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【詩】新緑

夜半の雨はやんだ
樹は湿りを湛えている
たわわに揺らす、緑の枝が
深い呼吸に、胸を震えて
大きく、息を吐く
空気の、蒸せた匂いが
目から鼻へ、抜けていく
しぶきとなって、浴びせる
肌を、疼かせる

土と水が陽ざしに煮えて
ただよう風に、溶け込んでゆく
濡れた幹の、やわはだを
包みこみ、染みていく
木陰は、かぐわしい
開いたばかりの若葉のすきまに
透きとおる、陽の光が
瞳の奥を突き抜ける

枝を抜ける風の音は
まだ、軽く、やさしい
名残りの朝霧に、ふやけて
力なく、うなだれている
違う、目覚めの時を
待っているのだ
息を溜め、力を抜いて
胸をひろげ、風にまかせて
樹液のめぐりを滾らかす

知っているのだ
年ごとに、繰り返される
季節のなりゆき
変わらない、自然のはぐくみだ
そうだ、木陰のかおりは
ほとばしる、息吹きだ
梢を、見あげれば
繁みの尖端へ
吸いこまれてしまう


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。