イメージの百人一首35「人はいさ―」

※このノートでは、百人一首のご紹介をしています。詳細な訳や、古語の解説、詠み手の経歴などは他書に譲り、各和歌のざっくりとしたイメージをお伝えしたいと思っています。イメージをお伝えするに当たって、あたかもその歌を詠んだ歌人になったかのような気持ちで理解していただけるように、二人称を採用しています。どうぞ、お楽しみください。

【第35首】
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
《ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににおいける》

 あなたは、かつて常宿にしていた家を、久しぶりに訪ねたところです。すると、家の主人が、あなたがずっと訪れてくれなかったことに対して、恨み言を述べてきました。折しも、季節は春、梅の花が咲いています。

 あなたは主人に対して、梅の花は毎年同じように香を届けてくれるけれど、あなたの心はあの頃のままかどうか分かりませんからね、と切り返します。それはもしかしたら、主人だけのことではなくて、あなた自身も含めた、人間全体に通じることなのかもしれません。

 紀貫之《きのつらゆき》

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