午後の曳航/三島由紀夫 を読んで
私がこっそりと心の中で、死に対する恋とか、身を灼きつくす恋とか、そういう観念ばかり大切にするようになったのは、明らかに海のおかげなんです。鉄の船にとじこめられたわれわれにとって、まわりの海は女に似すぎている。
その凪、その嵐、その気まぐれ、夕日を映した海の胸の美しさは勿論のこと。しかし船はそれに乗って進みながら、不断にそれに拒まれており、無量の水でありながら、渇きを癒すには役立たない。こういう女を思わせる自然の諸要素にとりかこまれながら、しかも女の実態からはいつも遠ざけられ