イメージの百人一首60「大江山―」

※このノートでは、百人一首のご紹介をしています。詳細な訳や、古語の解説、詠み手の経歴などは他書に譲り、各和歌のざっくりとしたイメージをお伝えしたいと思っています。イメージを伝える際、あたかもその歌を詠んだ歌人になったかのような気持ちで理解できるように、二人称を採用しています。どうぞ、お楽しみください。

【第60首】
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立
《おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて》

 今日は歌合《うたあわせ》の日です。歌合とは、歌人を左右二組に分け、詠んだ歌の優劣を競い合うものです。その歌合わせに、あなたも参加します。すると、ある人がニヤニヤしながら、「丹後《たんご》のお母様の元から文《ふみ》(=手紙)は来ましたか?」と訊いてきます。あなたの母親は有名な歌人であり、あなたが詠む歌は母親が代作しているのではないかという噂があって、今日のための代作は届いたのかと、からかってきたのです。

 根も葉もない噂です。カッとしたあなたは、その場で、からかってきた人の袖を取ると、「母がいる丹後へは、大江山を越えて生野を通って行かなければならず、その道のりはあまりにも遠いので、丹後にある天の橋立を『踏み《ふみ》』しめたこともなければ、母からの『文《ふみ》』を見たこともありません」ということを意味する見事な和歌を、即興で詠み、その人を呆然とさせてやりました。

 小式部内侍《こしきぶのないし》

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