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【詩】白い朝

朝、目がさめたら押し寄せていた
白い、白い世界に、町が沈んでいた
遠い山は、消えかけていた
遥かな都会は、地平に霞んで
浮いている、蜃気楼のように

白い、白い風が、町に漂っている
静かに、声をひそめて
何もかも、黙りこんで
森は白く、かすんでいる
枝の先の産毛が、湯気につつまれて
まるで、綿のかたまりだ
枯れ色の茂みが、呼吸をはじめた

テレビの画面が、白い煙をあげた
遠い戦場の、殺戮の絵図だ
白い、白い言葉が、正義をふりかざし
うそぶいて、蹂躙する
暮らしは灰に、破壊され
鉄の力が、無数の命を血に染める
落ち着かない、濁った眼つきが
震えながら、恫喝する

白い、白い眺めが
瞳のおくで、うずくまる
目に映る、動かない日常に
心のおくを、揺さぶる
騒ごうとする

珈琲カップの、白い湯気が
褐色の波を揺らしている
ミルクを、ひとしずくだけ
波紋が、ひろがっていく
縞模様が消えて、変り果てた
混沌の色を、口に含んで飲みくだす
逃げ場のない苦みが、鼻腔を刺激する

白い、白い朝が
あざやかさを、とりもどす
クルマの、走る音がする
人影の、歩く気配が聞こえる
鳥たちが、空にはしゃぎはじめた
絶望は、忙しさに埋もれてしまう

大地は、黙ってみつめている
町は、平然としている
かすんでいた、山も、都会も
あとかたもなく、消え失せていた
地平にはだかる、分厚い靄に
すべて白く、吸い込まれてしまう


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。