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女の子とウサとの哲学的会話「どうして子どもは化粧をしてはいけないの?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「ウサ、どうして子どもは化粧をしちゃいけないの?」
ウサ「じゃあ、『してはいけないこと』について、考えてみよっか。『してはいけないこと』には、いくつか種類があるの」
サヤカ「種類?」
ウサ「うん。まずはね、人を傷つけること。たとえば、人の物を盗んだり、人の悪口を言ったりね。こういうことは人を傷つけるからしてはいけないよね?」
サヤカ「うん、それは分かるよ」
ウサ「次にね、人を傷つけることはないけど、自分を傷つけてしまうこと」
サヤカ「自分を傷つけるって?」
ウサ「たとえば、子どもがお酒を飲んではいけないのは、お酒を飲むことで人を傷つけるからじゃなくて、その子自身の体がまだ大人になっていないことでお酒によって体が傷ついちゃうからなの」
サヤカ「あっ、分かった! 化粧をしちゃいけないのも、子どもの体が傷ついちゃうから?」
ウサ「そういう一面もあると思うよ。化粧品の中にはあんまり体に良くない化学物質が使われていることもあるからね。でも、そうしたら、100%自然素材で、全然体を傷つけない化粧品があったら、化粧してもいいことになるけど、そうなると思う?」
サヤカ「うーん……ならなそう。だって、お母さんがそういう化粧品に凝ってって、持ってるんだけど、わたしには使わせてくれないもん」
ウサ「むかし、お母さんの口紅をいたずらして、サヤカちゃん、怒られたことがあったよねぇ」
サヤカ「あった、あった……じゃあ、どうして、子どもって化粧しちゃいけないんだろう」
ウサ「『してはいけないこと』には、もう一つ種類があるの」
サヤカ「もう一つ?」
ウサ「うん、それはね、昔からしてはいけないことになっていることよ」
サヤカ「え?」
ウサ「昔からしてはいけないことになっているから、してはいけない」
サヤカ「ウサ、そんなの理由になってないよ!」
ウサ「うん、そうなんだけど、そういうことがあるのよ。昔からそうだったから、そうすべきってことがね。たとえば、サヤカちゃんは、ご飯を食べるときに、テーブルに肘をつくと怒られるでしょう? 『食事中に肘をついちゃいけません』って。あれはどうしてだと思う?」
サヤカ「えっ、どうしてって……どうしてだろう、考えたこともなかったよ」
ウサ「もともとは何かちゃんとした理由があったことなんだろうけど、今はもうその理由を言える人はほとんどいないんじゃないかな。でも、昔からそう言われていることだから、きっとサヤカちゃんも、食事中にテーブルに肘をついている人がいたら、そう注意するんじゃないかな」
サヤカ「うん、すると思う」
ウサ「そういう風にね、昔からそうなっていることには何かしら理由があることなんだって考えられて、昔からしちゃいけないことは今でもしちゃいけないって思われていることがあるの。化粧はその一つよ」
サヤカ「……やっぱり、納得いかないな。昔からしちゃいけないことになっているからしちゃいけない、なんて。だって、そうしたらさ、昔に一回ダメだってなったことは、ずうっとダメなままになっちゃうじゃん」
ウサ「もしもね、子どもが化粧をしていい、ううん、化粧をすべきなんだっていうはっきりとした理由が見つかって、それが世の中に受け入れられれば、『実は子どもは化粧をしてよかったんだ』っていうことになって、昔そうなっていなかったことは間違っていたってことになるの。そのときに、昔ダメだったことも、今はいいことになるのよ。『化粧をしちゃいけない理由が分からないから化粧をしてもいいんじゃないか』っていうだけじゃ、化粧をしちゃいけないっていう意見に勝つことは難しいわ」

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