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とある噺家の話~三代目・三遊亭歌笑~ その3

歌笑師匠の芸を見てしばらく後、かつて歌笑師匠を勧めてくれた人に再会して、話をした。

「寄席に長い間通っていると、どちらかというと単調な雰囲気が続くんです。まあ、それが良さでもあるんだけど、
その空気をガラッと変えるような人には、やっぱり目を惹かれます。
しっかり楽しませてくれた、って満足できる、
歌笑さんはそういう芸人なんです。」

歌笑師匠の芸について思い出していた。

歌笑師匠はとてもにこやかに出てくる。
話し方も所作も分かりやすくて、柔らかい芸風だから、何となく場が温まって、ほっこりする。

「だけど」
その人は付け加えた。
「僕は歌笑さんを見ていると、皆に受けているけど、
「この人の芸人らしい目に、俺だけが気付いているぞ」
という気になるんです。
東京にいて、これからの落語界を支える、というポジションにあったはずなのに、名古屋に十何年も留まって、ひとり芸を磨き続けた。
それだけに、歌笑さんは目が違う」

この「目が違う」とは、修羅場をくぐってきた危ない魅力のこと。
温かさの中のアナーキーさ、これが歌笑師匠の魅力だと考えている。

歌笑師匠がくぐり抜けてきたのは、どういう場だったのだろう。

(つづく)


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