マガジンのカバー画像

【詩集】自然派

77
自然をテーマに書いた詩の作品集です。
運営しているクリエイター

#詩

【詩】巣立ち

軒先のツバメの巣に 一羽の雛が取り残されている 不意の孤独に戸惑うように 目を見張り、声を…

【詩】春よ

冬が過ぎ 乾いた大地が溶けてゆく 土は ほどけて泥となり 隠されていた 鼓動が 風に くすぐ…

【詩】晩秋

雑木の錦が くすんで 藪のしげみの ところどころ ハゼノキが あかく アカメガシワが きい…

【詩】風の行く方

土手は枯れて、田畑は渇いて 霜の気配が、走りはじめた トンボの群れの賑わいも 蹴散らすバッ…

【詩】海辺のトンボ

浜辺を、トンボが飛んでいる ガラスの翅を、震わせて 右へ、左へ、餌食を追って トンボの群れ…

【詩】秋のアゲハ

色褪せた羽を はためかせ 君は 力なく風にのり 盛りを過ぎた 蕾の奥に わずかな花蜜を さ…

【詩】老樹

今日も空は青く、風は心地よい 見下ろす眺めは広く、美しい 降りそそぐ、陽の光りが ひろげた手足を、たぎらせる わたしがまだ、小さかったころ 大地は、もっと静かであった 山から海辺へ、吹きぬける風に 流れおちる水に、じっと耳をすましていた いつしか、まわりは生まれかわり わたしは誰より、老いていた あわただしく、追い越していったのだ なぜ、みな、高みを目指すのだろう つま先立ち、背伸びをして とどかない空に、あこがれる わたしは、枝をひろげ、根をつかみ 節榑だった、幹に力を

【詩】草いろ

川床は青々と、水を湛えて 土手は、草のみどりに包まれている 君は、草いろのシャツを着て ご…

【詩】逆立ち

透き通る 空に綴じた網の目の 風を孕んだ 真ん中で 斑らの蜘蛛が 逆立ちしている 身じろぎ…

【詩】冬待ち

用水の路は、日差しを浴びている 田畑は、刈り入れを終えて 乾きかけた土に、名も知らぬ草葉の…

【詩】空色

稲穂の波の、海のうえを トンボの群れが、飛んでいる 悠々と、風を泳いで たいらな眺めを、見…

【詩】惨劇

春を待つ、小さな畑で 腰を曲げた婆さまが 危うげに、鍬を打っている 傍らの柿の木の枝の先で …

【詩】水かがみ

田はいちめん、若葉に染まり 水面に、空を映している 伸びはじめた、みどりの葉を 風が、涼や…

【詩】大樹

大きな樹には 静寂がある おおいかぶさる梢の 力いっぱい ひろげた枝の たわわに揺らす 葉の繁みに 日の光が 薄く翠りにかがやき 見上げる瞳に 眩しく触れている 雲が 空を流れていても 梢はやさしく 撫でるだけ 風が 山に騒いでいても 枝葉をしずかに 揺するだけ 深く まるい傘の下を 匂いのしぶきで つつみこみ 風を さえぎる砦となり 深い呼吸に 満たしている 大きな樹のたもとで なぐさめが 足をとめている 慌ただしさも 息苦しさも 苛だちも 諦らめも 束の間 わすれて