5.不妊治療2年目で退職したこと
もともと不妊治療を始める際に、直属の上司と先輩には不妊治療をする事を伝えておきました。診察の為に休むことが多くなりますし、毎日のように会社帰りに注射を打ちに行かなければならなかったからです。強い薬を使用するので体調不良になる事も伝えました。
治療を始めた頃は、周囲も理解を示してくれ、体調を崩しながらもなんとか通院を続けることができました。古い体質の会社なので不安だったのですが、ちゃんと対応してくれて本当に助かりました。ただ、病院に通ったからといってすぐに子供ができるわけではありません。個人差はありますが、妊娠のチャンスは1年で約12回です。なかなか授かる事が出来ずに時間は過ぎていきました。
治療を始めてから1年近く経った頃、女性の先輩の態度が急に変わりました。通院の為に早退届を出すと「あー、ハイハイ!病院ね!ビョーイン!」とキレ気味に言われ、帰る時に挨拶しても完全無視。仕事中に理不尽にキレられること多数。薬の副作用で具合が悪くなった私に「仕事やる気あんの?病院合わないんじゃない?それか何か別の病気なんじゃない?不妊治療なんかやめたら?」なんて言われた事もありました。(その場でブチ切れて大暴れしなかった私を褒めて欲しい。まぁ、単にそんな暴れる気力もないくらい具合悪かっただけなんですけどね)え?私何かやらかした?全然身に覚えがないんですけど??最初は本当に、どうしてこんな風にキツく当たられ始めたのか訳がわかりませんでした。先輩は仕事もできますし気もきくし、性格だって本来はおっとりとした優しい人です。入社以来10数年、大変お世話になりましたし、プライベートでも仲良くさせてもらっていました。そんな彼女の急な豹変に、私はとにかく呆気に取られました。
何でこんな事になったんだろうと悩んでいましたが、ふと、あることを思い出しました。私が不妊治療を始める更に数年前、後輩の妊娠が発覚した時も彼女は荒れていました。私に対するのと同じように後輩に嫌味を言ったり、仕事中にじーっと睨みつける等の嫌がらせをしていました。私も後輩から相談を受けて、なんとかしようとしましたがなかなか上手くいかず、最終的には険悪な仲のまま後輩が出産と同時に退職しました。
思い返せば、あれは妊娠する事ができた後輩への嫉妬だったのだろうと思います。そう、それが形を変えて、今度は私に向けられたのだと気がつきました。
そんな先輩ですが、彼女の気持ちも少しはわからなくも無い点はあります。先輩も、私が不妊治療を始めたすぐ後に、不妊治療を始めようとしていました。しかし、家庭の事情で治療を一旦中止せざるをえなくなりました。
治療を受けられる私と、治療を受けられない先輩。先輩の方が私より年上なので、焦る気持ちもあったでしょう。先輩の妹さんがたくさんの子宝に恵まれた事もプレッシャーとなっていたのかもしれません。妹さんに対する恨み言も沢山聞かされました。
不妊や不妊治療は、身体にも心にも大きな負担を与えます。つらいです。不妊治療は、頑張れば頑張っただけ結果が出るというものではありません。治療によって少しだけ妊娠の確率が上がりますが、100%確実に妊娠出来る訳ではありません。妊娠は奇跡と言いますが、私はある意味ギャンブルみたいなものだと思っています。真面目で頑張り屋な人であればあるだけ追い詰められるでしょう。人によっては心を病んでしまう事も十分にありえます。まぁ、だからといって後輩や妹を妬んだり恨んだり呪ったり嫌がらせしていいとは私は決して思いませんが。
本当は嫌がらせを受けている事を上司に相談するべきだったのでしょうが、私はしませんでした。その頃、私は心が疲れきっていて、事を荒立てる気力もありませんでした。ただただ先輩の顔色をうかがい、出来る限り彼女から距離を置くことでなんとか踏み止まっていました。
そんな中、2回目の化学流産が起きてしまい、私の中で何かがぽっきりと折れてしまいました。
また化学流産や流産をしてしまったら、次の日普通に会社に通えるだろうか?仕事はなんとかできるとは思うけど(実際、2回化学流産してもこなしてきたし)、同僚達やお客様に笑って接することができるだろうか?ましてや、そんなタイミングで先輩からの嫌がらせなんか受けたら…。さすがに無理だなぁ。
私は会社を辞める事を決意しました。
と、まぁ自分の中で決意はしたものの、ちょうど家を建ててローンを組んだばかりのタイミングだった我が家。夫には金銭的にも精神的にも大きく負担をかけてしまうでしょう。不安を抱えながら退職したい事を相談をすると、夫はあっさりと「精神的にきついなら会社を辞めるのもいいと思うよ。体調もあまり良くないし少し休もうよ。家の事とかお金の事は心配しなくても大丈夫だよ、何とかなるよ」と承諾してくれました。夫が退社を了承してくれた事、それ自体よりも、私の気持ちをよくよく理解してくれた事がとても嬉しかったです。良い人と結婚できたなぁと思うと同時に、やっぱりこの人の子供が欲しいなと思いました。
「不妊治療の為の退職」ですが、私としてはして良かったと思います。
勤めていた会社は鉄鋼業を営んでおり、男性社員が9割くらいの、昭和の雰囲気がバリバリの古い体質の会社でした。しかも、私が入社する直前くらいまで「女性社員は結婚もしくは妊娠したら即退社」「女性社員は結婚していなくても30歳超えたら退社」「女性社員は未婚男性社員の結婚相手候補として採用する」というクソの極みのような…失礼、男尊女卑のブラック極まりないことをしていました。こうして書くと昭和というか明治時代位遡ってますね。ヤバ過ぎて笑えない。私が十数年在籍している間に多少マシになりましたが、セクハラパワハラが蔓延っている基本的な体質は変わりませんでした。そんな事もあって、当然のように、育休を取得して職場復帰する女性社員は1人もいませんでした。
実際、妊娠してから私も悪阻がそれなりにありましたし、細々としたマイナートラブルもたくさんありました。妊娠初期の頃は出血が2回程あって、自宅で安静にしていなくてはなりませんでした。これでも、入院したりしていないので、比較的安定している方です。個人差はありますが、妊娠中は大なり小なりトラブルは起きますし、そうなったらお腹の子供を守る為にも休まなければなりません。しかし、こんな明治時代のような体質の会社では、休みを取るにも難しかっただろうな思います。もちろん必要ならば労基に訴えてでももぎ取りますが、できればそんな無駄な労力使いたくないですよね。
正直なところ、不妊治療を始めるまでは、出産ギリギリまで働いて少しでもお金を貯めておきたい気持ちもありました。でも、例え不妊治療無しで妊娠したとしても、この会社で育休取得者第一号になるのは、私にはきっと無理だったでしょう。どっちにしろ妊娠初期の段階で退社していたと思います。総務部に籍を置いていたからこそわかる事ですが、この会社の社長及び上司達は本っっっ当に古臭い考えを持っている上に面倒くさい性格をしていました。そんな彼ら相手に産休、育休について一から説明し説得しなければならないなんて心底面倒くさすぎます。無理無理私には無理。
今後、この会社が産休育休についてどういう風に変わっていくのか、いかないのか。実際、こんな古い体質のままでは企業として詰みます。終わります。すでに退社している身としては何も言えることはありませんが、後輩たちの為にも、そして会社の未来の為にも、より良い方向へ向かう事を願っています。