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女の子とウサとの哲学的会話「戦争って、どうして起こるの?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「戦争ってどうして起こるの? みんなで仲良くできないのかな」
ウサ「うん、みんなで仲良くできたらいいよねぇ。戦争が起こる原因っていうのは、政治とか宗教とかが関係してくるくるから、一言では言えないところがあるけれど、すごく単純に言うとね、この世の中で価値があると思われているものが限られているからかな」
サヤカ「価値があると思われているものが限られている?」
ウサ「そう。世の中にはたくさんの人がいるよね。それぞれの人はそれぞれ別の人だけど、欲しがるものは大体一致するのよ。たとえば、食べ物とか水とか、エネルギー資源とかね。そういうものが無限にあればいいけど、限りがあるから、それをめぐって争い合うことになるのね」
サヤカ「うーん……みんなで分け合うことはできないのかなぁ……」
ウサ「分け合うことができれば、そういう争いは無くなるだろうね。でも、人よりもたくさん欲しいっていう人もいるからね」
サヤカ「物が欲しいからって、人を殺すなんて、おかしくないかな。だって、物よりも人の方が大切でしょ」
ウサ「その通りだと思うんだけど、その『人』っていうのがね、自分とか自分の家族とか、自分と同じ国の人って、考えられちゃうのね。そうして、自分以外の人とか、自分の家族以外の人とか、他の国の人っていうのは、『人』だと思われなくなっちゃう」
サヤカ「そんなのやっぱりおかしいよ」
ウサ「でも、これはある意味では当然のことなのよ。自分から遠い人よりも、自分に近い人を優先するのはね。たとえばね、サヤカちゃんが乗っていた船が難破しちゃうとするよね、そうして、海に放り投げ出されるんだけど、運良く、救命ボートに乗ることができるとするの。救命ボートには、あと一人乗れるんだけど、そこでね、サヤカちゃんのお母さんと、隣の家のおばさんが溺れているとする。サヤカちゃんが、助ける方を選んでいいとしたら、どっちを選ぶ?」
サヤカ「それは……お母さんだけど……」
ウサ「それは、サヤカちゃんが、お母さんと隣の家のおばさんを比べて、自分に近い人であるお母さんを優先したって言えないかな」
サヤカ「そういうのは、極端すぎるよ。今は、限りある物を分けられるかどうかっていうことを話しているんだから」
ウサ「限りある物を分けるときだって同じことよ。家族と家族じゃない人とを比べたとき、どうしたって、家族の方にできるだけ有利に分けたいと思うものでしょ」
サヤカ「ねえ、ウサ……じゃあさ、今の『家族』っていう考え方が間違っているのかな。『人類みな兄弟』っていう言葉があるでしょ。そういう風に、人類全体を家族って考えることができれば、優先するとかしないとか、考えなくてよくなるんじゃないかな。そうしたら、戦争も起こらないんじゃないかな」
ウサ「それは素敵な考え方ね。でも、なかなか難しいかもしれないね。どうしても、親っていうのは自分の子どもが可愛いものだし、可愛がられた分だけ子どもだって親を大事に思うだろうからね」
サヤカ「……うーん……じゃあさ、せめてさ、自分に近い人じゃないからっていう理由で、その人のことを嫌いになることくらいはやめられないかな。自分に近い人を優先することはやめられなくても、だからって、それ以外の人のことを嫌いになる必要は無いよね。そんなことしていたら、本当は争わなくてもいいときだって、無駄に争っちゃうもん」
ウサ「それは色々な場面で問題になるけれど、戦争ってことになると、国と国っていうレベルになるね。『自分とは違う国の人だからという理由で、その人のことを嫌いにならない』っていうのは、本当にそうすべきことだと思うわ」
サヤカ「だってさ、ある国の人の中にもいい人もいれば悪い人もいる、日本にもいい人もいれば悪い人もいるっていうだけなんだから、その国の人だからっていう理由でその人のことを嫌いになるって、おかしいよね」
ウサ「うん、その通りではあるんだけど、一つだけ気をつけておきたいことがあるの」
サヤカ「なあに?」
ウサ「確かに、人はその人がどういう人なのかっていうことが大事なことで、その人がどの国の人であるかなんてことは、それに比べると大事なことじゃないわ。でもね、その人がどういう人なのかっていうことの中にはね、その人がどの国の人なのかっていうことも入っているのね」
サヤカ「……わたしの場合だったら、わたしがどういう人なのかっていうことの中に、わたしが日本人だっていうことが入っているってこと?」
ウサ「そうよ。誰だって、何かしらの文化や言語の中に生まれてくるわけで、それと無関係ではいられないの。サヤカちゃんが日本文化を身に着けて、日本語を使っているってことは、サヤカちゃんの要素の中に確実に日本っていうものが入っているの。だからね、ある人を、生まれとは全然関係なく純粋にその人自身として見る、なんていうことはできないの」
サヤカ「じゃあどこの生まれの人かっていうことも考えた方がいいの?」
ウサ「うん、それはバランスの問題で、考えすぎてもいけないし、全然考えないこともできない。そうやって、みんなが、バランスを取りながら、その国の人を見ることができれば、争いは今よりは減るんじゃないかな」

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