女の子とウサとの哲学的会話「いじめをなくすためには、どうすればいいの?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「いじめをなくすためには、どうすればいいんだろう?」
ウサ「学校でいじめられたの?」
サヤカ「わたしがいじめられたわけじゃないんだけど、他のクラスでいじめがあったらしいんだ。どうして、いじめって起こるのかな?」
ウサ「いじめの原因が分かれば、それに対してどうすればいいかも分かるね」
サヤカ「いじめの原因……グループから仲間はずれを作ることで、グループの絆を強くするため、とかかな?」
ウサ「うん、それは一つあると思うよ。そういうとき、本当はいじめなんかしたくないっていう人もいじめに加わらなくちゃいけなくなるんだよね。そうしないと、その人自身がいじめられちゃうから」
サヤカ「うん。でもさ、グループより、その人自身の方が大切でしょ? 『社会』の授業でそう習ったよ」
ウサ「今はそうなっているね。その人が所属するグループよりも、その人自身の方が大切なんだっていう考え方を、『個人主義』って言うんだよね。この『個人主義』っていう考え方を徹底していけば、グループの絆を強くするためのいじめは減るかもしれないね」
サヤカ「それ以外に、いじめをする原因ってあるの?」
ウサ「あるよ。そして、こっちの方が、ずっと厄介なの」
サヤカ「どういうの?」
ウサ「それはね、いじめをするのが気持ちいいってことよ」
サヤカ「いじめが気持ちいい!?」
ウサ「うん。自分より弱い人をいじめているとね、気分がよくなるの。自分の方が強いんだって思うことができたり、単純に、そのいじめっていう行為自体が楽しかったりしてね」
サヤカ「そんなの、ひどい!!」
ウサ「わたしもそう思うけど、問題はね、実際にそう思う人がいるってことなの。このことをしっかりと考えないと、いじめはなくならないわ。いじめの原因をね、さっきの、『グループの絆を強くする』っていうこと以外に考えてみたときに、『いじめられる人の気持ちが分からないからするんだ』とか、『その人自身も親からいじめられて育ったからついそうしちゃうんだ』とか、そういうことだけにとどめちゃうことが多いのね。だけど、いじめられる人の気持ちもよくよく分かっていて、親から大切に育てられた人でも、いじめをするのよ。いじめが楽しいから。いじめがなくならないのはね、いじめの原因を狭めちゃうからなの」
サヤカ「どうして、原因を狭めちゃうの……?」
ウサ「それは、そもそも原因について、ちゃんと考えることができていないからってこともあるけど、原因を狭めることで、対策が取りやすくなるからなの。たとえば、いじめの原因が『いじめられる人の気持ちが分からないからするんだ』っていうことにしておけば、じゃあ、他人の痛みが分かるようにしっかりと学校で教育しましょう、ってことにできるでしょう?」
サヤカ「でも、そんなのおかしいよ! だって、そしたらさ、対策できることだけを、原因として考えていることになるじゃん」
ウサ「うん。その通りよ。いじめがなくならない本当の原因はそこにあるのかもしれないわ」

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