(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。⑫ピースワンコの「ふるさと納税」、佐賀県方式がルーツ
ここで再びNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)代表理事の大西健丞氏の著書「世界が、それを許さない。」(2017年、岩波書店)からの紹介です。
PWJと「ふるさと納税」の出会いについてです。佐賀県の制度にルーツがありました。
2014年ごろ、大西夫妻が「婦唱夫随」(?)で推進したPWJによる捨て犬保護事業は、犬舎の建設やトレーナー養成などに年間1億円程度お金がかかるようになっていたそうです。
それに見合う寄付が集まらず、「自己資金持ち出し」というかたちでやりくりしていたということです。
そこへファンドレイザー、寄付金などの集め方に詳しい専門家として、ファンドレックス(東京都港区)社長の鵜尾雅隆氏が登場します。大西氏は彼から「ふるさと納税で集まったお金をNPOに回して応援する佐賀県の仕組みを採用してはどうか」という提案を受けました。
「県が5%の手数料をとりますが、95%はNPOやNGOが公益的な活動に使える制度です。これを神石高原町でもできるようにしたらどうかというのです」
鵜尾氏は佐賀県庁にCVO(市民社会組織)と行政の協働についてコンサルティングをしていたようです。
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00331962/3_31962_112213_up_cr6545b8.pdf
大西氏はさっそく神石高原町とかけあって、ふるさと納税の寄付をNPOも使えるように条例を改正してもらいました。
そして、2014年10月、ふるさと納税専門のサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京都目黒区)の須永珠代社長のもとへ、鵜尾社長とピースワンコ責任者だった大西純子氏(大西健丞氏の夫人)が会いに行き、1億円を集めるキャンペーンを始めることになりました。
「犬の殺処分ゼロへ!」というキャンペーンです。
須永社長は、ピースワンコのコーナーが「サイトの目立つところに出るように、ずっと配慮してくれました」ということです。
少しこわい気もしますが、そんな操作も意のまま、簡単にできてしまうのです。ふるさと納税仲介サイトは手数料を稼ぐ民間ビジネスです。話題性がありそうなものを目立たせて売り上げを増やす感覚でしょう。
PWJの側もそれを十分に意識しています。2016年度事業報告書にはこんな記載があります。
「資金調達では、緊急支援時の迅速な寄付の呼びかけに引き続き注力したほか、特に訴求力の高い犬の保護事業については、ふるさと納税、サポーター制度による寄付の拡大に努めた」
広島県内の殺処分対象の犬を全頭引き取ると4月に宣言した2016年には、ふるさと納税で5億円もの寄付が集まるようになりました。それはPWJの国内事業部門にとって大きな収入源になりました。
それは「殺処分ゼロ」を継続するための重圧にもなっています。2016年4月以降、PWJ/ピースワンコが「ゼロ」を途切れさせまいと、かなりの無理をして野犬などを引き取っていきました。
2016年度事業報告書がいう「訴求力」を失うことを恐れたからだと私は思います。
2018年、狂犬病予防法違反や動物愛護管理法違反容疑で広島県警がピースワンコを捜査し、大西夫妻ら幹部を書類送検(のちに不起訴)したことはまだ記憶に新しいところです。
受け入れる環境が十分に整っていないのに「ゼロ」を維持する、ある種の背伸びは、PWJの動物愛護部門である「ピースワンコ」が狂犬病予防法違反など法令違反もしくは違反が疑われる行為を繰り返す原因の一つにもなったのではないかと思われるのです。
ちなみに、現在は広島県動物愛護センターがPWJ以外の愛護団体への譲渡を増やし、PWJ側も引き取り頭数を抑制しているようです。PWJが2016年に宣言した殺処分「ゼロ」は、実際は県の依頼でほかの愛護団体が犬を引き取って新しい飼い主を探すという形で成り立っています。
いわばPWJが殺処分対象の犬を全頭引き取るという「背伸び」を続けて、法令違反という「失敗」を繰り返さないよう県が「尻ぬぐい」をし、それを手伝うよう頼まれている愛護団体があるのです。
白羽の矢が立ったのは滋賀県に本部があるNPO法人動物愛護団体エンジェルズ(林俊彦代表)です。
昨年6月にPWJが広島県警から書類送検されたとき、県副知事の指示でエンジェルズへの譲渡拡大方針が決まったことは、県が情報公開した行政文書で確認できます。
エンジェルズは過去8年間で3千頭強の犬を広島県動物愛護センターなど同県内の愛護センターから引き取っています。9割近い譲渡率を考えると、譲渡が進まずに収容犬を増やし続けているPWJ/ピースワンコよりも実績は上という見方さえできます。
不妊去勢の不徹底などPWJの活動に批判的なエンジェルズは、広島県のPWJに対する指導が緩すぎることに疑問を抱いていて、「尻ぬぐい役」をいつ降りてもおかしくない状況です。
それでもいまのところは曲がりなりにも広島県の「殺処分ゼロ」は続いていて、「殺処分ゼロ」に果たす役割が突出して大きいというわけでもないのに、多額の広告宣伝費を投じて寄付を募るPWJに寄付は集まり続けています。
ピースワンコの寄付集めに成功したPWJは、瀬戸内海の離島、豊島(とよしま、愛媛県上島町)でのアートによる地域振興など地域創生事業でも「ふるさと納税」の寄付を募るようになりましたが、ワンコのようには集まりません。
前にも紹介したようにNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF、神石高原町、大西健丞理事長)は、地元神石高原町でのふるさと納税を使った事業を休止していますし、愛媛県上島町に所有していたゲストハウスも2018年度中に会計上は処分しています。
ピースワンコのほうは人手不足で、寄付金が集まってもそれを十分に使いきれない状態が続き、余剰金が預金として溜まり続けているもようです。
他方、地域創生部門は事業自体も不振で赤字を垂れ流しています。PWJの借入金が膨張し、旧村上ファンドの村上世彰ファミリーの会社にお金を借りる原因になっているのです。
「ふるさと納税」をあてにして安易に事業を始めてしまうと、SAPFのような道をたどってしまうかもしれませんね。
ところで、ピースワンコへのふるさと納税の最近の様子はどうなっているのでしょう。狂犬病予防違反などによる書類送検でかなりのイメージダウンになりましたが、2019年も4月5日から12月31日までの間に5億円を集める計画を立てています。
残り50日という今の時点で、達成率27%あまりなのは少し気がかりですが、看板を貸している神石高原町は楽観的でした。「これからが本番」というわけです。
ボーナス支給など個人のふところがあたたかくなるこの年末年始がふるさと納税の書き入れ時で、担当課の職員は事務処理に大わらわとなるそうです。
町役場がPWJに渡すふるさと納税の寄付金をもとにした交付金を月別に集計すると、グラフ(2018年度)のようになります。
確かに12月だけで2億円集まっています。2018年度も10月末までは総額の17%程度でした。現在PWJ/ピースワンコが募集する2019年度のふるさと納税を12月末以降延長するのであれば、神石高原町の見方も決して「甘い」とは言えないのかもしれません。
集めるだけ集めて、ピースワンコが過去からずっと積みあげてきた余剰金を今後、どんな風に使っていく予定なのか、その情報開示は十分ではありません。金額が大きい割に事業計画は細かく公開されておらず、寄付金集めの看板を貸す町役場も実態を詳しくつかんでいないのです。
毎月何頭を引き取って、何頭が譲渡されているのか。これまでに引き取った頭数のうち、不幸にして収容中に死んでしまったワンコたちはどのくらいいたのか。「ふるさとチョイス」のサイトで公開されている情報は古い時点のものが目立ちます。
ふるさと納税によるNPO支援のモデルとなった佐賀県の場合、認定団体に対して県が調査、指導できる権限を要綱で定めています。
PWJの資金調達に看板を貸している神石高原町や愛媛県上島町は。せめて佐賀県のように調査・指導権限をしっかり確認しておく必要があります。寄付者に対する情報開示やお金の使い方の適正化を指導できることでしょう。
お金を集める方法ばかりではなく、使ったあとの報告の仕方、行政によるチェックの仕方もしっかり先進地から学んで欲しいですね。
このシリーズは12回目でいったん終了です。お読みいただきありがとうございます。
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