「安達としまむら 樽見について」を発売して欲しい:安達としまむら10巻感想

全世界70億の百合作品ファンのみなさま〜。どうも、輿水畏子(こしみず かしこ)です。

安達としまむら10巻が発売されてしばらく経ちましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
私は10巻の衝撃が凄すぎて、とりあえず安達としまむらを1巻から読み返しています。細かい描写とか忘れてたので良い機会ですね。マジで面白い。

さて、安達としまむら10巻ではいつも通り安達としまむらの二人がいちゃついたり二人が家を出る時の描写があったり色々てんこ盛りでしたが、私にとって一番印象的なシーンは二人の触れ合いとは別の部分でした。

樽見の失恋です。

そもそも私は安達としまむらでは樽見が一番心に食い込んでくる、好きなキャラクターなんです。(これはたるしま派であるという意味ではありません。あくまで私はあだしま前提だと考えています。その上で樽見が好きです。)
あまり、関係性の中で特定の立ち位置や属性のキャラクターをステレオタイプとみなして好きになるみたいなことは言いたくないのですが……私は『小林さんちのメイドラゴン』ではエルマさんが好きで、『少女歌劇レヴュースターライト』では露崎まひるさんの気高い姿勢に見惚れて応援し、『やがて君になる』では佐伯沙弥香先輩の恋路をずっと応援してました。
つまりはまあ、百合の負けヒロインポジを好きになりやすいんです。

なのでもちろん樽見のこともずっと忘れられませんでした。

そんな樽見が、残酷なほどにはっきりと失恋しました。そりゃもう私の心もガッツリと抉られましたね。

樽見の失恋シーンは地の文も、セリフも、展開も、挿絵も、何もかも全て薄氷のような冷たさ、切れ味、何かが壊れるような空気をまとっていました。安達としまむらの地の文は巻を重ねるごとにハッとするような鋭さを持つことが増えていると思っているのですが、その集大成のようなシーンにも感じています。

安達と同じように自分を見る樽見の目から何度も何かを感じ取ろうとして、樽見の涙とともにそれが「安達と同じ気持ち」であると気づくしまむらの静かな衝撃。本当に自分の恋は届かないんだと自覚した樽見が、「自分がしまむらを遠くに連れ出せなかったこと、一緒に遠くに行けなかったこと」を悔やみながら漏らす言葉。そして樽見が泣きながらも精一杯しまむらに手を伸ばして、心にもない「ずっと友達でいよう」という行く宛のない空虚な願いを溢して、しまむらが樽見にしてあげられることはないと悲しみながらも、決して情に絆されたりせずにそれに応える言葉。挿絵のしまむらの視線。全てが心を抉る名シーンでした。応援してる子の失恋がここまで壮絶で、冷たい空気を持つ名シーンになってしまい、もう情緒がめちゃくちゃです。

そもそも樽見としまむらのこれまでのやり取りからして、お互いのすれ違いが読んでてずっと辛かったんですよね……。
「わたしはねぇ、他の人と話してる時も安達のこといっぱい考えてるよ」
樽見と電話した後、しまむらが安達を安心させるための台詞が、あまりにもその通りすぎて心が痛みます。しまむら、樽見と過ごしてる時、だいたい昔と違うことへの息苦しさを感じて、その後安達を思い出して一人で楽しくなってるんですよね。「歩いていくにつれて、安達の割合が増えていった。それが今のわたしの、心のありようなのだろうと思った。」というモノローグが突き刺さります。
というか1巻から読み返してて思うんですけど、10巻のしまむらは8巻で安達への愛を自覚したからなのか、モノローグが大分安達好きなんですよね……。マジで樽見に付け入る隙が一切なくて泣けます。

一方で樽見へのモノローグといえば、印象的なのはしまむらが樽見とあってマフラーを巻いてもらうシーン。
「樽見は続いて、マフラーを外してこれまた巻いてくる。首筋にマフラーの繊維が触れて、擦れるとぞわぞわと背中に寒気が走った。」
これまた残酷なモノローグです。マフラーを巻いてもらって最初に意識することが温かみではなく寒気な時点で、しまむらと樽見の先のなさが見えてくるようじゃないですか。これ、安達に巻いてもらったマフラーだったらしまむらは絶対に違うことを感じ取ってたはずですよね。それくらい、しまむらにとって安達と樽見には差があるのですね。絶望的です。

ちなみに、樽見のことをOfficial髭男dismの『Pretender』っぽいと表現されている方を見かけたのですが、「もっと違う設定で もっと違う関係で 出会える世界線」を選べたとしても、樽見としまむらって多分結ばれないんですよね。なぜなら「世界がどんな形であってもどんなifでも違う星に住んでいても必ず安達としまむらは出会ってお互いを意識して変わっていく」と作中で明言されているので……。あまりに残酷ですね!マジで泣けます。私の中の樽見のイメソンはindigo la Endの「チューリップ」です。

「さよならが もうどうにもならないなら
せめて私を寒くなさって
あなたが切った夜は 少し大きすぎた
雲ゆきは ずっとわかってたけど
一縷の光に期待してたの
私馬鹿だからさ まだ願いたいよ」
ここ何回聴いてもしんどくなりますね。

さらに余談。漫画版安達としまむら3巻に載っている、樽見が主人公の短編が「樽見としまむら0.00000000000000000」というタイトルなのですが、私はこの意味深なゼロの羅列を「限りなく0に近付い」と受け取っています。

樽見はしまむらに「昔と同じように」を求め続けていました。初めて樽見がしまむらの似顔絵を描いた時、しまむらの表情が幼い頃のような屈託のない顔になっていたのも、樽見の中で求めているしまむらが過去に固定されていることを表しているのでしょう。
一方で、しまむらは他人に過去を求めませんでした。私はしまむらのパーソナリティを未だ図りかねてる部分はありますが、それでもしまむらは過去の自己を遠くを見るように、ある意味で切り離してみている部分があります。そんな噛み合わない樽見としまむらは「1へと進まないまま、0へと近づいていくだけ」。その結果、樽見の恋は儚く散りました。本当に残酷です。ちなみに「樽見としまむら0.00000000000000000」では樽見としまむらの距離感がどのように離れていったのかの一端が垣間見える描写もあるのですが、そこでも樽見はずっとしまむらを目で追い続けてたんだろうな、という雰囲気が読み取れ、どんどん気持ちが滅入ってきます。

さて、安達としまむら10巻で打ちのめされた今の私が望むこと、それは「やがて君になる 佐伯沙弥香について」の樽見版、「安達としまむら 樽見について」を発売してほしい。この想いです。

「やがて君になる 佐伯沙弥香について」とは、仲谷鳰先生の漫画「やがて君になる」のスピンオフ小説です。執筆は入間人間先生が手がけられています。タイトルに出てくる佐伯沙弥香さんは先述したとおり、「やがて君になる」ではいわゆる負けヒロインポジションです。ずっとヒロインの七海燈子に恋しており、終盤に実際に想いを伝え、振られて吹っ切れるのですが、スピンオフである「やがて君になる 佐伯沙弥香について」では佐伯沙弥香さんのその後の物語が描かれます。

その中でなんと佐伯沙弥香さんは新しい女性と付き合い初めてめちゃくちゃ幸せになるんですよね。他作品のスピンオフでそのような幸せな未来を手がけられた入間人間先生!どうか、樽見も幸せになるスピンオフができませんか!!!!????

ということで、私はこれから安達としまむらのスピンオフを待ち続けます。もちろん安達としまむらの本編もめっちゃ続いてほしい。安達としまむらはラストが8巻に描写されてるので8巻以降はエピローグみたいなものらしいのですが(エピローグで失恋する樽見さん……)これからは「エピローグの方が長いじゃん!!」くらいになる勢いで続きが見たいですね。皆さんも安達としまむらを楽しんでいただけると幸いです。

最後になりますが、ここまで言っておきながら私は樽見がどうすれば幸せになるのかは一切見当つきません。マジで辛い。

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