イメージの百人一首94「み吉野の―」
※このノートでは、百人一首のご紹介をしています。詳細な訳や、古語の解説、詠み手の経歴などは他書に譲り、各和歌のざっくりとしたイメージをお伝えしたいと思っています。イメージを伝える際、あたかもその歌を詠んだ歌人になったかのような気持ちで理解できるように、二人称を採用しています。どうぞ、お楽しみください。
【第94首】
み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり
《みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり》
あなたは今、奈良の吉野に来ています。古来、雪と桜の名所として親しまれてきたところですが、季節は秋、昔、離宮があり栄えたこの土地は今は寂しげなたたずまいです。山から吹く風の音を耳にしていると、夜になって、何によるものでしょうか、かすかな音が聞こえてきます。どうやら、それは衣を打つ音のようです。洗濯した布を半乾きの状態で台に乗せて、砧《きぬた》という道具で打って柔らかくしているのです。女性の夜なべの仕事。その規則正しい音を聞いていると、寒々しさが身に染み入るのでした。
参議雅経《さんぎまさつね》
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