『アイの歌声を聴かせて』は予想したハードルを軽々と飛び越えた名作だった

どうも、輿水畏子(こしみず かしこ)です。

本日、吉浦康裕監督の最新作『アイの歌声を聴かせて』を観てきました。わたしは吉浦康裕監督及びスタジオリッカの長編映画作品は『イヴの時間』『サカサマのパテマ』のどちらも視聴しており、お気に入りの作品でした。なので監督の長編映画第三作目が出ると劇場の予告で知り、「これは観ないとダメだな〜」と半ば義務感ぐらいの気持ちで視聴に赴きました。

劇場の予告でこの作品の概要を知った時の正直な感想は「まあそんなに期待してないな〜」という気分でした。予告で宣伝されている本作のストーリーはざっくり以下のような内容です。

主人公の女子高生、サトミのクラスに容姿端麗、天真爛漫で破天荒な転校生、シオンがやってくる。シオンは実は実験中のAIロボットであり、ちょっとポンコツなシオンが突拍子のない行動を起こしながら、クラスメイト達の恋仲を取り持ったり、部活の手伝いをしたり、主人公と幼馴染の距離感を縮めたりしていく。しかしシオンの実験に問題が発生し、シオンは消去されそうになってしまう。シオンに影響されたサトミと友人達はシオンを取り戻すために大人達へ立ち向かっていく……。

とまあ、予告だけでも全体のあらましが大体わかるお話となっていました。ぶっちゃけ言ってしまえば実際にほとんどそのまんまのお話でした。そしてこのストーリー、言ってしまうとかなり「ありがち」ですよね。私も「あるあるだな〜なんか主人公と幼馴染をくっつけたりするんでしょ?」くらいの気持ちでいたため、この作品への期待値が低かったんです。

ですが、実際に視聴したところ、自分の予想したハードルを軽々と飛び越え、今年視聴した映画の中で一番ぐらいの満足感を得ることができた大名作でした。以下では私がこの作品にいい意味で期待を裏切られた部分、よかった部分について話していきます。

ミュージカル要素と土屋太鳳さんの圧倒的歌唱力

まずもって予想外だったのが、この映画が非常に出来の良い「ミュージカル映画」だったことです。いや、『アイの歌声を聴かせて』というタイトルを見れば「歌」が非常に大事な要素であることはわかったはずなのですが、ここまでちゃんとしたミュージカルであるとは予想していませんでした。

そして基本的にミュージカル要素を担う、つまり劇中登場する歌唱パートを担当するのは土屋太鳳さん演じるAIのシオンなのですが、土屋太鳳さんの歌唱力がもう半端ないんです。

劇中歌一曲一曲にすごい魅力があり、非常に通る歌声がシンプルに観てて心を撃ち抜かれました。これで土屋太鳳さんが歌手としてはそんなに活動されてなかったらしいというから驚きです。本当に第一線級の歌声といって過言ではないと思いました。土屋太鳳さんの歌聴くためだけに映画館に行く価値がマジであります。

私の特にお気に入りの劇中歌は「Lead Your Partner」です。下のPVで最初に一節が流れるので是非聴いてみてください。

この「Lead Your Partner」、曲自体も無茶苦茶かっこいいのですが、作中の使われ方も面白いんですよね。シオンが柔道部員の乱取りを手伝うというシーンで歌い出すのですが、乱取りを「ダンスのリード」に喩えた曲になっており、実際にシオンがダンスのように相手をリードしていくんですよね。このシーンを見た時本当に感動し、「この作品はすごいぞ」と一気に気持ちが引き込まれました。

そしてこの映画のミュージカル要素、作品への組み込み方が非常にうまいんです。ミュージカル映画といえば「突然歌うじゃん!」みたいなツッコミが入ることがお約束の一つになっているかと思います。そこが気になってしまうという方も多いのではないでしょうか。

一方でこの映画のミュージカル要素には全てきちんとした裏付けがあります。劇中歌のほとんどを担うシオンは「歌う理由」を持っていますし、シオンが歌い出すのに対して「え、突然歌うじゃん」みたいなツッコミが入るシーンもあり、歌要素がただ挿入されてるわけではありません。

そして何よりすごいと思ったのが、「シオンが周囲のスピーカーや照明、ロボットをハッキングして劇中歌の演出に利用している」という描写です。これにより、劇中歌が無理なく作品の中に溶け込んでおり、さらにシオンがAIロボットであるという設定も活かされ、ミュージカルとしても画面が非常に爽やかになるとてもいい演出でした。総じて、本作の音楽要素はとても出来が良く、ここだけでも見る価値がある作品であったと思います。

ストレスのないストーリー運び

もう一点、私が本作帆を好きになった理由が、本当にストレスを感じないストーリー運びをしてるという部分です。前述の通り、本作のストーリーは行ってしまえば「ありがち」なお話であり、そして割と予想通りの展開で進んでいきます。シオンが学校の中でドタバタやって問題をはちゃめちゃにしたり、それがいい方に転んで結局問題が解決したり、そのおかげで主人公やシオンとその周囲のクラスメイトの距離が縮まったり。起承転結の転の部分ではシオンが危機に陥って、それをみんなで助けに行くぞ!と決意したり。お話としては直球のSF✖️青春ドラマです。

そしてそのストーリーが私にとっては非常にストレスフリーでした。ストーリーの組み立てがめちゃくちゃ素直なんです。気を衒った展開とか、なにかに配慮したように見えてしまう話運びとか、観てて気が散ってしまう展開が全然ありませんでした。

もちろんよく考えたらこれどうなってたんだ?とかこれはどうなんだ?みたいに気になる部分は出てくるのですが、作品が真剣にSFを追求する!というよりも絶妙にコメディチックな雰囲気を纏ったリアリティラインを持っているおかげで、あまり気にならないことが多かったです。

もちろん予想してなかった伏線もあり、「そうだったんだ!」と驚かされる展開もありました。その展開もきちんと感動できる内容で、総じてストーリーが本当に「こういうのでいいんだよなあ!」と素直に受け取って楽しめるお話だったのが非常に満足でした。これはネタバレになるのですが、本作には子供を子供だけで危険な場所に送り出して満足げな顔をする大人と、俺が守るから……と言いながら特に何もしない幼馴染は登場しません。安心です。

総じて、今年の映画体験の中でもトップクラスでよかった作品でした。やはり音楽要素が非常に良く、土屋太鳳さんの歌声に大満足で試聴を終えることができ、もう一度劇場で聴きたいなと思うくらいには良い作品だったと思います。この感想を見て劇場に足を運んでくださる方が増えたら幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?