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3-1 東和高校の異変

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キャラ (13)

 今日は7月23日

 おれの通う東和高校は終業式で、明日からいよいよ夏休みだ。

 兄貴とナミさんはまだ寝ているらしく、部屋から出てきていない。

 ……ナミさん……。

 あのとき、震えながら家に帰ると、もうナミさんは居て、何食わぬ顔で兄貴と一緒だった。

 まるでさっきのは夢だったかのように。

 何も知らない兄貴は、「おせえ! 温れぇ!」とおれをぶん殴った。でもそのドタバタのおかげで、ナミさんにおれの動揺を気づかれなくて済んだ。


母

「どうしたの? あんた顔色悪いわよ?」


 朝食の用意をしながら母さんが言った。母さんはいつも優しい。おれは精いっぱい平気な顔をした。


キャラ (13)

「だいじょうぶだよ母さん」


母「明日から夏休みねえ」

 母さんは自分もハムエッグとトーストを食べながら笑った。

母「あんたたち兄弟は、夏休みはほんと楽しそうよね。友達みんなでワイワイやって」

シンジロ「……母さんごめんね。いつもうるさくして」

母「いいのいいの。あんたたちが楽しそうなら、それが一番。……だから、友達は大事になさい?

 母さんはコーヒーを飲みつつ微笑んだ。


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 いつまでも子ども扱いされる心地よさを感じながら、おれは制服に着替えて家を出た。


風景 (38)


 東和高校は、南区、筑紫丘の坂の上にある。

 この坂を上って、左にはトップレベルの『つくしヶ丘高校』が。

 そして右にはワーストレベルに偏差値の低い『東和高校』が、わざわざ向きあうようにして建っているのだ。

 バカ学校ではあるけれど、友達はたくさん居るし、のんびりした校風だし、おれはまあ楽しくやっていた。

 その日、悪意が学校を覆うまでは……。


 ◆


 異変は、終業式の真っ最中に起きた。

 最初に気づいたのは、友達の『ヨシオ』だった。


pヨシユキ

「………………………………」


 ヨシオは見た目も宇宙人みたいだけど、中身もフワフワゆらゆらの、独自の世界観を持つ、電波系の不思議ちゃんだ。


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キャラ (17)

「……へんですな」


キャラ (13)

「どしたい? ヨシオ」


 全校生徒がズラリと整列した体育館で、おれはヨシオに小声で話しかけた。

ヨシオ「……なにかが来ますな」

シンジロ「来るってなにが? 便意?」

ヨシオ「……そしてシモカワの様子がおかしいですな」

シンジロ「シモカワ?」

 壇上では校長の長い話がやっと終わり、生徒会長あいさつが始まるところだった。


pシモカワ


 シモカワ。

 おれの親友で、東和高校の生徒会長。

 生徒会長選挙のときは、おれがシモカワを応援し、ふたりで、『東和革命』という標語を掲げ、派手なパフォーマンスをぶちかました。

 元々、美形で性格も明るく、前向きなシモカワのこと。

 おれたちの『東和革命』は全校生徒に圧倒的な支持を受け、シモカワは歴代最多得票で会長に選ばれた。

 ついでとして、おれまで副生徒会長に選ばれてしまったけど……。

 ふだん人前に立つのはシモカワばかりだから、おれは一歩下がって、陰から支える役回り。

 でも、目立つ兄貴の陰にいつも隠れてるおれには性に合ってる。

 そのシモカワがおかしい、とヨシオは言っている。


キャラ (12)

「生徒会長のシモカワです」


 シモカワがマイク片手に話し始めた。たしかに、なんか……目が……赤いぞ……?

シモカワ「……明日からの夏休みを前に……わたしが生徒諸君に望むのはただひとつ」

 シモカワの瞳がさらに赤く輝き、ドス黒いオーラが全身から立ち上る!

シモカワ「全校生徒よ! 悪意に目覚めるのだ!」



 その一声で数百人が突然おかしくなった!

 別人のような邪悪な顔になり、目が赤く光っている!

 体育館内はあっというまに大混乱だ!


pシンジロー

「な、なんだよコレ!? なにが起こったんだよお!」


pヨシユキ

「おっぱじまりましたな! シンジローは無事ですな?」


 よ、よかった……ヨシオは正気のようだ。

 よく見ると、全校生徒がみんなおかしくなったわけじゃなさそうだ。正気の生徒もチラホラ見られる。

 でも数は少なく、みんなもれなくパニックになってしまっている。


pシモカワ

「……ふむ。悪意に身を委ねようとしない問題児も若干居るようだ」


 壇上のシモカワが物憂げに言い放つ。

シモカワ「……それも、よりによって、わたしの片腕たる副生徒会長のシンジローとは」

 シモカワのセリフで、おかしくなった生徒たちの視線が、ギロリと一斉におれを向いた!


pシンジロー

「ひいっ!」


pヨシユキ

「シンジロー! ここを出ますな! 多勢に無勢。囲まれたらアウツですなっ」


 ヨシオはそう言って、おれを連れて体育館を飛び出した!


キャラ (3)

「よ、ヨシオ。し、シモカワやみんな、どうしちまったんだよお」


キャラ (17)

「わかりませんな。しかし、きゃつらに何か禍々しいものが取りついたような感覚がありますなっ。特に大きなチカラが校内にふたつ! ひとつはおそらくシモカワですなっ」


シンジロ「な、なんでおまえにそんなこと感じられるんだよぉ」

ヨシオ「うーん。なにやらおれの中にも不思議なチカラが宿っている感覚があるんですな」

シンジロ「チカラ?」

 おれとヨシオは、ふたり並んで校内を走る!

 まともな生徒は散り散りになって必死に逃げ惑ってる!

ヨシオ「おまけに、学校の外、カタギリ家のほうからも、強いチカラを三つほど感じますな! こっちはサワヤカで健康的なオーラですなっ」

シンジロ「ま、まさか、それって、兄貴……?」

 きっと兄貴だ。ナミさんと出会ってから、兄貴は変わった。『ありば』とか『悪意』とかって話もしてた。

 兄貴は、いま東和で起きているこの事件にも関係してる!

 何か不思議なチカラに目覚めて、おかしくなった生徒たちみたいな連中と戦ってるんだ!

 そう考えると、ここ最近福岡市を賑わわせている奇妙な事件ともつながりがあるに違いない。

 事件が起きるようになったのと、兄貴とナミさんが行動し始めた時期も一致する!

 兄貴がおれに隠していたことって、これなんだ!


風景 (42)


 おれとヨシオは体育館から旧校舎に入り、渡り廊下を走る!

 下駄箱へと向かった。そこから校外に脱出できれば……兄貴に助けてもらえる!

 騒ぎはますます広まり、校内のあちこちで乱闘騒ぎが起こっていた。

 シモカワの号令でおかしくなった生徒が、まともな生徒を襲ってる感じだ。

 そうすると、おれやヨシオが狙われるのも時間の問題……。

 ……ガガッ……。

 校内放送のスピーカーが突然ノイズを発した。


メインキャラ (58)

『……ガ……副生徒会長のシンジローを探せ! まだ校内に潜んでいるはずだ! シンジローを捕らえよ! ……シンジロー。聞こえているならはやく悪意を受け入れろ! そしてみんな悪意に染まってしまえ! それがわたしの「東和革命」だ!……ガガッ』


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キャラ (13)

「ひ、ヒイィィィィ……!」


キャラ (17)

「敵の狙いはどうやらシンジローのようですな。……でも、シンジローにもおれと同じようなチカラがあるような、ないような……。ついたり消えたりしてる気配が……って、あ、シンジロー……どこ行くですな!?


 全校生徒から狙われている!

 その恐怖は想像を絶するものだった。

 オシッコをちびりそうになったおれは、ヨシオの声を遠くに、とにかく走って逃げた。

 外に出ようにも、校門は赤い目の生徒たちがすっかり閉鎖して、出られそうもない……。

シンジロ「あ、アニチぃぃぃ! アニチぃぃぃ! た、たすけてくれよおおおおお!!」

 おれは、兄貴が駆け付けてくれることを必死で祈りつつ、とにかくひとが少ないほうへと走りまわった。

 気づいたら新校舎の屋上へ続く、薄暗い階段の途中でしゃがみこんでいた。

 もう逃げることもできず、ガタガタ震えるだけだった。ここだって見つかるのは時間の問題だろう。


pシンジロー

「も、もうだめだ……アニチ……タスケテ……」


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