女の子とウサとの哲学的会話「頭が良い人ってどんな人?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「ねえ、ウサ。どうすれば、頭を良くすることができるの?」
ウサ「サヤカちゃんは、頭良くなりたいの?」
サヤカ「うん」
ウサ「じゃあ、一緒に考えてみましょう」
サヤカ「考える?」
ウサ「そうよ。そもそも、『頭が良い』っていう言い方で、どういうことが言われているのか。それを決めないと、そうなるための方法なんて分からないでしょ? サヤカちゃんが考える、頭の良さってどういうもの?」
サヤカ「うーん……やっぱり、テストで良い点を取れるっていうことかなあ」
ウサ「サヤカちゃんのクラスの中にテストでいつも良い点を取っている子っている?」
サヤカ「いるよ。テストでいつも百点を取っている男の子が」
ウサ「テストで高得点を取ることができる子は、頭がいい子って言えるかな?」
サヤカ「言えると思う」
ウサ「でも、たとえば、そういう子が、他の子の気持ちが全然分からなくてね、他の子と一緒にいるとき、その場の雰囲気を壊す発言ばかりするような子だったらどう?」
サヤカ「あっ……実はその男の子がそういう感じで、あんまり人のことを考えないでポンポン発言しちゃうんだ」
ウサ「そういう子って、頭がいいって言える?」
サヤカ「……それは……言えないかも」
ウサ「そうかと思えば、普段は全然発言しないんだけど、みんなで何かやるときに、黙々とみんなのために働くことができるような子もいるんじゃないかな?」
サヤカ「うーん……あっ、いるいる! 自分が何をすればいいのか分かっているような子がいるよ」
ウサ「そういう子は、たとえ成績が良くなくても、頭がいいって言えるんじゃない?」
サヤカ「うん、言えると思う。……でもさ、ウサ、そうしたら、頭が良いってどういうことを言うんだろう」
ウサ「あることについて良いか悪いかを決めるためには、基準が必要なの。何によってそれを測るのかを先に決めないといけないのよ。それを決めないでおいて、良いとか悪いとかを言うことは実はできないの」
サヤカ「どういう人が頭が良いかって言うためには、頭の良さの基準を決める必要があるんだね?」
ウサ「そうよ。それが決まらないうちは、どういう状態を指して、頭が良いと言えるのか、分からないの」
サヤカ「じゃあ、頭の良さの基準って何だろう? どうすれば、頭が良いって言うことができるんだろう」
ウサ「あるものの良さを決めるときにはね、そのものの働きを考えてみるといいと思うよ」
サヤカ「そのものの働き?」
ウサ「そう。たとえば、ボールペンの良さを決めるなら、ボールペンの働きを考えてみるの。ボールペンの働きってなあに? ボールペンは何のためにあるの?」
サヤカ「ボールペンがあるのは……字を書くため?」
ウサ「うん。だとしたら、しっかりと字を書くことができるボールベンが、良いボールペンっていうことになるんじゃないかな。他にも、たとえば、ハサミの働きってなあに?」
サヤカ「物を切ること!」
ウサ「そう、だから、しっかりと物を切ることができるハサミが、良いハサミってことになるね。じゃあ、頭の働きって何だろう?」
サヤカ「頭の働き……うーん……考えることかなあ」
ウサ「そうだとしたら、しっかりと考えることができる頭が、良い頭ということになって、頭の良さは、しっかりと考えることができるかどうかで決まることになるね」
サヤカ「……でもさあ、ウサ、しっかりと考えるってどういうことだろう。しっかりと字を書くとか、しっかりと物を切るっていうのは、イメージができるけど、しっかりと考えるってどういうことなのか、イメージできないよ。それって、ただ考えることとはどう違うの?」
ウサ「考えるっていうのは、分からないことについて答えを求めること。ただ考えるっていうのは、考えて出た答えを信じてしまうことで、しっかりと考えるっていうのは、考えて出た答えをね、信じてしまわないで、本当にそうなのかなって、さらに考えていくことなの」
サヤカ「考えて出た答えを信じてしまわないで、さらに考えていく?」
ウサ「そうよ」
サヤカ「でも、そうしたら、いつまで経っても答えには到着しないんじゃないかなあ。そんなこと、考える意味があるの?」
ウサ「サヤカちゃん、それは本当は逆の話で、答えに到着できるようなことの方が考える意味が無いことなのよ」
サヤカ「ええっ! ……でも、学校のテストの問題にはいつもちゃんと答えがあるよ」
ウサ「学校のテストの問題はね、本当の問いを考えるための準備運動のようなものなの。この世界には、答えが用意されていない本当の問いがあって、しかも、自分が出した答えに対して誰もそれが正解かどうか判断してくれないものがあるの。それを考えることができる人が、頭がいい人だとわたしは思うな」

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