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「開かせていただき光栄です」装画制作

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「開かせていただき光栄です」

わたくしは、いまだ『開かせていただき光栄です』を越える装画を、描くことができていない。

早川書房の小塚さんからご連絡いただき。簡単に内容とタイトルを聞いたその瞬間、頭に現れたイメージ、それが『胸を開かれた青年』。「これしかない」と思った。

数ヶ月前から『解剖図のような絵を描こう』と、いくつかラフを描いて進めていた時、まさかそのイメージにリンクする仕事が来るとは思わなかった。けれどまさに、そのイメージが相応しい物語だった。

ラフは2案から3案、編集者さんやデザイナーさんからの希望や提示も含めて、形にして提案します。どれも表紙に相応しい良いものを作るのは当然だけど、不思議と感覚で「こっちが選ばれるだろう」とわかる時がある。この時も強くそう感じた。嘘みたいだけれど確信していた。

編集者の小塚さんと、フラグメントのデザイナー柳川さん。お二人とお会いできる機会があり。確か、文学フリマのイベントに参加した時だった、と記憶しています。その後のお茶会・打ち合わせの席で「このイメージがはどうでしょうか?こういう意味があり、こんなイメージの構成で」と提案。その場でお二人からOKが出た。本当に嬉しかった。(でも他にもう一案描いて提出しています)

物語の中で『一番強く印象に残ったキーワード』その言葉。強調するまでもなく『それ』しかない。『開く』という言葉。そこから連想するものを選んでいく。
→体を切り開く、解剖する
→謎を解き開いていく
→本を開く
→死者と生者の秘密を開く

モチーフ/イメージには、本、手錠、白百合、インクと注射器、手術道具メスがある。生者と、死者の肋骨、溢れる赤い血と青いインクは動脈と静脈。図像学が好きで、絵に入れたいと思う。自分だけの解釈とならないように装画は考慮しているつもりですが、どうだろか。

この作品から装画に対しての意識や、装画の表現と方向性が決まった。そう思えた事、自由に、臆する事なく、悩みすぎる事なく描けたのは、皆川博子さんから「好きに描いてください」と言っていただいたから。その信頼が本当に嬉しく、力となりました。

わたくしの仕事はここまででしたが、実は本当に凄いのはここからです。この本・作品をさらに良いものに仕上げたのは、このお二人です。デザイナーの柳川さんは、物語の中、この時代『そのまま』の表紙とデザインへ作り上げました。そしてさらに、そこに重厚な品格を足す。この絵で、こんなに高級感が出るものなのかと。絵を生かし、さらに良いものに仕上げる。初めてデザイン案見せていただいた時、とても感動した事を、今でも鮮明に覚えてる。そして編集者の小塚さんが作った帯のコピー「開かれたのは、躰、本、謎」という素晴らしさ。

結局、デザイナーさん、編集さんが凄かった。と、納得している気持ちも正直あります。それでも、わたくしにとって、この絵で良かった、これ以外は無かった、と今も思う。

物語、タイトル、デザイン、コピー、絵、書籍という形、全てが一体となり、繋がっている本(作品)。物語の中の本が、手元にあるような。そんな気持ちになるのです。

この本のおかげで、わたくしはようやく装画を描くという事に対して、自信を持てるようになりました。今でもお仕事の依頼の時「『開かせていただき光栄です』の装画を見て依頼しました」という言葉を頂くことが多く、ご縁が繋がっています。

この書籍のお仕事は、色々と奇跡的に上手く重なったものがあり。特別に特殊だったと思います。

全ての書籍のお仕事、良い装画となるよう悩み、努力してきました。いつか、または次に、この装画を越えるものが描けるようになりたい、描けるように頑張ろう、と今日も思い続けてる。

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