴッ。コガッ。ズゴッ。
「げ、げえええっ。ハヤトさんが格闘技やってんのは知ってたけど、ここまで強いなんてっ!」
「すっげっ。マジすっげっ。一瞬やんっ!」
「……ホッ。これでおうち帰れる……」
続いて入ってきたヤノ、コミネとも連携し、俺たちはあっという間に教室内の悪意を一掃した。
「さてと……」
俺はホッとするモブ顔三人組に言った。
「助けてやった礼に、お前ら三人、オトモになれや」
「な、な、なんすか、その超強引な桃太郎展開はっ! キビダンゴすらもらってないですよっ! つーか、ダンゴもらったってイヤだっつーの!」
「お、おれは、もうすでにカムラのお供ですよーー」
「さ、先にサービスしておいて、あとから無理やり請求なんて、詐欺の手口じゃよーーー」
「……なんだよ。イヤなのか? わかった。……おーい! 悪意どもー。ここにまだ正気の問題児が三人も残ってるぜー」
「な、なんばしよるとですかっ。ハヤトさーん!」
「せ、せ、せっかく、ピンチを脱したのに、またまたピンチじゃよおおおお」
「んじゃ、俺についてくるか?」
「お、オドシには屈しないっつーの!」
「……これだけ言ってもダメか? 仕方ねえ。ヤノ。コミネ。コイツらどうやら悪意だわ。倒そうぜ」
「……ったく。しょうがないぞお」みちりっ。
「……正義がわからんやつには指導が必要か……?」バキバキッ。
「ゲエエエ。さ、さっきのおかしくなった生徒たちよりひでえ! ていうか、状況は、よけい面倒になったつーの!」
「あの……巻き込んでゴメン。ボクはナミ」
「美しいお嬢さん。わたくしめはカムラと申します」
「なに? なに? この美人、ハヤトさんの彼女? でも、髪長くてタレ目じゃなかった?」
それはケイだ……カワハラのやろう、相変わらず空気を読みやしねえ……。
「……お、お、お……おんなのひとは苦手じゃよー……」
ナミはそんな三人に、手抜きなくらいあっさりと説明した。
「しかし、こんな一般人A・B・Cみてーなやつらがアリバを持ってるなんて、まだ信じられねーな」
ナミはタブレットを見ながら答える。
「……カムラくんは『氷』。ヤギハラくんは『風』。そして……なんだっけ……?」
「カワハラ」
「ああ、そのナントカくんも『氷』。間違いないよ。みんなアリバだ」
「そっか。なんか一気に増えたな。詳細なデータはあとでいいぜ。どうせショボいステータスだろうし、メンバーが増えすぎて面倒だ」
「う、うん。確かにこの三人は、能力値も低いし、必殺技も微妙なものばかりだけど……」
「だろ? ……おい、お前ら。とりあえず旧校舎に戻って、シンジローとヨシオと合流しろ。あいつらなら、お前たちを守ってくれる」
「シンジローとヨシオすか?」
「ああ。あいつらもアリバに目覚めて戦ってる」
「しかし、俺ら本当になんのチカラもない一般人ですぜ? ハヤトさんたちの仲間になってもやれることないっすよ?」
「カムラはじゅうぶん世渡りが上手やん!」
「よせやい、カワハラ!」
そんなやり取りにガクッと脱力する俺。
「……おい。ナミ。ほんとにコイツら大丈夫なのか?」
「……うーん? でも……」
ナミはそのあと小声で何か話していたがよく聞き取れなかった。
「(……この子たちには、底知れない何かを感じる。ひょっとしたら、いつか……土壇場でストーリーを変え得るのは……案外、こういう子たち……)」
「とにかく、今のお前らじゃ実戦投入は不安だ。シンジローたちと合流して、今回は大人しくしてろ」
俺は話をまとめた。これ以上ここで時間をムダにはできん。
「……ブツブツ (ここは、従順な姿勢だけ見せて、あとは逃げるか有利なほうにつくのが賢明……)」
「ん? なにか言ったか、カムラ?」
「いえ! わかりました! 不肖カムラ、ハヤトさんのため、福岡市のため、アリバのため、粉骨砕身で働かせてもらいやすっ!」
「え、ええっ? か、カムラ……それでいいと?」
「おれまで巻き込まないでくれーーー」
「よし。この件が終わったら、おまえらもたっぷりコキ使ってやるから、楽しみにしとけ!」
「いやじゃーーーー。あんまりじゃよーーーー」
「え? ハヤトさんなに言っとーっと? コキ使うって誰を?」
「……………… (く、くそっ。ぜってー逃げだしてやるっつーの。見てろよ、ハヤトさんめ!)」
こうして、ヨシオ(電波)、シンジロー(炎)に続き、カムラ(氷)、カワハラ(氷)、ヤギハラ(風)と、三人もの仲間が加わった。
多くてワケわかんねーよな。
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