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第10首 卯の花の柵
見わたせば波のしがらみかけてけり卯の花さける玉川の里(後拾遺和歌集)
【読み方】
みわたせば なみのしがらみ かけてけり うのはなさける たまがわのさと
(相模《さがみ》)
【イメージ】
辺りを見渡すと、まるで川の中にいるかのよう。
波が立つしがらみがいたるところにかけ渡されている。
いいえ、それは真っ白な花の群れ。
一面に卯の花が咲く、ここ玉川の里。
【ちょこっと古語解説】
○ば
第11首 飛べない鳥
夏刈の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき(後拾遺和歌集)
【読み方】
なつかりの たまえのあしを ふみしだき むれいるとりの たつそらぞなき
(源重之《みなもとのしげゆき》)
【本文】
夏刈が行われて、美しい入江の蘆《あし》はすっかりと刈り取られてしまった。
その蘆の切り株を踏みしだいて鳥が群れている。
せっかくの住みかが荒らされて、途方に暮れているのだ。
飛び立っていく空も
第12首 雨に浮く橋
五月雨に水まさるらし沢田川まきの継橋うきぬばかりに(金葉和歌集)
【読み方】
さみだれに みずまさるらし さわだがわ まきのつぎはし うきぬばかりに
(藤原顕仲《ふじわらのあきなか》)
【イメージ】
ここ数日来の雨で、川の水かさが増したらしい。
時は六月、梅雨の時季。
沢田川に来てみると、満々の水流。
かけ渡されたまきの継橋が、浮いてしまうほどだ。
【ちょこっと古語解説】
○五月雨
第13首 月待ち遊び
夏の夜の月待つほどの手すさみに岩もる清水いくむすびしつ(金葉和歌集)
【読み方】
なつのよの つきまつほどの てすさみに いわもるしみず いくむすびしつ
(藤原基俊《ふじわらのもととし》)
【イメージ】
夏の夜、月が現れるのを待つ。
じっと待っていると、何もすることもなく、手持ちぶさた。
どこからか水の音がして近づいて見ると、岩から清水が漏れている。
月が出るまで、何度もそれをすくって
第14首 昔の夢の香
をりしもあれ花橘の香るかな昔を見つる夢の枕に(千載和歌集)
【読み方】
おりしもあれ はなたちばなの かおるかな むかしをみつる ゆめのまくらに
(藤原公衡《ふじわらのきんひら》)
【イメージ】
初夏の夜にふと目が覚めた。
折も折、花橘の香が高い。
あの人のことを思い出させる香。
目覚める前、昔の夢を見ていた。
【ちょこっと古語解説】
○を《お》りしもあれ……「をりしも」を強めた言い