インチキ・アーティスト・スター8
オレの誕生日にアルコール兄弟のDがメシをおごってくれるという。地下街の噴水前で待ち合わせ、ドイツ唐揚げの店に二人で入ると、オレはビールとカラアゲを頼み、Dはカラアゲとノンアルコールビールを頼む。
Dはアル中だったが酒を抜くため始めたマラソンにはまってしまい、明日は○〇マラソンに出るので、今日は飲まない。酒よりもマラソンのほうが気持ちいいから、オレにも走れとヒザに針を打ちながら言う。
昔、Dのカレンダーに一日だけ〇がしてあった。誕生日かと聞くと、休肝日だと言った。
もう一人アルコール兄弟がいたが、そいつはフラメンコダンサーと結婚した。酒よりセックスの方が気持ちいいと言うが、ヤツは酒だけでなくタバコもやめさせられるハメになった。
Dは唐揚げを手づかみで食い、箸で食うオレに「分かってない」と説教をたれる。それはオレがこの店に初めて来たときに君らについたウソだ。ビールジョッキが指紋だらけになるのでやめた方がいい。
こんな新型肺炎が流行ってるときに、わざわざマラソンも大変だなと言うと、
「日本人の半分はガンで死んで、もう半分くらいは血管障害で死ぬんだよ。ガンは指先に針を100本刺すくらい痛いらしいし、心筋梗塞は心臓に針金を入れてグリグリされるくらい痛いし、くも膜下出血は金属バットでぶん殴られたくらい痛いらしい。それなら、新型肺炎で溺れるように死ぬのも、そんなに悪くない」
Dはそう言いながら、チキンの骨をかじり、オレは大ジョッキを追加。「オレはトップ20(中高年の部)なんだ、希望の星だ」そんな自慢をした。
「巨人の星ってあるのか?」と、オレが聞くとDはマンガ自体、知らない。
「それとおんなじだ。オレだけにしか見えないインチキ・アーティストの星がある。オレにだけ見えてればそれでいい、オレがその星になることは意味がない」
Dは黒こげになったムツゴロウ姿焼きを、誕生日プレゼントにくれた。そして、オレたちは明日のマラソンのために早々に切り上げ店を出た。
二人で地下街を歩いていると、ワインバーのママが大声で「ワインとチーズいかが?」と大きめの声でオレたちを呼び止めようとした。
オレは初めて呼びかけられたフリをして、「酒売りには酒飲み分かるようだ」とDを蔑んだが、いつもオレはこの店の前で呼びかけられる。いつものことだ。
還ってプレゼントにもらったムツゴロウを食卓に放置しておくと、母が「食べられるの?」と聞いた。「夜、寝られなくなるらしい」と言うと、オヤジが「バカが治るから」と強引に食べさせられていた。
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