小説 「ほのお」1・その時
陽子は広く静かな洗練とされたガラス張りの空間で、喪服を着て泣き崩れる夫の母といた。
なんてきれいなところなんだろう。どうして他の家族はガラスの向こうにしかいないんだろう。父が亡くなったときは雑然と何名かの故人を囲む集団があったような記憶がよみがえっている。
そして、今思い出してもなぜか腹が立つ母の
「おとうさん、おとうさん、一人にしないで」と叫び狂う姿。
今でも思い出すと吐きそうになる。
彼女の悲劇のヒロインが嫌いだ。
赤いボタンの前で我に返る。
静かに泣き崩れる夫の母と私。
夫の母に聞いてみる。
「おかあさん、どうします?お別れはお母さんがしますか?」
「どうがぁしたらええんかね。どがぁしたらええんかね。なんでこの子が。」
私も泣きたい。
泣き狂いたい。
五日は泣いてないな。
ぽとぽとぐらいはおとしたかもしれない。
四日ぐらいは寝ていないし。
目の前でおきていること、今、おきていること。
映像のワンシーンが無音でカット割りされている状態だ。
浩輔のすべては私のもの
浩輔のすべては私のもの
陽子は目をつむり息を吸い込み・・・
目を開いたときそのボタンを押した。
涙が流れ落ちた。拭う間もなく流れ落ちる涙。夫の母には
「おかあさん、終わりましたよ、出ましょうね。」と声をかけ、その部屋を後にした。父の時は「蘇るかもしれないのになぜ、焼くの!!」と叫びたかった。しかし浩輔は
「陽子、無駄だよ。約束通り。陽子に期待を持たせない死が来たよ。」
と、棺の中でも勝ち誇って見えていた。浩輔とのこんな別れは一ミリも想像していなかった。誰にでも訪れる死はある日突然である場合もあることを学んだ。そして浩輔の棺の中の勝ち誇った顔、
「どう見ても蘇らないでしょ。」
って、笑っているようにも私には見えた。
赤いボタンは今でも目に焼き付いている。
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