「やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい」は本当か?(前編)
後悔を2つに分けて比べてみたら
後悔の多い人生を送ってきた。
後悔は「やって後悔」と「やらなくて後悔」の2つに大きく分けられる。
たとえば、告白してふられ、「告白なんてしなければよかった……」というが「やって後悔」。告白しなくて、「もしあのとき告白していれば……」といつまでもひきずってしまうのが「やらなくて後悔」。
昔の漫画は、なかなか告白できないというのが多かったが、最近は──といっても、もう10年以上たつと思うが、告白してふられることをよしとする展開が増えてきた。
たとえば、『思い、思われ、ふり、ふられ』という映画で、高校生の由奈は、ふられるのがわかっていて、好きな男子に告白する。「あのね、わたし、理央くんが好きです」「だから、私をふって」「気持ち、引きずらないように」
で、ふられて、泣くのだが、「それでも告白してよかった」と言う。
告白に限らず、「やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい」という言葉をよく耳にするようになった。
最近見た韓国ドラマでもアメリカのドラマでも、普通にさらっとそういうセリフが出てきた。
元になった心理学の研究
たしか、これの元になった心理学の研究があったはずと思って調べてみたら、あった。
『後悔を好機に変える』(ニール・ローズ 村田光二監訳 ナカニシヤ出版)に載っていた。
K. D. Markman, I. Gavanski, S. ]. Sherman, and M. N. McMullen, “The Mental Simulation of Better and Worse Possible Worlds,” journal of Experimental Social Psychology, 29 (1993): 87-109; Roese, “Functional Basis of Counterfactual Thinking.”
この研究によると、「先週の出来事では、行為後悔の方が非行為後悔よりもわずかに多かった(五三%対四七%)。しかし、人生全体を振り返った出来事では、大きな差が見られ、非行為後悔の方が行為後悔よりも多かった(八四%対一六%)」とのことだ。
つまり、最初の後悔度は、「やって後悔」>「やらなくて後悔」となる。
しかし「やって後悔」のほうは、後悔のレベルが次第に下がっていく。ところが、「やらなくて後悔」のほうは、なかなか下がっていかない。むしろ、増していくこともある。
そして長期的には、「やって後悔」<「やらなくて後悔」と逆転するのだ。
たとえて言うと、「やって後悔」は強火だが、すぐに消え、「やらなくて後悔」はとろ火だが、いつまでも消えない。結果、心の鍋がふきこぼれてしまうのは、「やらなくて後悔」のほうということだ。
平均40歳の人たちを対象に行った別の調査でも、その人たちが心に抱いている後悔は「やったこと」よりも「やらなかったこと」が原因である場合が多い、という結果が出ているそうだ。
そして、オランダ、中国、日本、ロシア、アメリカと、いずれの国でも同じ結果になったとのことで、どうやら国や文化がちがっても、これは共通しているらしい。後悔に関しては同じらしい。
ということは、これは人間の心の法則であり、後悔のない人生を送るためには、「やらなくて後悔」よりも「やって後悔」のほうを選択したほうがいいということなのか?
過去の名言にも、恋愛映画にも
この心理学の研究は1993年のものだが、それよりずっと以前から、同じことを言っていた人たちはいる。
『君主論』で有名なイタリアの政治思想家ニッコロ・マキャベリ(1469〜1527)は、「やらずに悔い改めるよりも、やって悔い改めるほうがよい」と手紙に記しているそうだ。
『トム・ソーヤーの冒険』などで有名なアメリカの作家マーク・トウェイン (1835〜1910)は、「20年後、あなたは、やったことよりもやらなかったことに失望を感じる」という名言を残しているそうだ。
『ジュリエットからの手紙』というアメリカ映画と、『あなたの初恋探します』という韓国映画は、どちらも2010年に製作されているが、この心理学の研究を元にしているわけではなく、実感から作られたものだろう。
『ジュリエットからの手紙』のあらすじを簡単に紹介すると、若い頃にイタリアで、素敵な男性と運命的な出会いをしたイギリス人の女性が、けれども勇気が足りずに、その男性との約束を破って帰国して、別の男性と結婚する。そして、長い時を経て、その初恋の男性を探しにイタリアにやってくる。でも、名前しかわからないので、見つかるのは同姓同名の別人ばかりで……という内容。
『あなたの初恋探します』のほうは、インドで素敵な男性と運命的な出会いをした女性が、勇気が足りずに、その男性との約束を破ってしまう。でも、10年経っても、その初恋の相手のことが忘れられず、新しい恋をすることができない。そして、名前しかわからない、その初恋の相手を探す旅をすることになる。
どちらも「やらなくて後悔」が高まっていったためと言えるだろう。
やっぱり金言?
心理学の研究の結果と、過去の名言と、人々の実感が一致している。
となると、これはやはり、「やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい」は正しい金言ということなのか?
それについて、次回、さらに考えてみたいと思う。
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