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新規事業の担当者が抑えておくべき3つのポイント 「ストラテジック・イノベーション」より

スタートアップが柔軟性とスピード力を持っているのに対して、大企業は堅牢なルールや慣習、複雑な階層構造などが存在し、新規事業を生み出すのは容易ではありません。

CEO肝入りで新規事業がスタート。しかし、しばらくするとCEOの庇護はなくなり、担当マネージャーは孤立無援に。既存事業チームの協力も得られず、静かに撤退というのはよくある話です。

何が言いたいかというと、どんなに魅力的な事業アイデアも、実行できなければ価値はゼロなわけです。

「ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言」でも、まさにそのことが書かれています。

組織のイノベーション能力は、創造性と実行力の積だと考えている。「和」ではなく、「積」というのは、いずれかが0であれば結果も0になるからだ。
(省略)
どんなによく練られた事業計画にも、かなりの推測が織り交ぜられている。問題はアイデアではなく、それをどう実施するか、なのだ。
「ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言」


このnoteでは、「ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言」で書かれている大企業でイノベーションを成功させる3つのポイントについて紹介したいと思います。

本書では、大企業でのイノベーションの要諦として、
忘却
借用
学習
の3つを提言しています。

イノベーションを成功させるには【忘却】【借用】【学習】の最大化がポイント


忘却の課題

イノベーションを生み出すには、既存事業の慣習やルールを新規事業に当てはめてはいけません。

既存事業は成熟市場にあり、リスク回避型かもしれません。しかし、新規事業はまだマーケットが存在せず、不確実性が高いところへの挑戦となるため、リスクを受け入れる姿勢が必要です。

既存事業は何層もの階層構造が存在し、丁寧な意思決定プロセスを重じるかもしれません。しかし、新規事業は環境変化に応じて柔軟かつスピーディに対応しなければならないため、フラットな組織体制が求められます。

既存事業と新規事業では対応が異なるというのは頭では理解できますが、現実の世界はそんなに甘くはありません。組織というのは、過去の成功例や慣習を正しいと信じ込んでいるものです。深く心身に刻まれているため、忘却することは困難でしょう。

忘却の課題
・計画どおりに達成できないと「失敗」とみなす
・計画に固執する。不確実性が高い事業にもかかわらず、一度決めた計画は見直してはいけないと考える
・新しい技術的問題に対応できない
・顧客ニーズ以上の品質にこだわる
・短期的利益にこだわる上司から圧力がかかる

「忘却」のポイント

いくら「これまでのやり方は忘れましょう」と訴えても、そう簡単に人の意識は変わりません。そこで必要なのが、忘却のための仕組みづくりです。

  • 外部人材を登用する
    内部人材は完全に忘却することが難しいため、新規事業をはじめるには外部人材を登用することが有効です。また、その外部人材は既存事業の統括責任者よりも上位のポストに配置する必要があります。というのも、既存事業の統括責任者は従来のやり方にどっぷり浸かっているため、新規事業を邪魔するおそれがあるからです。
    邪魔をするといっても、悪意をもって新規事業をつぶそうということではなく、むしろ善意から「こうした方がいいよ」と従来のやり方を押しつけてしまうということです。

    なお、外部人材を登用するにあたっては、CEOは幹部クラスからの反発にさらされることも予想されます。しかし、反発をおそれて内部人材を登用すればイノベーションは成し遂げられません。ここはCEOの覚悟が求められるところです。

  • 評価基準を変える
    新規事業は先行事例がないため、予測計画は不確かなものです。また、当初は赤字も見込まれます。そのため、既存事業のように売上などの数字で評価するのではなく、変化への対応や努力といった定性的な基準で評価すべきです。

借用の課題

大企業がスタートアップよりも競争優位なのは、既存顧客や流通チャネル、ブランド、製造能力、技術などの資産を持っていることです。新規事業を成功させるには、これら既存事業の資産をうまく借用することが肝要です。

しかし、既存事業のリソースを借用するにあたっても、抵抗や反発がつきものです。

借用の課題|既存事業側の心理
・新規事業が既存事業の売上を食うのではないか
・新規事業が既存事業を陳腐化してしまいかねない
・新規事業が既存事業のブランドや顧客との関係を損ねるのではないか
・限られた経営資源の取り合いになる
・注目が集まる新規事業へのひがみ など

「借用」のポイント

借用を進めるには、既存事業の心理面に配慮しなければなりません。そこで、経営陣による既存事業へのケアが重要になってきます。

  • 既存事業を重んじる
    新規事業が内外で注目を浴びると、既存事業のマネージャーたちからはひがみや妬みが生じます。最悪の場合、「自分たちは正当に評価されていない」と考え、離職する人も出てくるかもしれません。こうした事態を防ぐため、経営陣は朝礼などの場で、既存事業こそ礎であることを伝える必要があります。

  • インセンティブを見直す
    既存事業が新規事業のために犠牲になっていると感じないよう、新規事業への支援の取り組みをしっかりと評価に組み込むことも重要です。

  • 既存事業の経営資源を確保する
    新規事業にリソースが奪われると、既存事業のマネージャーは業務に差し障ると考えるでしょう。こうした不安を払拭するため、現状維持できるだけの経営資源は確保することが大事です。

  • ダイナミック・コーディネーター(以下、「DC」)を置く
    DCとは、既存事業と新規事業の協調関係を見守り、軋轢が生じる場合には仲裁する役割を担う人のことです。新規事業と既存事業の本部長同士で直接コミュニケーションをとると対立が生じるおそれがあるため、原則的にはDCが間に入って調整することが有効です。DCは上級幹部を任命し、新規事業と既存事業の双方から等しく報告を受け、仲介する役目を担います。

学習の課題

ここでいう「学習」とは、予測精度を向上させていくことを示します。新規事業というのはマーケットもない状況のため、将来予想が困難です。そうした中、仮説検証を繰り返しながら予測精度を上げていく学習力が求められます。

「ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言」の図をもとに筆者作成

新規事業は予測しようがないと、予測シナリオをつくらないマネージャーもいます。しかし、予測が外れることは避けられないとはいえ、予測計画がなければ仮説検証もできず、直感での場当たり的な対処しかできません。
そうではなく、仮説検証を繰り返し、学習しながら予測精度を高めていくことが肝要です。

注意したいのは、予測イコール目標ではないということです。結果が予測を下回った場合に「失敗」とみなされるようでは、担当者は正しく予測を立てなくなります。評価を気にして保守的な予測値を設定するようになり、あるべき学習サイクルが回せなくなります。そのため「忘却のポイント」でも触れたとおり、売上などの数字目標を評価に組み込むべきではないのです。


以上、大企業におけるイノベーションの要諦として、「忘却」「借用」「学習」について紹介しました。

「忘却」「借用」「学習」が重要といっても、それを真に達成するのは大変なことです。現実世界での新規事業の舞台裏では、コツコツとした地道な調整や根回しなど人間ドラマがあります。そうした泥臭い背景も想像しながら、ぜひ本書を手にとって読んでいただければと思います。


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