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女の子とウサとの哲学的会話「正直って損なの? 2」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

ウサ「前に、正直が損だっていう話をしたこと覚えている?」
サヤカ「うん、覚えているよ」
ウサ「サヤカちゃんは、ズルしたいと思う?」
サヤカ「思わないよ」
ウサ「どうして? ズルすると得できるんだよ」
サヤカ「だって、わたしが得した分だけ、誰かが損をしているんでしょ? そういうの嫌だよ」
ウサ「確かに、教室の掃除なんていう場合は、サヤカちゃんがサボッた分だけ、他の5人が働かないといけなくなって損をするわけだけど、例えば、カンニングの場合なんてどうかな。サヤカちゃんが、カンニングペーパーを使ってカンニングして高い点数を取っても、その分だけ、他の人の点数が下がるわけじゃないよ(※1)」
サヤカ「うーん……でも、それもしたくないなあ。だって、カンニングするってことは、ちゃんと勉強しないってことでしょ。そしたらさ、カンニングは結局、自分のためにならないもん」
ウサ「そうね」
サヤカ「それにさ、そういう風にズルしていると、人から嫌われるでしょ?」
ウサ「うん。そうするとね、ズルをするってことは、必ずしも得とは言えない部分もあることになるよね。他人を損させてやろうっていう考えはあんまり気持ちのいいものじゃないし、自分のためにならないこともあるし、人から嫌われるかもしれないし」
サヤカ「ズルすることは本当は得じゃないってこと!?」
ウサ「得じゃない場合もあるってことよ。もしも、他人を損させることは気持ちいいし、自分のためにならなくたって楽できればいいし、人から嫌われたって構わない、っていう人がいたら、その人にとっては常に得になるんじゃないかな」
サヤカ「……なんか嫌だなあ、そんな人」
ウサ「うん、たいていの人は、サヤカちゃんと同じ気持ちになると思うな。前にも言ったけど、それがこの世の中には正直な人がなぜだか多いっていうそのことなの。ちょっと話は変わるけど、一生涯ずっと正直でいる人っていると思う?」
サヤカ「えっ……それは、あんまりいないんじゃないかな」
ウサ「サヤカちゃんはズルしたことある?」
サヤカ「……うん。お母さんのプリンを食べちゃったり、友だちから勧められた本をちゃんと読んでいないのに読んだ振りしたり……い、今はそんなことしていないよ」
ウサ「うん、でも、これからもちょっとしたことならズルすると思うな」
サヤカ「ウサ、ひどい!」
ウサ「ごめん、ごめん。でも、それはそんなにひどいことじゃないと思うの。ちょっとしたズルはね、してもいいことになっているんだよ」
サヤカ「してもいいズル!?」
ウサ「まあ、何のことを『ちょっとしたズル』にするか、そこは考え方の違いがあるかもしれないけど、一生涯ずうっと正直に生きるっていうのは、かなり難しいことだよ。だから、生きていく上でちょっとズルすることは、許されているのよ」
サヤカ「それって、ついていいウソがあるっていう話と似ているね」
ウサ「そうね」
サヤカ「うーん……ウソの場合とズルの場合は、なんかちょっと違う気がするなあ。ついていいウソはあると思うけど、してもいいズルがあるっていうのは納得いかないな」
ウサ「また同じことを言うようだけど、その納得のいかなさがね、なぜだか正直である人が多いっていうそのことなのよ」

※1 この場合も、サヤカが高得点を取ることでその分だけクラスの平均点が上がり、相対的に他の子の得点の評価が落ちて、その子が損をすることはある。

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