今年の振り返りと来年の展望
大晦日。あまり今年の振り返りというものはやらないのだが、元旦に向けての買い出しも終わって多少時間ができたので、今年を振り返るとともに来年の展望をつらつらと書いてみたい。
1.事務所の発展について
昨年4月に1人事務所としてスタートした日本橋知的財産総合事務所であるが、今年は大きな変化があった。創業した当初はどれくらいの新規の仕事の依頼が分からなかったので、最初はミニマム経営を標榜して勤務場所はレンタルオフィス、経費も必要最小限にしていたが、お陰様である程度の仕事の入りが見込めることが分かってきたので今年に入ってからは明確に規模拡大に向けて動きはじめた。
まずはメンバー増員に備えてオフィスを探し始める。制約として地名に「日本橋」が入ることだが、東京駅に近づけば近づくほど家賃が高くなるので、結果的に日本橋茅場町のビルに移転することに。自分が通勤で使う電車が東西線なので東西線沿線を最優先に探したが、日比谷線も通っている茅場町駅から徒歩1分の好立地のオフィスに移転できたのは僥倖であった。
ちなみに、特許事務所の仕事というのは基本的に黙々とデスクワークになるのでメンタルが病みがちになるが、レンタルオフィスでの経験から、執務スペースの狭さはメンタルに悪影響を及ぼすと個人的には思う。新オフィスでは28坪と当時の一人事務所では広すぎるくらいのスペースだが、この広いオフィスはメンタルにだいぶ好影響を与えている。新しく開業される方は、レンタルオフィスを借りる場合でも、ある程度の広さと、窓付きの部屋という条件はメンタルにとって非常に重要であると思う。ちなみに今の28坪の事務所は、一人あたりの執務スペースをだいぶ余裕をもって確保したとしても最大で7人くらいが入ることができる(8人目を入れるときには事務所の移転が必要になってくる)。
事務所メンバーとしては、9月にはパート事務員が入所し、11月、12月にそれぞれ弁理士が加入して年末には4名体制となった。募集はパテントサロンの求人広告、Twitterおよび事務所ウェブサイトだけだったが、これだけの媒体でも多くの方に応募いただき優秀な方にご入所いただけたのは事務所にとって大きなプラスであった。もし応募がなければ人材紹介会社にも当たろうと思っていたけど、この場合は年収の3割くらいが手数料としてかかるので、今回の募集においてほとんど手数料がかからなかった(パテントサロンの5万円のみ)というのも事務所経営にとって大きな助けとなった。
2.知財メンターのお仕事
今年は多くの知財メンターの仕事を引き受けた年でもあった。今年1月〜3月は特許庁I-OPENプロジェクトのSUPPORTER(知財メンター)として、Minimalチョコレートを運営する株式会社βaceの支援を行った。具体的には、ビジネス面のサポーターとして参加した電通の方と一緒にMinimalチョコレートのブランディング戦略を議論したのだが、カカオ豆の生産者を支援するというフェアトレードの考えをどう浸透させるか等、普段の権利化業務では全く考えることのないような斬新な取り組みを経営者の方と一緒に考えるというのは非常に新鮮で勉強になった。
その他、今年の2月頃に1dayメンタリングを行ったということがきっかけで、特許庁IP BASEによるIPAS2022の知財メンターを務めることになった。こちらは現在進行中であるため詳細は書けないが、全9回で半年に亘るプログラムはスタートアップ企業にたいしてじっくりと腰を落ち着けて支援できるのでこちらもとてもやりがいのある取り組みとなっている。その他、縁あって九州経済産業局による福岡のスタートアップ企業に対しても知財メンターとして複数回に亘るメンタリングを行う等、今年は多くのスタートアップ企業、中小企業に対して知財サポートを行う機会に恵まれる年となった。
3.セミナーの講師
コロナ禍に入ってからセミナー講師の仕事はオンラインがほとんどであったが、今年はリアルセミナーの講師を務める機会がぽつぽつと増え始めた。また、全く新しいところからのセミナー講師の依頼が増えたのも今年の特徴かと思う。
東京女子医科大学からは医療機器の開発とAIというテーマをいただき、オンラインセミナーの講師を計3回務めさせていただいた。特にAIは多くの受講者の方にとって関心が大きく、質疑応答も活発であった。医療機器、特に画像処理とAIは親和性が高いので、大学でもこの手の話については関心度が高いと思う。
また、今年新たにいただいたお仕事として、東京都知的財産総合センターの知的財産人材育成スクールで「意匠とデザイン」のテーマで夏に初級コース、冬に上級コースの講師(リアル開催)を務めさせていただいた。こちらは3時間の講義時間のうち約半分の時間帯でグループワークを行うが受講生が4つのグループに分かれて検討を行い、最後に各グループの代表が発表するというスキームにおいて、どのようなテーマだとグループ内の議論が盛り上がるかについてお題づくりに頭を悩ませた。結果として製品そのものを持ち込んで受講生に手にとってもらったのは成功だったと思う。また、上級コースのグループワークは発表内容もレベルが高く、こちらも勉強になる部分があった。
その他、9月には静岡県発明協会 パテント部会にて、また11月には大阪府工業協会・大阪工業大学主催の【2022年度】知的財産研究会にて講演を行う等、出張で現地に移動して講演を行うのは去年までは無かったことだが、オンラインセミナーはオンラインセミナーなりのメリットがあるもののリアルセミナーの良さを再確認した一年であった。
4.インタビュー取材
昨年はToreruメディア、Tokkyo.ai等の文字ベースでのインタビューが多かったが、今年は草野大悟さんのYouTubeチャンネルや知財塾チャンネル等のYouTubeメディア、そしてTwitterスペース「まんまるオモチ」等の音声メディアでインタビューを受ける機会が多かったと思う。それぞれインタビューを受けた時点での自分が考えていることをお話させていただいたが、今になって振り返ってみるとその当時と今現在で自分の考えがだいぶ変わっている部分もあると思う。それでもインタビューを受けるということは自分の頭の中で考えていることを言語化するということでもあり、普段考えていることをあまり整理することはないのでインタビューはこれまでの振り返りという点でも非常にいい機会であった。来年もそのような機会があれば積極的に引き受けていきたいと思う。
5.知財実務オンライン
コロナ禍に入って直後に開始した知財実務オンラインも今年6月で2周年を迎え、2周年記念として様々な企画を行った。第100回に東大の田村教授にご出演いただいたのはラッキーとしか言いようがないが、その田村先生からは知財実務オンラインを高く評価していただき、アカデミア界でも番組を推していただいたのは大きな励みになった(来年1月の第1週、第2週でご出演いただく福井健策先生、伊藤雅浩先生も田村先生の紹介である)。
2周年となった6月には他にも特別編を4つも開催させていただいたが、その中でも印象に残っているのが「スタートアップ経営者と知財をざっくばらんに語る夕べ」である。再生回数はそれほど多くないが、ここまで経営者の本音を引き出した番組もないと思うのでぜひご視聴いただけるとありがたい(このトークセッションの内容は近日中にテキストとしても公開予定である)。
今のところ来年4月末くらいまでゲスト講師の方がほぼ決まっているので、何とか6月の3周年までは頑張って続けたいと思う。
6.来年の展望
色々書いてきたけれど、今年は総じて目標に向けて順調に事が進んだ年だったと思う。来年が事務所そして自分自身にとってどんな年になるかは分からないけど、今年の間に色々種を蒔いたのでそれが花開く年になって欲しいと思う。また、事務所としてもあと1、2名くらい増員したいところであるが、それは新しい仕事の入りとも密接に関係してくるので、そのあたりは仕事の状況も見ながら判断していきたい。とにもかくにも、来年も今年のいい流れを引き継いで大きなトラブルのない年にしていきたいと思う。
それでは皆様、よいお年を。(2022.12.31 自宅リビングにて)