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平成のセクター連携史 〜過渡期【NPO編】〜 アイデンティティの揺らぎ

今回は、こちらの続編である。

2010年前後からコロナ前くらいまでの時期をセクター連携の「過渡期」として位置付け、企業・行政・NPOそれぞれに起きた大きな変化やセクター連携に関する大きな議論を振り返る事を目的とした記事で、今回は「NPO」編の3本目。1本目は「資金調達方法の増加」2本目は「横連携と面でのロビイング」という軸で書いてきたが、今回は、

NPOとしてのアイデンティティの揺らぎ

という軸で振り返ってみる。

ソーシャルビジネスの誕生

そもそも今回の記事を書くにあたり、一番最初に「ソーシャルビジネス」の誕生について述べる必要がある。

ソーシャルビジネスの定義は現状、各国においてお定義が様々なようだが、この記事では大雑把にまずは「社会問題を解決するビジネス」くらいに留めていく。

まず、2006年にバングラデシュのグラミン銀行とその創設者のムハマド・ユヌス総裁にノーベル平和賞がおくられたことにより、ソーシャルビジネスがより多くの人に知られるようになった。

そのユヌスは「ソーシャルビジネス7原則」を以下のようにまとめており、根底に「利益の最大化<<<<<社会問題解決」という世界観がありつつ、その上で「持続可能性の重視」を訴える内容になっている。

1.利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
2.経済的な持続可能性を実現すること。
3.投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
4.投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャル・ビジネス、自社に再投資されること。
5.ジェンダーと環境へ配慮すること。
6.雇用する社員にとってよい労働環境を保つこと
7.楽しみながら。

その後、日本においては、2007年に経済産業省に設置されたソーシャルビジネス研究会によって「社会性」「事業性」「革新性」の3つを満たしているビジネスと定義された。

「社会性」:現在、解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
「事業性」:ミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
「革新性」:新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。

そしてこのソーシャルビジネスに挑戦する起業家は「社会起業家」と呼ばれ、「社会的企業」・「ソーシャルベンチャー」・「ソーシャルエンタープライズ」と呼ばれる事業体(組織の形態もNPO法人・株式会社等を問わない)を運営・経営した。

事業型NPOという選択肢

話しをNPOに戻そう。

そもそもNPO法人は、もともとボランティア組織に法人格を与えるために制度が整備された経緯がある。故に基本的な根底の考えとして良い意味で「自分たちで稼がねばならない」というマインドは薄く「自腹を切ってでも困った人たちを一人でも多く救いたい」というピュアな想いも先行していた部分も否めない。

だが、上述のソーシャルビジネスの潮流もあり、活動を持続可能にしていくため、いつまでも寄付金や補助金に頼るのではなく、自主事業によって経営を行う「事業型NPO」というスタイルも選択肢の一つとして出てきた。

実際に、上記ソーシャルビジネス研究会の2008年の報告書では、ソーシャルビジネスの領域の中に、「事業型NPO」は位置付けられている。

しかし、2015年に、友人の秋元祥治氏が書いた記事を見ると、現実では、そんなに簡単に事業型NPOへ脱皮できない苦悩も垣間見れる。

地方創生/SDGsブームによる大局的なビジネス観の変化

「ソーシャルビジネス」と言えば非常に大きな社会テーマ(貧困・格差・環境等)を扱うイメージがあり、敷居の高い印象があったが、震災・地方創生・SDGsと、社会環境が大きく変化する中、その下位概念として、「地域課題をビジネスで解決」する「コミュニティビジネス」が芽生え始め、各地域にローカルな起業家達が誕生していった。

また下記の記事に見られるように、NPOと企業の連携による成果も出てくるようになってきた。

また、都市部のスタートアップも、2000年代のような「IPOを目指し株主利益を最大化する」発想だけではなく、ESG投資に代表される投資家の多様なニーズも踏まえ、社会課題・地域課題解決を目標する事業も増えてきた印象だ。

NPO法人である意味

このように、一昔前であれば「社会課題解決をするならNPO」だったのが、今ではどの法人格にするかはそんなに重要ではなくなった印象だ。

むしろそのような中、比較的登記手続きが煩雑で時間がかかるNPO法人を選択するには相応の理由・理念、あるいはメリットがあってしかるべきだろうが、それが分かりにくくなってしまっているように見える。

つまりこの記事のタイトルにあるように、時の流れとともに「NPO」というアイデンティティが揺らいでいるように感じるのだ。

大学時代の恩師がよく言っていたのは、

そもそもNPOとは「Non-profit organization」と「◯◯ではない」と否定形で定義されている。いつか「■■である」と言える時代が来る。

ということだった。

仮にこの考えをベースにし、この状況をポジティブに捉えるならば、ある意味NPOというのはいつかその社会的役割を終えるための「つなぎ」的な存在である、とも言えるのかもしれない。

それは「NPOの終わり」を意味するのではなく、これまで培ってきたNPOの「良いDNA」を企業や行政に渡してための始まりでもあり、新しいNPOのアイデンティティの模索始まりとも言えるかもしれないのだ。

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