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【詩集】自然派

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自然をテーマに書いた詩の作品集です。
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#現代詩

【詩】波のむこう岸

この岸に 寄せくる波は どこからやって来るのだろうか 見果てぬ海の つらなりの どこかに …

【詩】巣立ち

軒先のツバメの巣に 一羽の雛が取り残されている 不意の孤独に戸惑うように 目を見張り、声を…

【詩】春よ

冬が過ぎ 乾いた大地が溶けてゆく 土は ほどけて泥となり 隠されていた 鼓動が 風に くすぐ…

【詩】晩秋

雑木の錦が くすんで 藪のしげみの ところどころ ハゼノキが あかく アカメガシワが きい…

【詩】風の行く方

土手は枯れて、田畑は渇いて 霜の気配が、走りはじめた トンボの群れの賑わいも 蹴散らすバッ…

【詩】海辺のトンボ

浜辺を、トンボが飛んでいる ガラスの翅を、震わせて 右へ、左へ、餌食を追って トンボの群れ…

【詩】秋のアゲハ

色褪せた羽を はためかせ 君は 力なく風にのり 盛りを過ぎた 蕾の奥に わずかな花蜜を さぐっている 疲れて萎れた くちばしを 冷たい風に さらして かたむく日射しを 浴びている あの夏の陽に さんざめく さなぎの記憶を 抱えたまま まばらに枯れゆく ただなかに たったひとり 取り残されて 風の波間に 身をゆだね 忙しなく 羽ばたいて 乏しい花弁の ほとぼりに やがて 冷えゆく手足をのべて 霜の声音が 満ちる朝 君は 息をたたむだろう ©2023 Hiroshi K

【詩】老樹

今日も空は青く、風は心地よい 見下ろす眺めは広く、美しい 降りそそぐ、陽の光りが ひろげた…

【詩】草いろ

川床は青々と、水を湛えて 土手は、草のみどりに包まれている 君は、草いろのシャツを着て ご…

【詩】逆立ち

透き通る 空に綴じた網の目の 風を孕んだ 真ん中で 斑らの蜘蛛が 逆立ちしている 身じろぎ…

【詩】冬待ち

用水の路は、日差しを浴びている 田畑は、刈り入れを終えて 乾きかけた土に、名も知らぬ草葉の…

【詩】惨劇

春を待つ、小さな畑で 腰を曲げた婆さまが 危うげに、鍬を打っている 傍らの柿の木の枝の先で …

【詩】水かがみ

田はいちめん、若葉に染まり 水面に、空を映している 伸びはじめた、みどりの葉を 風が、涼や…

【詩】大樹

大きな樹には 静寂がある おおいかぶさる梢の 力いっぱい ひろげた枝の たわわに揺らす 葉の繁みに 日の光が 薄く翠りにかがやき 見上げる瞳に 眩しく触れている 雲が 空を流れていても 梢はやさしく 撫でるだけ 風が 山に騒いでいても 枝葉をしずかに 揺するだけ 深く まるい傘の下を 匂いのしぶきで つつみこみ 風を さえぎる砦となり 深い呼吸に 満たしている 大きな樹のたもとで なぐさめが 足をとめている 慌ただしさも 息苦しさも 苛だちも 諦らめも 束の間 わすれて